J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年01月号

KEYWORD5 グローバル人材育成 全球化時代へ本気で対処せよ! ―手垢にまみれてきた「グローバル人材論」を超えて―

グローバル組織と人材開発のコンサルタントとして20年の経験と実績を持ち、1997 年にアメリカ経営出版社の名門、Jossey-Bass社からTranscultural Management(邦訳『多文化時代のグローバル経営』)という経営書を出し、当時から多文化、多国籍、多言語の組織経営と人材育成の課題を訴えてきた著者が今、再び日本企業の経営者と人材開発育成者へ提言する。

船川淳志(ふなかわ あつし)氏 グローバルインパクト 代表パートナー
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。東芝、アリコ・ジャパン勤務の後、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)にて修士号取得(MBA)。その後、米国シリコンバレーを拠点に組織コンサルタントとして活躍。帰国後、グロービスのシニアマネジャーを経て独立し、現職。NHK教育テレビ「実践・ビジネス英会話」、スカイパーフェクTV!757ch「ビジネス・ブレークスルー」において、「グローバルリーダーのマインドとスキル」などの番組講師を務めた。著書に『ロジカル・リスニング』(ダイヤモンド社)、『グローバルリーダーの条件』(PHP出版、大前研一氏と共著)、『英語が社内公用語になっても怖くない グローバルイングリッシュ宣言!』(講談社)など多数。

「グローバルマインドセット」を学び、実践する時代へ

本原稿を書き上げる直前、首都圏のホテル会場に世界14カ国から集まった人事および人材開発に携わるスタッフ100 名の前で、私は挨拶の直後にグローバル組織開発と人材育成の世界的権威であり、なおかつ、私のメンターであり、友人でもあるスティーブン・ラインスミス※1氏の名著、

“A Manager’s guide to Globalization”の冒頭の一節を紹介した。Many a manager’s eyes glaze over as the CEO announces that the initiative for the coming year is “globalization.” And virtually all managers are initially at a loss for concepts, methods, and plans whenc onfronted with the task of “making our people and culture more global.”それは組織のグローバル化対応と人材育成に注力している日本の大手メーカーから依頼を受けて聞かれたセッションだった。

―― CEOの「グローバル化推進」に多くのマネジャーはいぶかり、ほとんど全てのマネジャーは社員と社風をグローバル化するという課題に直面した時に、どうすればいいのか当惑してしまう、というこの引用箇所は、その場に集まった参加者の気持ちを正直に代弁するものでもあった。

もちろん、私の意図は「グローバル化推進」を揶揄するものではない。組織のグローバル化とグローバル人材を推進するために全体像とそのカギとなる要件を理解してもらいたかったのだ。

組織開発のコンサルタントとしても豊富な経験を持つラインスミス氏は、組織のグローバル化を推進するためには、戦略や組織構造、企業文化、社員と3つの全てのレベルでの変革が必要であり、特にグローバルマインドセットを持つことから始めなければならないと述べている。実は、今ではかなり一般化した「グローバルマインドセット」という概念を20 年前に体系的に解説していたのは他ならぬラインスミス氏である。

同じく、私のメンターでもあり、ピーター・ドラッカーと50 年もの親交があった国際経営の先達である小林薫氏※2はラインスミス氏の定義する「グローバルマインドセット」を次のように訳されている※3。1.より大きな構図へのビッグ・ピクチャー(大局観)を持ち、2.マネジャーとしてよりもリーダーとして変革を履行し、3.人生と社会を相互に矛盾する諸勢力の均衡として受け入れ、4.予期せざることを取り扱う際には、構造よりもプロセスに信と重きを置き、5.好機としての変化に沿って流れ、驚きや曖昧さにも気楽に対応し、6.自分自身と他人に対していつもオープンであることを心がける。

小林先生は以上をもって、「(この)特性の保持者が本当のグローバル・マネジャーなのである」、と結論づけている。

実は、私も15 年前、米国で出版した拙著の中で自民族中心主義から、地球中心主義へ、単一文化から多文化、そして文化を超克するマインドセットが重要であると述べていた(図表1)。時代は、まさにグローバルマインドセットを学ぶだけでなく実践する時期に突入している。

しかし、各企業のグローバル化推進の進展状況はというと厳しい見方をせざるを得ない。「グローバル人材」がポピュラーになればなるほど、また表面的なブームで終わってしまうのではないかと、私は危惧している。その最大の理由は、日本企業の経営幹部層にどこまで現在我々が直面しているパラダイム転換の本質を理解し、グローバル人材育成と組織の中身のグローバル化を推進する覚悟があるのだろうか、という点である。

「アリとキリギリス」日本企業は実はキリギリス

事例を挙げよう。2010年あたりから、日本で紹介され始めたサムソンのグローバルリーダー育成プログラムがある。徹底した集合教育の後、南米であろうが、アフリカであろうが、現地に1年間行って生活をし、そして本社に戻ってくるというこのユニークなプログラムがスタートしたのは、1991年の9月まで遡る。

5年後の1996 年、当時、私が在籍していたグロービスで、サムソンのこのプログラムについて紹介した。グローバルビジネスの異文化経営の第一人者であるロバート・モラン教授を招いたグローバル人材育成の説明会を開催した時のことだった。

ところが、その場で聴いていた参加者からは、「とてもじゃないけれど、そこまでできない」、「国内が大変なのに、グローバル人材に投資する余裕がない」という声が出た。もっとも、90年代後半というと、平成不況、金融破綻と「昭和モデル」の綻びが出始めたころで、「余裕がない」といいたくなる気持ちは理解できる。

このサムソンのグローバルリーダー育成プログラムはこれまで2000人を超える卒業生を輩出し、サムソンのその後の大躍進を支える原動力の一つになっているのは周知の事実だ。

日本人はイソップ寓話「アリとキリギリス」でいえば、「アリ」にたとえられることがよくある。しかし、グローバル化への対応、グローバル人材育成に関しては、私は逆だと見ている。サムソンだけではなく、ネスレ、IBM、GE、P&Gなど、明確なグローバル戦略とそれに即した人材育成を地道に行ってきた企業が存在する。

それに対して、日本企業はどうだろう。20 世紀後半、「おとなしい株主のもとで、均質性の高い社員(主として日本人男性)を囲い込み、大量規格製品を提供する」というパラダイムのもとで成功し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を謳歌し、飛び回っていた時代はよかった。しかし、そのキリギリスが今世紀になって動きが取れなくなってしまっている。

欠けていたのは、今、顕著になってきている「知的付加価値がものをいう全球化時代のビジネス」というパラダイムを的確に理解し、それへ対応しようという不退転のコミットメントだ。

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