J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年08月号

連載 人材教育最前線 プロフェッショナル編 全日本空輸 違いを尊重し、強みに昇華し相互に高め合う組織を創る

ANAには、総合職事務職、総合職技術職、特定地上職、運航乗務職、客室乗務職の5つの職種がある。さらに、グループ会社・関連会社が155社。グローバル競争が激しい業界では、すべての社員が力を結集する必要がある。そこでANAグループを担う人財を育成するために設立されたのが、ANA人財大学である。服部洋和氏は、ANA人財大学の設立時から活躍してきた人物。グループ会社、人事労務管理の調査・研究を行う外部機関への出向など、人材育成をはじめとした多くの経験とスキルを身につけてきた服部氏に人財育成と仕事に対する想いを伺った。


服部 洋和(Hirokazu Hattori)氏
1993年全日本空輸入社。大阪空港支店旅客部配属。1997年関西地区空港旅客サービス会社であるエーエヌエースカイパルに出向し、人事担当となる。その後、2002年人事労務管理の調査・研究機関への派遣、2006年関連事業室主席部員(管理職)等を経て、2007年ANA人財大学主席部員就任。2010年現職。現在に至る。

全日本空輸
1952年に日本ヘリコプター輸送として設立。国内最大規模の航空会社として、国内はもちろんのこと、アジア諸国、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国等の78都市に就航。1999年に航空連合スターアライアンスに加盟した。2012年に設立60周年を迎える。
資本金:2313億円、従業員数:1万2848名(いずれも2011年3月末現在)

取材・文/浅久野映子、写真/石原野恵

価値創造の源泉は人

航空運送業の商品とは、人や物を運ぶ「移動」そのもの。それ故に、“ 在庫がきかない”、同業他社との“差別化が困難”、“固定費が高い「装置産業」”、“外的要因に影響されやすい”等の悩みが挙げられる。実際、航空運送の需要は、経済環境、季節変動や自然災害、政治情勢などに大きく左右される。「商品が『移動』そのものであるANAにとって、業績を上げるには、人的サービスや商品サービスの向上により、お客様のロイヤルティー(次もANAを利用したいという意向)を高め、ブランド力向上の好循環を生み出し続けることが重要です。フライトの予約から空港や機内でのサービス、安全にかかわる整備に至るまで、運航にかかわる一人ひとりの情熱が問われることになります。5つの職掌、多岐にわたるグループ会社で働く一人ひとりが、『お客様と共に最高の歓びを創る』というブランドビジョンや、経営理念、安全理念を共有し、それぞれの役割を果たし、『teamANA』としてお客様に質の高いサービスを提供できなければ、グローバルな企業間競争の中で、生き残ることはできないのです」と服部氏はいう。

そうした「人の力」を育むために2007年11月に設立されたのが、ANA人財大学である。建学の精神は、「ANAグループ全ての社員に、入社から退職まで、等しく成長の機会を提供する」こと。ANA人財大学は、既存の教育・研修部署と連携して、ANAグループの人的競争力の向上につながるプログラムを提供する人財育成機関となるべく設立された。

設立と同時に担当者としてANA人財大学に携わることになった服部氏。もともと教育担当をめざしていたわけではないが、人事に関する仕事を専門としたいという想いがあったため、異動は嬉しかったという。

もっとも服部氏には、入社当時からそうした志向があったわけではない。キャリアを重ねていく中で、想いが醸成されたのである。

「私が就職活動を行っていた1992年は、バブル景気が崩壊した翌年です。就職活動は、それまでの売り手市場が一転した年でした。数多くの企業を訪問する中、需要の拡大が続く航空業界で挑戦を続けるANAに興味を持つようになりました。当時出会った社員一人ひとりは非常に個性的で社内には活気があり、働く手応えを得られそうだという期待を感じました」

総合職事務職の仕事は、グループの事業全体を見渡し、専門性の高い他の4職種やグループ会社の仕事を有機的に結合させ企業価値を高めるというもの。

華やかなイメージが先行しがちな航空業界だが、服部氏の場合、空港の現場でお客様に相対しながら日常の仕事に鍛えられる泥臭さに惹かれたという。

いうべきことは率直にいう

期待と不安を抱き入社し、初めての配属先となったのが大阪空港支店旅客部。覚悟していたとはいえ、制服を着て空港内でお客様に相対する仕事はやはり厳しいものだったと振り返る。

慣れない仕事に加え、翌年の関西空港開設の準備を進めていた。そんな中、阪神淡路大震災を経験した。がむしゃらに、若さで乗り越えた気がする、と服部氏は述懐した。

4年後の1997年、関西地区の空港旅客サービス会社であるエーエヌエースカイパルへ出向する。

「今でこそ、新入社員がグループ会社に出向ということも珍しくありませんが、当時は20代の若手が出向することは異例でした」

これより前からANAは、グループ会社化を段階的に進めてきた。景気の低迷、グローバル化の進展、ITの進化といった経営環境変化の中、航空会社は分社化することで経営の効率化を図ると共に、人財の専門性を育み、グループ全体の価値を高める必要があった。

しかもエーエヌエースカイパルは、服部氏が入社した年と同じ、1993年に設立されたばかり。そうした状況で、自分と同世代のプロパー社員を採用し、教育するという仕事を担当したのだ。これは、管理者としての経験どころか人事の仕事の経験もなかった服部氏にとって、大きな挑戦となった。

グループ全体の業績向上をめざして働いているはずなのに、親会社からの出向者とプロパー社員という立場の違いが、さまざまな場面で心理的な壁をつくり、お互いに距離を感じてしまう。問題点を指摘しても、素直に納得してもらえないこともある。指示に従ってはくれても、やらされているという態度が見え隠れすることもある。

「最初は、そうした関係に抵抗があり、いうべきことを控えることもありました。心の底に、厳しいことをいえば嫌われる、いい人だと思われたいという気持ちがあったのかもしれません。他の出向者の中にも、過度に部下に迎合する人もいて、“事なかれ主義”的な職場になっていました。しかし、それは間違いです。問題点を指摘しないのは、そこで働く人たちの成長の機会を奪うことになる、と気づいたのです」

それからの服部氏は、変わった。いうべきことは率直にいう。当然のことながら、周りとはぶつかった。

2002年に異動になるまで、親会社とグループ会社という立場の違いがあるだけで、なぜこれほどわかり合えないのかという忸怩たる思いを、常に服部氏は抱えていたという。

「最終的には、ぶつかり合う中で合意できないことはあっても、互いを認め合うことはできたかな、という実感は得ることができたように思います」

企業経営における“人事”とは

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