J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年12月号

酒井穣のちょっぴり経営学 第11回 画期的なイノベーションが起こりにくい理由

ここまで、リーダーシップやマーケティング、会計、ファイナンスなど、戦略を考える際や会社の状況把握に役立つ基礎知識について見てきた。今回は、持続的な企業経営を考えるうえで重要な「イノベーション」を取り上げる。イノベーションとはどういったものなのか、またその性質について整理して見てみよう。

酒井 穣(さかい・じょう)氏
フリービット取締役(人事担当/長期戦略リサーチ担当)。慶應義塾大学理工学部卒。TiasNimbasビジネススクールMBA首席。商社勤務の後、オランダの精密械メーカーに転職。2006年にオランダでITベンチャーを創業しCFO就任。2009年4月に帰国し現職。近著に『これからの思考の教科書』(ビジネス社)、『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(光文社)がある。人材育成メルマガ『人材育成を考える』(無料)を毎週発行している。http://www.mag2.com/m/0001127971.html

経営学とイノベーション

今回は「イノベーション」について。経営活動にとってイノベーションは、その根幹を成す、最も重要な概念です。イノベーションは日本語だと「技術的な革新」と理解されることが多いのですが、経営学的には、もっと広い概念なので注意が必要です。イノベーション(innovation)の語源とされるのは、ラテン語の「innovatio(=in+nova)」。「新しいもの(nova)を内側(in)に取り入れる」というのが本来の意味です。つまり、経営学においてイノベーションを考えるということは、技術的なことに限らず、ビジネスモデルなども含めて「新しいものを生み出していく力」について理解しようとすることなのです。

イノベーションの定義

イノベーションの定義としては、大きく2つのものを理解しておく必要があります。1つは、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによる「不断に古いものを破壊し、新しいものを創造して、たえず内部から経済構造を革命化していく産業上の突然変異」という定義です。これは、イノベーションを「創造的な破壊」として捉えるモデルで、イノベーションに対する一般の理解とも合致するところが多い考え方でしょう。もう1つは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターによる「イノベーションの多くは、大きな技術革新ではなく、むしろ小さな改善の積み重ね、途切れることのないアップグレードである」というものです。こちらは、気がつけばすごいことになっていた、というように、イノベーションを「持続的な改善」として捉えるモデルで、俗に、日本が得意とするモデルといわれます。

イノベーションのジレンマ理論

持続的な改善(持続的イノベーション)は、いつか、創造的な破壊(破壊的イノベーション)によって駆逐されてしまうことになります。この関係性を明らかにしたのが、アメリカの経営学者クレイトン・クリステンセンです。彼が提唱する「イノベーションのジレンマ」という理論は、誰もが一度は理解しておくべき重要なものです。これを、デジタルカメラの登場とフィルムカメラの終焉を例として考えてみます。フィルムカメラは、どうして市場から姿を消したのでしょうか?まず、市場には「最低品質でも良い」という層(Low-end市場)と、「高品質でないと嫌」という層(Highend市場)が存在します。これは、市場のニーズには「幅」があることを示しているでしょう。こうした市場のニーズを満たそうと、企業は自分たちの商品の品質を持続的イノベーションによって高めていきます。問題なのは、こうした企業による努力は、市場の目が徐々に厳しくなっていく速度よりもずっと速く、品質を向上させていくという点です。そうした商品は、いつしか、High-end市場に求められる品質すら上回り「過剰品質」を提供するようになります(図表1)。

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