J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年12月号

論壇 生き残る人と組織とは 事業継続計画と組織・人事マネジメント

次々と事業の継続を揺さぶられる事態が日本を襲う昨今、事業継続計画(BCP)とそのマネジメント(BCM)に注目が集まっている。リスクに直面した際、すばやく対処できる組織とは、どんな組織でありその構成員はどんな人材だろうか。「生き残る組織づくり」に必要なこととは。

森田 進(もりた・すすむ)氏
立教大学卒業後、ソニーなどに勤務。平成8年にストラテジック・リサーチ創設、代表取締役に就任。以来、企業・自治体のリスクマネジメント、BCP/BCM、サステナビリティ経営、CSR、人材開発、IT活用経営等に関するリサーチ&コンサルティング活動に取り組む。

突きつけられた事業継続計画の重要性

東日本大震災と原発事故、ソニーの顧客情報流出事件、三菱重工業やIHIに対するターゲット型セキュリティアタック、さらに欧州ソブリン債券危機など深刻度を深める国際的な金融危機――企業存続にかかわる環境は悪化の一途を辿っている。本稿では、こうしたさまざまな経営・事業運営リスクに対して迅速かつ組織立った対処を行い、重要事業を再開させることを目的とした事業継続計画(BCP:Business continuityPlan)と組織マネジメントとの関係に焦点を合わせて、現状・課題を解説することにする。私は20数年に渡って企業・自治体の経営・マネジメントのあり方を研究してきたが、ここ数か月、これまで踏襲してきた経営やマネジメントのあり方を根本から見直すこと、また、リスクや事業継続性に対する意識を大きく変えていくことの必要性をひしひしと感じている。ここ数十年、とりわけあまり大きなリスクに見舞われることのなかった日本(企業)は、リスクに対するアンテナが鈍りかけていたかもしれないが、リーマンショック以降の数年、世界には波状的にさまざまなリスクが押し寄せており、産業構造、都市、企業組織が複雑化・巨大化している現在では、我が国の企業にも決して無縁なことではない。いざという時に対処能力がないと、さらに輪をかけて大きなリスクを呼び寄せ、取り返しのつかない事態を起こしかねないことを、企業組織の構成員は皆、自覚すべき時期に来ている。現代経営学あるいはマネジメントの“発明者”と称賛される経営学者・社会学者、ピーター・F・ドラッカーは、企業利潤極大化の目的に代わって企業の生存こそが企業の自己目的であるとする「企業生存説(theoryof corporate survival)」を唱えた人物としても知られている。このコンセプトは、BCPを深い次元で理解する時に改めて想い起こさせる。20世紀後半に支配的であった重厚長大の産業経済社会と異なり、企業間の取引や社会に対する責任(広い意味でのCSR)が厳しく問われる現代においては、ドラッカーが主張した「企業が生存するためには、その生存に致命的な影響を与える各種領域ごとに一定の目標を設定し、この維持に最低限、必要な成果を確保することが重要」という原則に立ち返り、その意味を噛みしめる必要があろう。東日本大震災直後のサプライチェーン危機もそうだったが、経済・金融・市場の危機、あるいは食糧危機はいずれも国境をまたいで相互に深い影響を与える。したがって、いざ非常事態に遭遇し、いったん会社のシステムが止まってしまえば、会社の活動はその時点から全てストップする。また、それだけではない。一時的にせよ取引先との継続的関係に支障をきたしてしまうと、取引先にも大きな影響を及ぼす。関係各社は少しでも影響を避けるための代替策を一斉に検討し始め、事業継続性の根幹である流通システム、あるいは信頼関係そのものが不安定なものとなってしまう。心臓血管のバイパス手術ではないが、今日の市場経済状況下では、一度、事業継続性のコンテクストに乱れが生じると、その後の復旧措置に対する負担が加わり、予想もしない事態を招く結果となる。したがって、BCPは単なる付け焼刃的な“防災・危機管理のマニュアル”では意味をなさない。大変な作業ではあるが、生産・営業活動の低下や事業(業務)の継続に支障をきたしかねない複雑かつ多義的な要因を改めて具体的に検証し、その運用から継続的な見直しまでの管理プロセス全体にわたるマネジメントシステムとして整備していく必要がある。

組織的かつ継続的な対話・議論が不可欠

BCPの基本的な考え方は「原因となる災害・リスクの種類を問わず事業継続を重視し備える」というものである。この“原因となる災害・リスクの種類を問わず”という文言に特に注目したい。これは、BCPとは防災対策に限定されるものではなしに、広範かつ潜在的・多様なリスクに備えるという、より広い概念を示したものということである。単なる危機管理より長期的視野に立った概念だ。ドラッカー流にいうならば、社会的責任意識が希薄であったり、リスク回避の組織体質であるのならば、まずそうした組織体質・文化から改めていかなければならない。そのため、BCM(BCPを継続するために必要なマネジメント)で対象とするテーマとは、たとえばY2K(2000年問題)のようにあらかじめ想定・特定された事象に対する対蹠的な計画ではない。また、一度作成したらトレーニングの時だけ持ち出すプログラムでもない。つまりBCMとは“緊急時においても業務を継続する”ための体制であり、あらかじめ多様で多義的、複雑で不確実なリスクに備えるための組織体制づくりである。同時に継続的な態勢整備に焦点を当てていかなければならない。形式的なものではなく、実効性に重きを置いた管理の仕組みとなるべきものなのである。社会システム理論のルーマン社会学(ニコラス・ルーマン)を研究している西南学院大学の毛利康俊教授(法システム、法価値論)は、論文『リスク社会における科学評価のための法制度設計をめぐって』にて、リスクの多義性・複雑性、不確実性について論じており、そのためのリスクマネジメントの方策を、以下のように論じている(図表1)。

1.「リスクの複雑性」に対しては、因果関係と効果的な手段についての合意が必要かつ有効である2.「リスクの不確実性」に対しては、交渉を経てのルール策定や代替手段の発展が必要かつ有効である3.「リスクの多義性」に対しては、コンセンサスをめざす議論や、社会的に受け入れ可能な発展の経路探索が必要かつ有効である

こうした考え方に依拠し、改めてBCPのあり方を点検してみると、まだまだ一般的にBCPに対する取り組みは防災に偏ったもので表面的であり、“組織としての実効性ある体制づくり”や“リスク認識”に甘さがあるような気がしてならない。本稿では全てを取り上げて論じることは難しい。しかし、たとえば上記③の趣旨に沿って提言するならば、BCMのための組織的かつ継続的な対話・議論が不可欠であり、それには業務やサービスの停止により影響を被るステークホルダーに対するコミュニケーションのあり方、メッセージ伝達のあり方を経営的な観点で認識しておく必要がある。いいかえれば、事業・業務の復旧態勢や継続維持は、自社や社員、あるいは社内の内部統制のためだけではない。BCPのプログラムを定めることは、社会や顧客、取引先、株主などのステークホルダーに対する責任を果たすことでもあるのである。そして、事業継続のための一連の処理は、経営者、業務部門、情報システム部門、CSR部門などが組織ぐるみで取り組まない限りできないことばかりである。常に、関連システムの自動的な移管・切り替えが実行可能かどうかの検証が必要になる。またBCMのプログラム作成後も、PDCA(計画・実行・検証・見直し)を回し、より現実的なものに修正して仕組みを定着させていくことが必要である。

どういう態勢でどう対応するのか

ここまでの説明で、「BCM」は個別のリスクや災害などに対する一過性の対処的な計画・管理ではなく、組織ぐるみで体系立った継続的なマネジメントであることがご理解いただけたと思う。それを前提にしつつ、BCPに関する取り組みのフェーズや態勢について考えていきたい。最初のフェーズでは、リスク対象の分析・洗い出しや、具体的なリスク軽減策を検討することから着手する。その際の検討テーマには、基幹業務に関するビジネス・プロセス維持や常時・非常時の要員・設備配置、ディザスタリカバリ(Disaster Recovery:被害からの回復・予防措置)の計画と実装、業務回復・業務再開計画の意思決定、情報セキュリティの実装と周知徹底などが含まれる。また、非常時の緊急招集や連絡体制、同じく施設維持管理等々も職務対象となる。そしてこれらすべての職務が、1.経営者との密な連携、2.他部門との連携によって初めて可能となる。したがって、リスクマネジメントの総括責任者(CRO)やBCPの総責任者がカバーすべき責任範囲はとても広く複雑であり、調整すべき業務課題は多岐にわたっている。兼任業務で済ませようと思えば不可能なことではないが、少なくとも事業継続管理者の中心的役割を、経営管理層から各部門の管理層が十分に認識し、関連業務との連携を図りながら進める必要がある。また、図表3のように、BCMを組織階層として見た場合には、1「時系列で区分したチーム(もしくはプロジェクト)編成」の視点2「役割・責任分担」の視点があることが重要なポイントである。以下それぞれについて述べよう。

1(時系列区分)の視点でBCM組織を見る時には、事業部別に設置される1.予防対策チーム2.緊急時対応アドホック編成チーム

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