J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年04月号

金井壽宏の「人勢塾」に学ぶ。試す! 人と組織の元気づくり 第 9 回 「コーチを多く育成することを通じての組織変革」

成熟社会。正解のないビジネス現場。社内のコミュニケーション不足――
これらの課題に、即効性のある薬などないことは、誰もが感じているだろう。
この状況に風穴を開ける術は、全くないのだろうか?
その問いに挑むのが、神戸大学で金井壽宏先生が主催する第4期「人勢塾」。
本誌では、「人勢塾」全10回の授業をレポート。
施策1つで問題を解決するのではなく、組織全体へ多様なアプローチをする。
そんな「組織開発」の手法を学び、ぜひ現場で試していただきたい。

金井 壽宏 氏
神戸大学社会科学系教育研究府長、大学院経営学研究科教授(兼務)1954年生。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程を修了。89年マサチューセッツ工科大学でPh.D(. マネジメント)を取得。92年神戸大学で博士(経営学)を取得。

「人勢塾」とは?
神戸大学大学院経営学研究科の社会連携活動機関でもあるNPO現代経営学研究所が主催の講座。2009年にスタートし(第1期の成果は、『人勢塾--ポジティブ心理学が人と組織を鍛える』(小学館、2010として出版)、2012年5月スタートの今回が第4期となる。「産業社会の元気の原点は、働く人、一人ひとりの元気・勢いにある」という考えのもと、人材教育・組織づくりなどにかかわる多様なセッションを実施。今期は、ただ学ぶだけでなく、現場での実践につなげられるよう、原則1社から2名の参加を必須としている。
毎回「その道の本物・達人」といわれるゲスト講師を招くのも魅力だ。「人事やラインマネジャーは働く人の応援団。そしてその応援団にも応援団が必要」と語る金井先生。我々人事を応援してくれるような「学び」と「場」が提供されている。

[取材・文・写真] = 渡辺清乃

研修の導入や社外コンサルタントを招いて、組織開発をする方法があるこれを「外から」だとすると、今回紹介するのは「内から」組織開発した実例だ。ゲストは、キリンで組織風土改革を目的とした『Vブイテン10推進プロジェクト(以下V10)にかかわる早坂めぐみさん早坂さんとの出会いを金井先生はこう語る。「神戸大学MBAでは、いち早くコーチング科目を取り入れていました。そのご縁で、コーチングを効果的に導入している企業の先進的な事例発表会に出たところ、早坂さんの発表が光っていたのです。『組織の一定人数が特定の思考、またはその背景にあるスピリットに詳しくなったら、組織は変わるものだ』と感銘を受けました」

風土改革で「現場を元気に」

ビール業界大手のキリン。1907年創業以来、常に業界トップを走り続け、社員の誰もがその好業績が続くことを疑わなかった。ところが1987年、アサヒビールのメガブランド『スーパードライ』誕生を機に、業績は低迷。2001年、ついに不動だった首位の座をアサヒビールに明け渡すことになり、社内に激震が走る。これが社内改革の契機となり、当時の社長・荒蒔康一郎氏が「新キリン宣言」を発表。2006年には、10 年後に約2倍の売り上げをめざす長期経営ビジョン「KV2015」が策定された。それを達するために組織風土改革が必要と立ち上がったのが「V10」。「V10」の名には、「Visionを描き→Valueの下に思考・行動し→お客様に近い会社となる→Victory」と、常に10年後を見据えてほしいという想いを込めた。「V10」が掲げたゴールは2つ。①一人ひとりが考え行動する組織風土づくり…「やらされ感」をなくし生産性を高める。/②現場の意見が経営に活きる組織風土づくり…経営トップの判断材料である「情報」を持っている現場から意見を吸い上げる。このゴールのため、最初の3年間は「意識改革の時代」、その後は「業務改善の時代」とし、さまざまな取り組みを行った。

課題から見えてきた打ち手

V10発足当時、早坂さんたちは自社の課題を「何のために・なぜ・どうやるかの共通言語がない/隣の人が何をやっているのかわからず、相談もできない/内向き・上向きで部門最適を選んでしまう」と捉えた。これを打破し「外向き・お客様向き」企業を創るべく、「ビジョンの策定と浸透」と、「越権・越境・ヨコ連携」できる風土のために「アナログ・アクティブなヒューマンネットワーク作り」をめざした。2006年からの「意識改革の時代」には、主に3つの取り組みを行った。

〈意識改革の時代~3つの取り組み〉

1. 社員がビジョンを策定する「ダーウィンフォーラム」

2. 会社が抱える課題やビジョンなどを共有するための「媒体活用」

3. ヨコのつながりを生み出す「対話の場づくり」

Live Report

ゲスト講師を招くのは最後となった第9回。経営トップでも専門家でもなく、「現場」で活躍する早坂さんの話に、参加者は共感し、真剣に聞き入った。最後の質疑応答でも活発なやりとりが行われ、非常に熱い半日となった。

PickUp 1講義/風土改革①「意識改革の時代」

3年目も部長も共につくるビジョン

最初に着手したのは、ビジョン策定のための「ダーウィンフォーラム」。「工場、物流、営業、全ての現場に募集をかけました。選抜はないけれど、全3回のセッション参加が必須だったので、人が集まるか心配でしたが、3 年目の若手から部長クラスまで111名も来てくれました」キリン100 年の歴史で、現場を巻き込んだビジョンづくりは初の試み。1回目のセッションでは『キリンらしさ』をディスカッション。2回目は『100 年後もなくてはならない会社になるための未来』を描いた。3回目は、その言葉が絵に描いた餅にならぬよう、「誰よりもお客様の近くに。そして、もっと豊かなひとときを」というビジョンと5つの『行動の原点』を作成。「当たり前を疑ってみないか」「遊び心は元気か」など全て疑問形でつくられたそれは、『迷った時に立ち返る場所』となっている。

映像を効果的に使う

ビジョンや行動の原点を社員へ浸透させるために使われたのが、「映像」。たとえば、V10活動スタート時に活用したビデオは、フル稼働できない工場を見学する社長の姿や、今こそ社員一丸となって立ち上がるという決意を込めた言葉の数々を盛り込んだ4分ほどの作品。ビジョンを浸透させるためのビデオは、ジンとくる音楽にのせて、お酒にまつわる人間模様を描いた3つの短編ストーリー。日々の仕事で生み出したお酒がお客様にどのような幸せや安らぎを提供しているかが見えるもので、営業現場のスタッフがストーリーを考えて作成した。五感に訴える映像は、社員の心にストレートに響いたようだ。

つながりをつくる「各種フォーラム」

 早坂さんが「一番力を入れた」というのが「ケネディ」「アポロ」「シーザー」などと名づけたフォーラム。中でも、一番長く継続したのは「コンバット」。2 年をかけて全国40カ所で開催。6割以上の社員が自発的に参加した。終日のプログラムで、「感動のサービス」を考えるワークをしたり、各部門が掲げた中計から、自分の仕事の前後にある工程を理解することで、最終的に自分の仕事がお客様にどのようにつながっているかを理解したりした。「ポイントは、過去の参加者がスタッフに回るなど自主運営したことと、社長と対話できる機会を設けたこと。当時の社長は、在任3 年間で延べ5000人と話しました。『社長の大切な仕事の1つは社員との対話』という姿勢は現社長にも受け継がれています」「意識改革の時代」は、ビジョンや行動の原点を定着させ、困り事ができたら「この人に相談しよう」という関係が生まれることを狙った時期。「目的は果たせた」と早坂さんは語った。

PickUp 2

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