J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年04月号

中原淳の学びは現場にあり! 大学でも現場でも学べない臨床スキルと知識を学ぶ 現役歯科医が集う歯医者さんの勉強会 藤本研修会

誰にとっても身近な存在である歯医者さん。藤本研修会では、現役の歯医者さんたちが、冠を被せた
り、義歯を入れるなどの補綴治療や、歯周病、インプラントなどの歯科治療について学んでいます。
日々患者の治療に当たっている歯科医師たちが、職場の外で学ぶ理由とは?

中原 淳 氏 ( Nakahara Jun)
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。「大人の学びを科学する」をテーマに研究を行う。共著に『リフレクティブ・マネジャー』(光文社)など多数Blog:http://www.nakahara-lab.net/blog/Twitter ID : nakaharajun
[取材・文] = 井上佐保子 [写真] = 杉山正直 [イラスト] = カワチレン

「歯医者さんが学ぶ勉強会がある」と聞いて訪れたのは、横浜にある藤本研修会の研修室。土曜日の午前中、診療台を始め各種技工設備を備えた教室では、20名ほどの受講者が、熱心に「補ほてつ綴・咬こうごう合コース」の講義を受けていました。この日のテーマは「クラウンブリッジ治療の精度を求めて」。クラウンブリッジ治療とは、虫歯などで歯が大きく欠けた部分に、金属やセラミックなどのクラウン(冠)やブリッジ(冠橋義歯)などを被せる治療のこと。講師は藤本順じゅんへい平先生。歯科補綴(欠けた歯に冠を被せたり、義歯を入れるなど、人工物で補う)治療の世界的権威です。クラウン(冠を被せる)治療を行う場合、欠けた歯の型を取り、それをもとに歯科技工士がつくった歯冠を被せるわけですが、その際、できる限り精巧な歯冠をつくり、隙間なくはめ込むことで、細菌が入りこむリスクを減らすことができます。今日はこのクラウン治療の精度を極限まで高めるための方法について、講義と実習が行われました。藤本研修会では、藤本順平先生による1年間の「補綴・咬合コース」パート1~2の他、6カ月の「LOT(部分矯正)コース」、「歯内療法コース」、「ペリオ(歯周病)・インプラントコース」の各コースがあり、全国から100 名以上の歯科医師が集まり、月1度の研修に参加しています。受講者は日々、患者に接し、治療を行っている20 ~ 30 代の歯科医院などに勤務する歯科医師たち。歯科医師たちは、なぜこの場で改めて歯科治療について学ぶのでしょうか。

研修会を立ち上げた理由

藤本先生が歯科医のための研修会を始めたのは1979 年のこと。自身が日本と米国の大学で学ぶ中で、日本の歯科教育に対して抱いたある思いがきっかけでした。北九州市の歯科医の家に生まれた藤本先生は、父と同じ道を志し、九州歯科大学へ進学。卒業後、東京医科歯科大学の大学院に進むも、父親の健康状態が悪化したことで、地元へ戻り、九州歯科大学の大学院一期生となりました。口腔外科大学院を専攻しましたが、すぐに一般外科の教室に預けられる形となり、4 年間を外科の教室で過ごすこととなり、そこで臨床に携わる医師たちの意識の高さ、レベルの高い診療内容を目にします。そして、当時の歯科の臨床教育の甘さ、未整備な診療体制などに疑問を持つようになりました。「歯科はこんなことでいいのか?」と義憤にかられた藤本先生は、周到な準備の末、1974年、歯科が発達しているアメリカへ渡ります。そしてインディアナ大学の大学院で補綴の専門医となるため、臨床の技術と理論的背景を学びました。「日本の歯学部では、大学時代のほとんどを国家試験に合格するための試験勉強に費やしているような状況ですし、大学院に行っても研究が中心で、臨床の専門医を育てる教育はなされていません。一方、アメリカの大学院は、臨床の専門医を育てるためのプロフェッショナルスクールでした」。手術や処置などの技術は、実際の患者を相手に、インストラクターからステップバイステップで教わり、厳しいフィードバックを受けながら学びます。また、診断から治療計画を策定し、その説明をする訓練も受けました。「なぜその治療方針を選んだのか、どの論文を参考にしたのかと、何度も説明を求められました」。その後、藤本先生はフロリダ大学で教員となり、学生を教えつつ、週に1度、大学内の診療所で患者の診察を行うようになりました。すると、すぐにその臨床力の高さが評判になり、全米から患者が集まることに。1978 年には年間最優秀臨床教授賞を受賞。「アメリカでは、とにかく臨床力、手術の出来栄えや治療に対して、腕さえあれば、賞賛し評価する風土があります。その意味でも、本当にやりがいがありました」。しかし、高齢となった両親の健康や子どもたちの教育問題などもあり、1979 年に帰国。2、3の大学からのオファーを断って開業医となり、臨床を行いながら藤本研修会を開くことを決意します。「当時、日本には、歯科の臨床の専門医を育てる大学はなく、臨床の技術を学ぶ場がない。アメリカ式の臨床の歯科教育をしたいと考えたのです」

現役歯科医が臨床を学ぶ理由

最初は5、6人のスタディグループのような形で始まった藤本研修会でしたが、34年経った今、ここで学んだ受講生は延べ1500 ~1600名に上ります。研修会の受講生が、後に米国や欧州で専門医となって帰国、講師として新しい講座を開くことでコースも増えました。「最近は、研修会に集まる人数も増え、若い歯科医師たちの学習意欲が高まっていることを感じています」。

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