J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年04月号

連載 人材教育最前線 プロフェッショナル編 自律的に学ぶ仕組みを整備し、個人の強みが発揮できる組織を創る

1988年、米ロサンゼルスで創業したトレンドマイクロ。翌1989年の設立から、「日本発の多国籍企業」として着実に成長を続けてきた。コンピュータウイルス対策ソフトは、法人向け、個人向け共に日本国内でのシェア、ナンバー1を誇り、世界市場でも、トップクラスに躍進している同社。事業拡大を支える人材の育成に携わっているのが、人事総務本部 人事部 担当課長 姜南宇氏だ。姜氏は、日本企業の韓国現地法人での人材育成で多数実績を残してきた。グローバルで人づくりにかかわってきた姜氏に、仕事に対する思いを伺った。

姜 南宇 (Namwoo Kang) 氏
韓国外国語大学卒業。Panasonic Koreaへ入社し、人事担当となる。その後、Nikon ImagingKoreaに転職、人事担当課長代理として、Nikonの韓国現地法人立ち上げに携わる。慶應ビジネススクール卒業後、2010年5月トレンドマイクロ入社。人事総務本部人事部配属。2011年現在に至る。

トレンドマイクロ
1988年米国ロサンゼルスにて創業。1989年同社設立。「ウイルスバスター」をはじめとするコンピュータおよびインターネット用セキュリティ関連製品・サービスの開発・販売を手がける。欧米諸国、北欧、アジア、中欧など、グローバルに事業を展開している。
資本金:183億8600万円(2011年12月末現在)、売上高:963億9200万円(2011年度)、従業員数:4942名(2011年12月末現在)

取材・文/浅久野映子、写真/髙橋美香

経営者の立場で組織を動かす

設立から2年後の1991年に初代「ウイルスバスター」を日本で発売したトレンドマイクロ。1998年に店頭登録銘柄として株式公開し、2000年には東証1部上場を果たした。201年12月末時点で全世界にいる4942名の従業員のうち、日本の従業員数は596名。つまり、海外で働く従業員比率は87.9%と、まさにトレンドマイクロはグローバルに活動する企業。創業から20余年でこれほどの拡大成長を見せた企業は、ほとんど類を見ないといえる。

姜南宇氏が2010年にトレンドマイクロに入社したのも、同社の「自律的に働ける」、「やろうと思えばいくらでも道が開ける」といった企業文化に魅力を感じたと共に、自分がグローバルに展開する企業活動に貢献できる機会があることにやりがいを感じたからだ。

それに、姜氏には経営者の視点で組織を動かす仕事に就きたいという思いがあった。その意味で、トレンドマイクロへの入社は、姜氏にとって刺激的な“挑戦”だったのだ。

実は姜氏のキャリアのスタートは、父が経営する不動産会社である。長男だった姜氏は、跡継ぎとして幼い頃から厳しく育てられたという。自分自身も、それを当然と受け止め、大学卒業後、不動産会社の経営に携わった。しかし……。「やってみたら面白くなかったのです。建物の運用管理が中心の仕事は、“チャレンジ精神”を発揮する機会が少ないと思ったんですね。リーダーシップを持って、大きな組織で自分の強みを試すことができる仕事を求めました」

そう自負できるだけの実績が、姜氏にはあった。

兵役制度のある韓国では、男性は21~30歳までの2年間を軍隊で過ごす。

姜氏も大学を休学し、21歳で軍隊に入った。そして、入隊1年後には年功序列の軍隊組織では異例の人事により、入隊後、最短で部隊長になり、大勢の部下を持つ立場になった。姜氏が若い頃から周囲に認められる存在であったことを裏付けるエピソードだ。だからこそ、もっと大きな組織で自らの力を発揮したいと望んだという。

そして、「跡継ぎは弟に」と、姜氏は父に願い出て、韓国の大手企業ではなくパナソニックへの入社を決めた。「多数の著作に接し、松下幸之助を尊敬していました。経営の神様と呼ばれる人が創った会社に入ることは、自分の人生にきっと役に立つ、そう思ったのです」

韓国の現地法人においても、現場の意思決定はもちろん、教育の場においても松下幸之助の哲学が実践されていた。こうした企業文化の中で働いた経験は、姜氏にとってその後の仕事人生において本当に“役に立つ”経験となった。

やるべきことはやったさらなるステップアップを

2006年、姜氏がニコンイメージングコリアに転職したのは、いわゆるヘッドハンティングによるものだ。「ヘッドハンティングの依頼を受けた当初は戸惑いましたが、とにかく、『なぜ自分を必要としているのか』まずは話だけでも聞いてみようという気持ちでした。実際、話を聞いてみると、ニコンイメージングコリアの社長のビジョンが明確で、実に納得のいくものでした。私自身、ちょうど新たな挑戦に向かってみたいと考えていた時期でもあったため、思い切って決断しました」

パナソニックで人事の仕事に携わっていた姜氏とって、ニコンイメージングコリアで実現しなければならないミッションは、非常にやりがいがあるものに思えた。現地法人を立ち上げるにあたり、既存の販売網やサポートシステムを生かすことで既存のお客様の期待に応えることが必要だった。既存の販売網を持つ現地企業から多くの社員の雇用を継続した後、ニコンの企業文化を、現地子会社の社員に融合させていく必要があった。

さらに、韓国でのニコンのシェアを拡大させるために必要な組織づくりも、挑戦しがいがあるものだった。加えて、自分に声をかけてくれたニコンイメージングコリアの社長の人柄も信頼できた。

しかし、わずか2年で姜氏はニコンを退職することになる。MBAを取得しようと考えたからだ。「レベルアップしたかったのです。現地法人には、営業や間接部門はありますが、開発部門や企業戦略部門はありません。限られた部門での人事の仕事に限界を感じるようになっていたのです」

人事の仕事は、企業戦略を実現するための人的資源を有効に活用するための施策を考え、運用するためのものであるはず。経営者の目線に立って組織を動かす知識を得ることができれば、もっと人事の仕事の幅が広がるとも思ったのだ。

それに、わずか2年とはいえ、ニコンコリアでやるべきことはやったという思いも、姜氏にはあった。

人事制度の整備はもちろん、社内風土の醸成のための仕組みづくりを手がけた。現場のコミュニケーションを円滑にするため、営業担当者に同行して相手先を訪れたり、一緒に体を動かして重い荷物を運ぶ作業をしたりしたこともあった。

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