J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年10月号

Opinion 人を動機づける新パラダイム 「アセスメント3.0」

人事評価とほぼ同義であるアセスメント。アセスメントで個人を分析することで可能となる最終段階が、モチベーションへの働きかけである。モチベーションがなければ、人は仕事をおっくうに思い、仕事から学ぶこともできない。モチベーションを上げ、成長を促すこれからの評価、アセスメントの新パラダイムとは――経営と人事管理を心理学的アプローチから研究してきた髙橋潔教授が記す。


髙橋 潔(たかはし きよし)
神戸大学大学院 経営学研究科 教授
1984年慶應義塾大学文学部卒業。1996年ミネソタ大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.)。南山大学総合政策学部助教授などを経て、神戸大学大学院経営学研究科教授。専門は、組織行動論と産業心理学。産業・組織心理学会理事、人材育成学会常任理事などを務める。著書に『人事評価の総合科学―努力と能力と行動の評価』(白桃書房)など。

組織におけるさまざまな業務が、ウェブやシステムの導入によって、10年前と比べて圧倒的に効率的に実施されるようになっている。それでも仕事はまだまだ人材によって担われている部分が多い。「人は城、人は石垣、人は堀」という武田氏の甲陽軍鑑ではないが、戦の勝ち負けは城づくりではなく人づくりにある。その人材をマネジメントする大切な仕組みが人事評価(アセスメント)だ。人事評価は処遇を決めるためだけに実施されるわけではなく、従業員の能力を開発する人材育成のためにもある。人事管理と人材育成が、これまでの評価の2つの主目的だった。そして今、第3の目的――モチベーション施策としての人事評価――が注目されている。伝統的に人の評価は、やる気や働きぶりを大きく左右すると考えられてきた。評価を通してもたらされる昇給や昇格にはインセンティブ効果があると考えられてきたし、頑張ったにもかかわらずアンフェアな評価がされればやる気がダウンし、組織全体でモラールが下がってしまう。そこで、人事評価とモチベーションの関連を考えてみることにしよう。

ダニエル・ピンクのモチベーション3.0

2010年にダニエル・ピンクが『モチベーション3.0』という書籍を出版し、1つのブームとなった。米国の経営学者マグレガーのX理論・Y理論※1や、心理学者エドワード・デシの内発的モチベーション理論※2からの示唆を強く受けて、ピンクはモチベーションが3つのドメインからなることを指摘した。図表1に示したように、組織はモチベーション1.0と2.0と3.0の仕組みを使って従業員を動機づける。あたかもコンピュータの基本ソフト(OS)のように、1つの組織で、複数のモチベーションが従業員を動機づけるために並存することはないという指摘は示唆的だ。2つのOSは並存できない。古いやる気の出させ方は、新しいモチベーションとは合わないだけでなく、時として誤作動を引き起こすというわけだ。ピンクによれば、社会・経済が進展していけば、モチベーション1.0→モチベーション2.0→モチベーション3.0のように進化し、人は別の要素に惹かれるようになるという。また、その最終段階が内発的モチベーションである点は、自己実現を強調する人事部長の心にも響く。ただし、我が国の事情を斟酌すれば、戦後の混乱期には多くの従業員が「食うこと」に必死であり、モチベーション1.0に動かされていた。その後、高度成長を経て生活が安定してくると、従業員の処遇に平等主義が浸透していたおかげで、高い給料を求めて必死に働くというよりは、仕事の喜びや充実感が優先するモチベーション3.0の労働観が職場に浸透していった。しかし、1990年代にバブル経済が崩壊した後、急速に企業の業績を回復させようと成果主義が導入されるようになると、皮肉にもピンクの予想に反して、モチベーション2.0の世界に逆戻りしてしまったといえるのかもしれない。

勤怠管理≒人事管理アセスメント1.0

評価というものを、このモチベーションの3つのレベルに対応させようとすればその帰結は明らかである。人事評価(アセスメント)にも3つのレベルが必要になる(図表2)。評価を用いて、部下を動機づけていこうと思えば、アセスメント1.0の仕組み(ただ勤怠記録を見て評価を行う)では、とうに時代遅れだ。現代の情報化社会では、アセスメント2.0を超えて、アセスメント3.0と呼べるような仕組みをつくっていかなければならないのである。まだ多くの人が生活を成り立たせるために働いていた時代では、モチベーションの源は雇用と収入の安定だった。人材を管理するためには、勤怠の記録や残業時間、有給休暇の取得などの情報が大きな意味を持っていた。企業側としては、能力や成果を評価し、能力別の処遇管理や成績による賃金管理を実施するよりは、休まず長く働く人に報いるというほうが社内で納得されやすかった。豊かになった現代でも、アルバイトを戦力化している産業では、人事評価よりも勤怠管理のほうが大切である。また、派遣従業員やアウトソーシングを請け負う業務の関連では、人事評価自体が存在せず、勤怠記録で評価が代替されるところもある。行動の記録という客観的記録のほうが、主観的評価より異論の余地が少なく、インパクトも大きい。とはいえ、このような記録による人事管理も、「♪タイムレコーダガチャンと押せば……」という時代はとうに過ぎ去り、システム化・ウェブ化している。給与管理まで含めた作業がどんどん削減され、勤怠管理がコストゼロとなる日もそう遠くない。

成績・行動評価のアセスメント2.0

年功的フレーバーのある人事制度を成果主義に切り替え、企業全体のパフォーマンスを高めていこうと考えられたのが1990年代中頃。ちょうどJリーグがスタートした頃だ。引き分けという“中途半端”をなくし、必ず勝敗を決するVゴール方式が、サッカーにも人事にもマッチしていた。

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