J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年01月号

KEYWORD 2 人事とビッグデータ

今、話題の「ビッグデータ」は、人事の世界にも新しいデータ活用の可能性をもたらすのでは、と期待が高まっている。
人事・人材教育分野におけるデータ活用はどう変わるのか。
慶應義塾大学ビジネス・スクールにて「人事・教育分野でのビッグデータ分析」研究を行う岩本隆氏に聞いた。

岩本 隆( いわもと たかし)氏
慶應義塾大学
大学院経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。

[取材・文]=井上佐保子 [写真]=編集部

人事分野のビッグデータとは

「ビッグデータ」と聞くと、ショッピングサイトの購入履歴やエントリー履歴、GPSの位置情報などの大量データを想起する人が多いかもしれない。だが、その活用範囲は、一見無縁に思われる人事分野にも及んでいる。

というのも、「ビッグデータ分析」は、データベース同士の関連づけや、テキストデータなどの非構造化データの分析などを可能にした。そのため、給与、勤怠管理、研修受講履歴などデータベースが分かれて存在し、従業員への聞き取り結果などテキストデータが多い人事関連データの分析にも活用が期待できるからだ。

米国では、10年ほど前から人事分野においてICTを活用する動きが起きている。注目すべきはこの数年で急拡大しているタレントマネジメントツールの登場だ。タレントマネジメントツールとは、給与、勤怠、配属、職歴、評価、スキル、コンピテンシー、教育履歴などさまざまな人事データをワンストップで管理し、効果的な人材活用につなげるシステムを指す。「サクセスファクターズ」や「タレオ」などのタレントマネジメントツールを開発したベンチャー各社は、次々と大手企業に買収され、急激に事業展開を進めている。

日本でも2013 年あたりからこれらのタレントマネジメントツールの提供が始まったが、日本と欧米の人事上の慣習や評価指標の違いなどもあり、まだ広く普及する段階には至っていないようだ。しかし現在、いくつかの日本企業もタレントマネジメントツールの開発に着手しており、今後は人事とICTとを融合したビジネスの動きが進むと見ている。

経営視点で人事データを分析

さて、「ビッグデータ分析」を、今まであまり活用されてこなかった人事・教育データに応用することで、どのようなことができるのだろうか。

端的に言えば、経営から見た人事のさまざまな課題を統計学的に整理できるようになる、ということになろう。

これまで、人材マネジメント分野では、定性的な検証が中心で、定量的なデータ分析が用いられることはあまり多くなかった。そこに定量的な「ビッグデータ分析」を活用することで、統計学的に検証されたマネジメントのあり方を提示することができるというわけだ。

例えば、何となく「離職率が高いのは給与が低いせいだ」と考えられていたものが、離職に関する調査について統計学的なデータ分析を行うことで、「実は給与よりも成長実感や人間関係のほうが離職との相関が高かった」といったことが判明したりすれば、マネジメントにおける新たな視座を提供することができる。

慶應義塾大学ビジネス・スクールには統計学研究室があり、経営の視点から統計解析ができる環境が整っていることから、2013年より「人事・教育分野でのビッグデータ分析」による研究を開始。以来、毎日のようにさまざまな企業から委託研究やデータ分析の依頼が持ち込まれている。

実際にこうした委託研究、データ分析を進める中で、今まで「定性的に正しい」と思われていたことが、「定量的にも正しい」と裏づけがなされたり、その逆に、分析してみると統計学的には何の相関もないことがわかったりと、次々と新たな知見が生まれてきており、人事分野でのビッグデータ分析や統計解析の可能性を大いに感じているところだ。

人事データの新しい活用法

では、実際に人事データを統計学的に解析することで、どんなことがわかるのだろうか。以下、いくつかの事例を紹介していこう。

●従業員満足度調査

我々が依頼を受けたあるメーカーでは、毎年、人事部門が「従業員満足度調査」として約70 項目のアンケートを実施。調査結果は、項目別に平均点を出し、「今年は昨年より3.5ポイント高くなりました」といった形で経営層に報告していた。

我々はこの調査結果を統計分析にかけ、約70 項目を構造化し、その因果関係を定量的に見られるようにした。すると、企業満足度に寄与しているのは、「経営陣への信頼」よりも「職場の人間関係」や「仕事への満足感」である、など、調査結果から具体的な組織課題を洗い出し、経営施策策定につながる分析結果を得ることができた(図1)。

また、部門ごとに満足度を下げている項目を見える化することで、「この部署では上司満足度の中で、悩み相談に対する不満度が高いから上司にコーチングスキルを身につけてもらってはどうか」など、部門ごとの課題を抽出し、具体的な対策を考える際の参考にすることも可能になった。

●360度評価

「360度評価」において、数値評価を行うことには問題点も多い。例えば、仕事上のつながりが強い人が5段階評価の「5:とても仕事ができる」と評価する場合も、仕事上のつながりが弱い人が「5:とても仕事ができる」と評価する場合も、分析する際は同じ重みでカウントされてしまう。また、その評価は、人によってブレが出やすい、といった問題もある。

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