J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年09月号

内省型リーダーシップ 第5回 一番深い内省は自己定義の見直し

第3回では、内省には4つのレベル(1.行動、2.仕組み、3.メンタルモデル、4.自己定義)があると説明しました。今回は、その中で最も深いレベルである自己定義レベルでの内省を、事例を交えて解説していきます。このレベルで内省を行い、自己定義をバージョンアップすると、その上の3つのレベルも自然と変化していきます。自己定義レベルの内省は、他の3つに影響を与えるほど深いものだといえるのです。


永井 恒男(ながい つねお)
野村総合研究所IDELEA(イデリア)事業推進責任者
2005年、野村総合研究所の社内ベンチャー制度を活用して、エグゼクティブコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業「IDELEA(イデリア)」を起案し、立ち上げる。facebookとtwitter(ID:neo_nagai)で連載の感想募集中!http://www.id.nri.co.jp/

八木 陽一郎 香川大学大学院地域マネジメント研究科准教授

自己定義レベルでの内省

筆者(永井)は野村総合研究所におけるIDELEAという事業の事業推進責任者です。IDELEAは経営者に対するエグゼクティブコーチング事業と対話を活用して組織が自らのビジョンを磨き上げ達成することをサポートする事業となっています。本連載第3回で紹介した事例では、社長の内省を深め、最終的には自然発生的に全社でビジョン策定を行うこととなりましたが、筆者が導く内省では多くの場合、最後に、意図的に4.自己定義のレベルにアプローチします(図表1)。仕組みやメンタルモデルレベルでの内省を継続的に繰り返すと、自己定義の見直しに行き着きます。「自分とは何者か?」という個人や組織の目的や存在意義に辿り着くのです。しかしながら自己定義を見直せば、自然とメンタルモデルや仕組みが変わり、日々の行動も変わってきます。

ケース:変革を生む自己定義のバージョンアップ

エグゼクティブコーチングのクライアントであるH社長(G社、製造業、東証一部上場)は私がお会いした年に社長に就任した。G社は業界一位の地位を長く保持していたが、近年は利益率の低さと、新しい分野への投資の遅れが課題であった。H社長は長年製造を中心としたモノづくりの分野で功績があり、人望も厚く、社長就任は社内外で順当な人事であると思われていた。コーチング開始に際して目的を確認すると、「自社の利益の向上のために大鉈を振るいたい。それについて対話したい」とのことであった。まず筆者は行動レベルや仕組みレベルでの内省を促すことを始めた(図表1)。現状の課題や、H社長が考える変革について質問を繰り返したが、なかなか内省が深まらなかった。課題だと思われることは既に何らかの対策を打っていたし、利益を増やすための「大鉈」といっても直近に何かできそうなことはそうそう見当たらなかったからだ。筆者は対話の方向性を変え、一気に自己定義レベルでの内省に取りかかった。図表2で示す手順に従って、まずH社長の成功体験についてお伺いした(step1)。H社長が「大した話じゃないですが……」と話し始めたのは、G社の主力工場の1つである愛知工場の変革のストーリーだった。15年前にH社長が新工場長として赴任した愛知工場は全社で最も採算性が低い工場であった。H社長はまず現状を把握するため製造現場に赴き、各ラインの責任者はもちろんパート社員を含む全社員との車座の対話を実施した。そこで見えてきたのは大口の顧客企業の要望に応えるためのカスタマイズの多さと、その結果として常に短くなる納期を必死に守ることに汲々としている姿だった。当時、工場出荷価格は頭打ち、同時に原材料価格は長期的には上昇傾向にあった。それまでの工場長としては珍しかったが、H社長は工場に隣接しているR&Dセンターの責任者や東京にある営業部門の役員とも積極的に意見交換を行った。さらに役員の肩書を利用して近隣の工場長など他業界の役員とも情報交換を行った。半年後、H社長は一つの仮説を見つけた。「10年後を考えると、このままでは愛知工場の社員の雇用を守ることはできない」それまで国内製造にこだわっていた顧客企業を含む多くの業界では、工場の海外移転が進んでいた。一方G社は業界一位の地位による甘えから危機感不足が蔓延。だが、「業界一位だろうが、業界そのものがなくなってしまえば何の意味もない」という危機感がH社長にはあったのだ。H社長は「工数ハーフ、コストハーフ」と名付けた業務改革を開始した。「工数ハーフ」では作業工程と時間の見直しだけでなく、製造する製品が変更される際のライン変更の時間の短縮に重点が置かれた。H社長には他業界の製造において取り組みが始まったばかりの多種品少ロット生産の流れが自社にも早晩訪れるという確信があったのだ。数年後愛知工場ではライン変更の時間が実際に半分になった。その後、多くの社員が複数の製造ラインに対応するように訓練を重ねた。それから10年以上たった2009年。リーマンショックにより、製造ラインの大幅変更が頻発したが、ほとんどの社員が全製造ラインに対応しているため雇用調整が全くいらない状態に愛知工場は変貌していた――「すっかり聴き入ってしまいました。まさに大鉈を振るい企業変革をされたご体験ですね」、一通りの話を聞いた後、筆者はいった。「愛知工場での日々は私としては当然のことをやっていただけで、『企業変革』を行っているという大げさな認識はありませんでした。まあ大鉈を振るったといえばそうなのかもしれません」、H社長はいった。内省のプロセスとして解説すると、自らの成功体験を語ることにより、自身が当たり前だと思っていた日常の体験が、客観的に見ると特別な体験であるという「保留」(本連載8月号参照)が起きたことになる。自分にとって当たり前のことが保留されることにより、自らの強みの発見へとつながったのです。「静岡工場時代に発揮されたH社長の強みや特長はなんでしょうか?」、次に筆者はH社長の強みを探る質問をした(step2)。H社長は、環境に対応して自ら柔軟に素早く変わる(変化対応力)、変革への強い意志、現場を巻き込む力、社員の将来を考える(共感性)などを挙げた。これらは、以前H社長にお伺いした強みからは少々変わっていた。追加・削除されたものもあれば、変化対応力等は「環境変化を察して、それに対応して、自ら柔軟に素早く変わる力」というようにより詳細に描かれた。自分が成長の過程の中で構築してきた自分の強み(自分という者に対する見方)を見つめ直し、再認識する内省が行われたのだ。次に私は経営者として将来のありたい姿を思い描いてもらうことにした(step3)。「これから引退まで、ご自身の強みが最大限に発揮されたと仮定すると、H社長はどんな経営者になるのか想像してみてください。将来ご自身の引退時に、どんな社長だったといわれたいですか?

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