J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年11月号

Opinion 2 経験の捉え直しと言語化による 管理職の“学び”

組織を牽引する既任管理職が学び続けることは、企業の成長に直結する。しかし、管理職ともなると忙しく、研修の機会も減る。こうした中で、どのように学ぶことができるのか。管理職の学びを研究してきた近畿大学経営学部の谷口智彦准教授は、管理職なら誰しもが持つ経験を意識的に捉え、言語化する工夫の中で、学びの質を高めることができるという。管理職が学び続けることの重要性と、その方法について聞いた。

谷口 智彦(たにぐち・ともひこ)氏
近畿大学経営学部 キャリア・マネジメント学科 准教授
1973年大阪府生まれ。1998年、神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了後、日本たばこ産業入社。人事部、経営企画部などを経て、在職中の2005年に神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。2010年より現職。著書に『マネジャーのキャリアと学習』(白桃書房)、『「見どころのある部下」支援法』(プレジデント社)他。

取材・文・写真/石原 野恵

「効率」と「変化」企業での2通りの学び

管理職、特に既任管理職となると、会社から学ぶ機会を提供されることは少なくなりがちだ。さらに、ピラミッド型の組織形態では、部長職や課長職から経営層になるのはほんの一握りの人材だろう。若手の時と違って、管理職ともなれば自分がこの先どう進むのかもある程度見えている。こうした状況下でも学習し、成長し続ける意欲を保つことは容易ではない。それでも私は、管理職になっても、学び、成長することはできると考えている。企業組織における“学び”には2通りある。1つは、業務を効率化するための学び。企業の目的は、合理的に業務を進め利益を上げることにある。したがって従業員は、管理職も一般職も全員が知識やスキルを増やし、自分の業務を効率化する方法を学ばなくてはならない。この効率化するための学びは、仕事をしながら自然と習得している。上司や同僚の仕事ぶりを見て真似ることや、経験を重ねることによって、誰でも次第に効率的な仕事パターンを身につけていくものだろう。ところが、このようにして効率化する学びだけを続けていると、ある時必ず成長が止まってしまう。そこで管理職に求められるのが、「(パターンを)変えるための学び」である。たとえば人事異動を命じられた時や新たな業務が付与された時などの転換期が良いきっかけになる。これまで自分が学んできたやり方が通用しない事態に遭遇し、習慣化したパターンを変えなくてはいけなくなる時が必ずやってくるのだ。豊富な経験を重ねた管理職は、「効率化のための学び」のベテラン。ただし、それに慣れてしまい、かえって「変えるための学び」が妨げられているのではないだろうか。

なぜ管理職は変わることを学ぶべきか

現在は、新しい市場、新しい戦略、新しい視点と、常に変化が求められている時代だといえる。こうした状況の中、管理職も従来と同じやり方で成長していけるのであれば問題ないが、それは望めない。管理職自らが変化し学び続けない限り、自分にも会社にも将来的なパフォーマンス向上は期待できない。また、部下は上司の背中を見て学んでいくもの。管理職層が成長し続けないと、部下も伸びない。では、どうすれば変わることを学べるのだろうか。それには何も、忙しい日常業務の最中に何か新しいことを始める必要はない。一定年数企業で働いてきた管理職であれば、必ず学びのポイントとなる有効な経験を1つや2つしているはずだ。これらの経験を振り返り、意味づけすることで、学びの質を高めていくことが可能になる。

経験を正しく捉え学びの質を高める

恩師である神戸大学の金井壽宏教授、筆者他複数の研究者は、企業の管理職以上を対象に、マネジャーはこれまでどういった経験から何を学んできたかというデータを集約し、研究してきた。その結果、マネジャーが跳躍的に変わることを学んだという経験が、複数の企業にわたって共通して存在していることが明らかになった。これらの経験は「一皮むけた経験」と呼ばれている。その経験群は、大きく「仕事」「対人関係」「それ以外(研修、個人的経験など)」の3つに分けられる。最も多いのが「仕事」で、全体の7割前後を占めるといわれる。さらに仕事の中でも、「ゼロからのスタート」、「立て直し」、「プロジェクト」、「人事異動」という4つが代表的なポイントだ。それぞれの経験でどのような学びがあるかについては図表1を参照してほしい。いずれにせよ、新たな仕事で得た視野や他者との関係を構築した経験を通して学んだという点が共通している。大切なのは、日常業務の中で直面するこれらの経験に際して、マネジャー自身が自覚的になることである。たとえば、人事異動の辞令がおりた時や新しいプロジェクトにアサインされた時、マネジャー自身が「今、この経験は変わることを学ぶ好機なのだな」と意識することによって、その学びの質は大きく高まる。その時に、人事・人材開発担当者がマネジャーに対し、「この経験は学ぶチャンス。しっかり活かしてほしい」ときちんと伝えることも効果的だろう。経験別の研修のような場を設けるのでもかまわない。ただ上司(会社)からいわれたからと渋々引き受けるのではなく、マネジャー自身が自覚的にその経験を学びの機会として捉えることが最重要だ。

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