J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2013年01月号

KEYWORD2 競争戦略 「儲け話」を語れる経営人材はどう育つのか

経営人材とは、戦略のストーリー、すなわち、儲け話をつくれる人のこと。この人がいなければ企業は立ち行かない。だが、「経営人材を育てることはできない」と楠木氏はいい切る。なぜなら、それはセンスに左右されるから。経営人材は勝手に自ら育つものなのだ。その環境を整えるために人事部にできることは何か。

楠木 建(くすのき けん)氏 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授
1964年東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究か博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著作に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)他多数。

[取材・文] = 木村美幸 [写真] = 本誌編集部

戦略ストーリーがなければ“商売”は成り立たない

人間が戦略を考える時、それは必ずストーリーになっているはずだ。私の好きな本の1つに井原西鶴の「日本永代蔵」がある。江戸時代初期に書かれて大ヒットした小説で、現代にも通じる商売の本質が描かれている。まだ戦略という日本語がなかった当時、それに相当する言葉として用いられたのは“儲け話”。商売というのは「こうやったらこうなって、そうするとこうなるから、きっと儲かると思うが、どうか」と考えるのが自然である。であれば、ストーリーにならないほうがおかしい。

ところが、現代のビジネスにおける戦略の多くはストーリーになっていない。私は仕事柄、さまざまな企業の方から「こういう戦略でいこうと思っている」と、プレゼンテーションを受ける機会が多い。話を聞いてみると、8~9割の企業で、戦略が“目標の設定”など別のものにすり替わってしまっている。恐らく、その方々は、目標を設定することが戦略だと思っているのだろう。戦略は目標に達するための手段だから、もちろん目標設定は極めて重要。だが、それで終わってしまったら、単なるかけ声でしかない。

戦略の要素はあっても、それがつながっていないというケースも多い。それはあたかも静止画の羅列で、ストーリー仕立ての動画とは決定的に異なる。その手のプレゼンテーションを聞いていると、話としての筋がないので、聞いている私にはどうして儲かるのかさっぱりわからない。

本来はストーリーであるはずの戦略が、そうでなくなっているのはなぜなのか――そうした素朴な疑問から書き始めたのが『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)という本。そこには“もう少し素直に考えてみようよ”というメッセージを込めたつもりだ。

戦略がストーリーにできない問題の根底にあるのは、分業制度。会社の規模が大きくなり、一つひとつの業務に専門的な知識が必要になっているので、分業せざるを得ないのは無理からぬことだ。だが、そのおかげで全体のつながりを理解できる人がおらずストーリーの動画が静止画になってしまう危険性が高まる。

個人が自分の生活の戦略を考える時、“お金のことは全てプライベートバンカーに、着るものはスタイリストに任せています”といった特殊な人は別にして、普通は全て自分一人で考える。そして、たとえば引っ越し先を決める場合なら、値段だけ、あるいは部屋数だけで決めるようなことはせず、さまざまな要素のつながりを考えるはず。“ここは職場から遠いけれど、静かだから子どもを育てるにはいいだろう。それにここに引っ越すと、こうなってああなって……今よりもう少し幸せになれるだろう。よし、ここに決めた!”となるのが自然な流れだ。

同じように、どんな大企業でも戦略をつくるのは一人の人間であるべきだ。「この戦略って、誰がつくったの?」「3年前に○○さんがつくった筋書きだよ」。戦略とは本来そういうものである。経営企画室や経営戦略部で、みんなが集まって「さぁ、戦略をつくろう」と、取りかかるのは間違いだ。事実、経営企画部門から優れた戦略が出てきたのを、私は一度たりとも見たことがない。それはいたって当たり前の話だ。なぜなら、そういった部署に戦略を出させるのは、八百屋に向かって“新鮮な魚を出してくれ”といっているようなものだから。戦略づくりは、そもそも経営企画部門の任にはない。

では、経営企画部門の仕事は何か。それは“戦略ストーリーをつくる人”のサポートである。会社の中に“私が商売全体を考える”という人がいて(これは代表取締役社長でなくても構わない)、その人が必要とする情報を集めて整理したり、そのストーリーが実際に機能するかどうか分析したり、データに漏れがないかチェックしたり、パワーポイントにまとめたり……そういったことをするのが経営企画部門なのだ。

戦略をつくり出す人材を育てることはできない

そこで重要になるのは、“戦略ストーリーをつくれる人材”を育てるために、人材開発部門には何ができるのか、ということ。

ここが少々トリッキーな話なのだが、戦略のストーリーをつくる人、すなわち商売を思いついて、その商売を丸ごとつくっていく人のことを、仮に“経営人材”と呼ぶとすると、育てられないのが経営人材なのだ。

誰かが育てるのではなく、自身で育つ。他動詞ではなく、自動詞なのである。

常日頃から“戦略のストーリーを持たなければいけない”と主張している私の立場からすると、最大のネックは“全社員に専門スキルをつけさせよう”という考え方。専門的な知識や技能が必要なのは、“経営人材”が戦略ストーリーをつくり上げたあと、それを実現するために必要な膨大な量の仕事を分業する“担当者”たちにほかならない。担当者と経営者は、全くの別物なので、“経営人材も担当者と同じように教育できる”という考えは、きっぱり捨てていただく必要がある。

どの会社でも、全社員のうち九十数パーセントは“担当者”である。そのため、スキルが高くてきちんと仕事のできる担当者を育てることは、もちろん非常に重要なこと。ただし、もの凄く仕事のできる“スーパー高級担当者”が1000人いたとしても、経営人材が一人もいなければ、戦略のストーリーは出てこない。

そして繰り返しになるが、そういった経営人材は第三者が育てることは不可能なので、決して育てようとしないこと。人事や人材開発部門がすべきなのは、経営人材が自ら育つような環境・風土を整備すること。そして経営人材がストーリーや構想をつくり、それを動かしていく時に必要とされる“担当者”をしっかり育てておくことだ。

経営人材を見つけ出すのは“測定”ではなく“見極め”

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,325文字

/

全文:4,650文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!