J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年01月号

KEYWORD 6 リベラルアーツ教育の具体策

海外とビジネスを行う、グローバル人材の育成策の中で、特に受講者に身につけてもらうのが難しいのが「教養・リベラルアーツ」だろう。
具体的にどのように学んでもらえば、教養は身につくのだろうか。
そこで、2013年からリベラルアーツ教育を導入し、注力しているトヨタグループの総合商社、豊田通商の人事部人材開発グループ・グループリーダー田中伸行氏に、リベラルアーツ教育の重要性や、具体的な施策について伺った。

田中伸行 氏 人事部 人材開発グループ グループリーダー

豊田通商
1948年設立。トヨタグループ唯一の商社として、1980 ~ 90年代にかけて海外進出を強化し、自動車関連事業を主軸に成長を遂げる。2000年に加商、2006年にトーメンと合併。自動車以外にもインフラ分野や化学品分野、食料分野など事業領域を大きく拡大、現在に至る。資本金:649億3600万円(2014年3月末日時点)、連結売上高:7兆7432億3700万円(2014年3月期)、従業員数(単体):3683名(2014年3月末日時点、出向者を含み、受入出向者を除く)

[取材・文・写真]=赤堀たか子

国際ビジネスに必要な“教養”

企業の人材育成のプログラムというと、MBAに代表される経営に直接つながるものがほとんどだろう。当社ではそうした教育ももちろん行っているが、これに加え、リベラルアーツ教育を幹部育成や階層別教育に導入している。

リベラルアーツとは、宗教や哲学、文学、歴史、芸術など人文科学分野の学問で、企業経営には直接関係がないと一見思われがちな“教養”である。その“教養”を当社が重視する理由は、いくつかある。

1つは、グローバルなビジネスにおいて良好なパートナーシップを築くうえで非常に重要になるためだ。

当社は、トヨタ自動車グループの企業ということもあり、現在、自動車関連のビジネスが収益の6 割を占めている。しかし、自動車への依存度を下げるため、2015年までに自動車以外のビジネスの割合を5 割まで拡大することをめざした「VISION 2015」を掲げてきた。

この目標の達成が視野に入ってきたことから、事業領域を「モビリティ」(次代の自動車の進化に貢献する事業)、「アース&リソース」(地球課題の解決に貢献する事業)、「ライフ&コミュニティ」(生活環境の向上に貢献する事業)に再編し、2020 年度までにこれら3領域の収益比率を同等にするという戦略「TRY1」を新たに打ち出している。

新分野に進出する際、当社では、その分野の経験や知識が豊富な企業とパートナーシップを結び、事業を展開する戦略をとっている。一流のパートナーを選んで組むのだが、海外の一流企業や公的機関の幹部は経営の知識やスキルだけでなく、教養も豊かな人が多い。したがって彼らと互角に渡り合うには、こちらも相応の教養や品格を備えていなければならず、リベラルアーツ教育が不可欠になるのだ。

さらに、そうした表層的な面だけではなく、ビジネスパートナーと真の信頼関係を築くうえでも、リベラルアーツは重要になる。信頼される人間になるためには、一人ひとりが自身の判断の軸を確立することが重要だ。

そしてその軸の確立には、自身のアイデンティティの土台となる、日本や日本人について深く理解することが必要になることから、日本の歴史や文化、哲学などを学ぶことが欠かせない。

ナショナルスタッフ向け研修も

もう1つ、海外事業所の社員(ナショナルスタッフ、以下NS)の育成の観点からも、リベラルアーツ教育は重要になる。

当社では、これまで海外の拠点も、トップとマネジャー層は日本人が務めてきた。しかし今後はさらに現地化を加速させる。現在20 名程度の部門長クラスのNSマネジャーを、大幅に増員することを検討している。

日本企業の現地法人のマネジャーとしての役割を果たすには、現地の事情に通じていることに加え、日本人の考え方を理解できることも欠かせない。そのためにはNS向けに、日本人の考え方の背景にある文化、歴史といったものを知る教育プログラムも必要となるのである。

さらに、企業が成長し続けるには、イノベーションが欠かせないが、イノベーションの創出にも、社会に対する教養や問題意識や、教養を土台とした個々人の価値観などがカギになるだろう。

そこで当社では2013 年より、事業柄もあり、世界の人々の多様な考え方や価値観を学ぶために、入社7年目までの社員全員を海外に派遣することにした。

しかしこれだけでは、異なる文化を“知る”経験にはなっても、異なる文化の背景にある考え方や、それが生まれた歴史などをずっと学び続けることにはなかなかつながらない。

そこで、主体的な学びのきっかけになるよう、リベラルアーツ教育を人材育成プログラムの中に織り込むことにしたのだ。

具体的にはどう学ぶのか

●部長クラス:海外の大学での授業、文化イベントで学ぶ

最初は2013 年度。グローバルリーダー育成プログラム「GALP」(GlobalAdvanced Leadership Program)の一部にリベラルアーツを組み込んだ(図1)。

GALPとは、階層ごとに設けたグローバル社員育成プログラムの最も上の層を対象にしたもの。部長クラスから日本人社員10名、NS10名の計20名を選抜し、将来のグローバルリーダーに必要な知識と教養を身につけさせるのがその目的である。期間は8カ月で、早稲田大学(日本)、シンガポール国立大学(シンガポール)、ケンブリッジ大学(イギリス)の各大学での約1週間ずつ行う「集中セッション」と、チーム単位で会社に対する経営提言をまとめる「アクションラーニング」とで構成されている(注:シンガポール国立大学での研修は2014 年から導入)。

この3つの大学での集中セッションの中に、戦略やファイナンスなどの講座、リーダーシップのワークショップに加え、リベラルアーツの講座を導入したのである。

リベラルアーツと一口に言っても、対象となる分野は幅広いため、提携する大学のコーディネーターの先生と議論をしながら、当社独自のプログラムをつくり上げている。

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