J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年09月号

調査データファイル 第103回 『平成21年度 能力開発基本調査報告書』より 教育訓練と経営戦略の修正が企業利益の源泉になる

短期間で効果が表れにくい教育訓練は、不況対策の名目として、まずその経費を削減された。しかし、その対策の下で日本の企業の利益と成長が停滞している現実を見れば、今行わなければならないのは教育費の削減ではなく経営戦略の大胆な修正・変更のほうであろう。能力開発や人材教育の問題点をデータから浮き彫りにし企業の持続的成長に結びつく教育訓練のあり方を考える。

伊藤 実氏
労働政策研究 ・ 研修機構 特任研究員

1.不況対策として削減される教育訓練費

前回紹介した元気なものづくり中小企業は、時間にゆとりのある不況期を利用して従業員の教育訓練を充実させていたが、近年の日本全体の傾向は逆であり、不況期に教育訓練費を削減しているというのが実態である。

厚生労働省『平成21年度能力開発基本調査報告書』によれば、企業が教育訓練に支出した費用の労働者1人当たり平均額が大幅に減少している。Off-JTは1.3万円で、前年度より1.2万円も減って約2分の1に縮小。また、自己啓発支援に支出した費用は4千円で、前年度比で半減している。

教育訓練費の削減は、実施した事業所が減少したことも影響している。Off-JTの実施状況を見ると、正社員に関しては、実施した事業所の割合が68.5%と、前年度と比較して8.5ポイントの減少になっている。また、パートや派遣社員といった正社員以外に対しては33.2%で、前年度比で6.4ポイントのマイナスとなっている。さらに、自己啓発に対する支援も減少。正社員の自己啓発に対して「支援を行っている」事業所の割合は66.5%にとどまり、前年度よりも13.1ポイント減少。正社員以外も41.3%と、前年度比で12.5ポイント低下している。

このように、リーマンショックによる不況が顕在化した平成21年度、企業は不況対策の一環として教育訓練費を削減している。この結果から、短期間で効果が表れにくい教育訓練は、不況対策として真っ先に矛先を向けられやすいことを露呈した。

2.従業員が高く評価するOff-JTの有用性と内容

では、効果がすぐには表れにくい傾向のある教育訓練に対して、従業員はどのように思っているのであろうか。

仕事に直結したOJTよりも効果がすぐには表れにくいOff-JTであるが、実は従業員はその有用性を高く評価している。受講したOff-JTに対する有用性を、正社員は半数以上が「役に立った」(51.1%)と回答しており、「どちらかというと役に立った」(44.4%)を加えると、95.5%が肯定的な回答をしている。また、正社員以外も、「役に立った」(57.9%)という回答率が正社員よりも高く、「どちらかというと役に立った」(34.5%)を加えると、92.4%が肯定的な回答をしている。

このように、仕事に直結するとは限らないOff-JTでも、従業員の大半は有用性を認めている。よほど的外れな教育訓練内容でもない限り、何らかの形で仕事に役立っているのである。しかも、正社員以外の従業員も、同じように有用性を認めている。技術革新や新しいビジネスモデルが頻繁に登場する最近の経営環境下では、従来からの仕事のやり方を学ぶことが中心となるOJTだけでは、変化に対応することは難しい。Off-JTなどの多様な教育訓練の機会を設ける必要がある。

受講したOff-JTの内容は、正社員に関しては「マネジメント(管理・監督能力を高める内容など)」が36.1%と最も高く、「品質・安全」、「ビジネスマナー等のビジネスの基礎知識」、「人事・労務」、「技術・技能」と続いている。

一方、正社員以外では、「品質・安全」が24.9%と最も高く、次いで「ビジネスマナー等のビジネスの基礎知識」、「技術・技能」、「営業・販売」となっている(図表1)。

このように、Off-JTの受講内容は、正社員では、管理職ないし、その候補者に対するマネジメント能力の向上を目的としたものが最も多く、マネジメント関連以外では業務に直接関連した能力の向上を目的としたものが中心である。他方、正社員以外に対しては、業務に直結した能力の向上を目的とした教育が中心となっていることが本調査で明らかになった。

なお、Off-JT受講者の延べ受講時間平均は、正社員では41.3時間、正社員以外では19.0時間であった。

3.キャリアプランを自ら描けない従業員

仕事内容が複雑・高度化してきているため、OJTやOff-JTに加えて自己啓発による能力向上も必要になってきている。現状として自己啓発への支援を行った企業は減少しているが、支援の内容は以下のようになっている。

正社員に関しては、最も回答率が高かったのは「受講料などの金銭的援助」(83.1%)であり、次いで「教育訓練機関、通信教育等に関する情報提供」、「社内での自主的な勉強会等に対する援助」、「就業時間の配慮」となっている。これに対して、「教育訓練休暇(有給、無給の両方を含む)の付与」(15.7%)は、実施している事業所が少ない。また、正社員以外に関しても、ほぼ正社員と同じ傾向が認められる(図表2)。

ところで、自己啓発に関して、従業員は何らかの問題点を感じているのであろうか。調査結果は、企業の支援策と従業員のニーズとの間に、ギャップが存在していることを示している。

まず、自己啓発に関する問題の有無を見ると、正社員では80.8%が「ある」と回答している。また、正社員以外も「ある」が74.5%となっており、いずれも大半の従業員が会社の自己啓発支援に問題点があると考えている。

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