J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年08月号

企業事例① 日本郵船 経験学習と適切なフィードバックが強いベテランの土台になる

海上運送業で120年を越える歴史のある日本郵船。海上を行く船さながら、社内には風通しの良い、明るい雰囲気が漂う。それは「全員を将来の幹部候補」と捉えられた社員たちが、ジョブローテーション、Off -JT、そして育成的フィードバックでしっかりと若い頃から鍛えられ、生き生きと働いているからであった

吉田 芳之 氏 総務CSR本部 人事グループ 経営委員 グループ長

日本郵船
1885年10月創業。海・陸・空にまたがる総合物流企業グループとしてグローバルに事業を展開。物流以外にも、客船事業、ターミナル関連事業、海運周辺事業、不動産業などを行う。
資本金:1443億1983万円、売上高:1929億1千万円(単体)・1兆9291億6900万円(連結)、従業員数:1604名【陸上1245名(うち陸勤船員234名)、海上359名】(2011年3月期)

取材・文/和田東子、写真/本誌編集部

1,600名が5万4,000名のコアメンバー

日本郵船グループは、1885年の創業以来、海運業だけでなく、現在では海、陸、空にまたがる総合物流企業グループとして、世界中で事業を展開している。世界各国に関連企業があり、グループ全体の従業員数は約5万4,000名。このうち約1,600名が日本郵船の社員である。

約1,600名の社員のうち約600名は、船に乗り込んで働く航海士や機関士などの海上職。残り約1,000名が、陸上で働く陸上職と呼ばれる。

30代後半から40代前半の社員に対して、求めることは何だろうか。総務CSR本部人事グループ経営委員グループ長の吉田芳之氏は次のように語る。

「日本郵船グループでは会社の構造上、日本郵船の社員1,600名がコアとなり、全グループ5万4,000名の社員とともに事業を展開しています。つまり、社員全員が将来の幹部候補なのです」

日本郵船の社員は、同社の英語表記にちなんで、「K等級」「Y等級」「N等級」に区分されている。新卒社員はK3になり、順次K2、K1、そしてY2……と等級が上がる。3段階のK等級を終えるのに、およそ10年。Y2は5年、Y1は7年が目安だという。

今回の特集テーマである30代後半から40代前半の社員とは、同社ではY2からY1の社員に当たる。Y1はいわゆる課長職(チーム長)であり、Y2社員はその下。Y等級の社員は、海外のグループ会社のマネジメントも含めて、さまざまな重要な仕事を担う。そのため、同社ではY1以前までに、誰もがどんな職場でも管理職を担うことができるよう、育成を行っている。

全グループ5万4,000名のコアメンバーだけあり、この年代の社員は働き盛り。同社ではポスト不足やそれに伴うモチベーション低下等の問題は見られないという。

「Y等級はいわゆる課長職。一番働いてもらう時期です。現場のことは実質チーム長が決めているわけで、権限もある。一番仕事をわかっていて、現場の最前線でバリバリと働いてもらわないといけません。

この時期は、『会社を動かしている』という感覚が出てくる頃ですよね。自身の考えが直接会社の動きに反映されるようになり、仕事は大変だが面白い。モチベーションをダウンさせている暇がないのが実情です」(吉田氏、以下同)

ローテーションによる機会提供が社員を伸ばす

日本郵船では社員に求める資質について、以下の3つを挙げている。

①異文化や異質な考え方に対する「包容力」とあらゆる変化に対応する「柔軟性」②明確な目的を自ら設定し、確かなコミュニケーション能力により周囲を引っ張る「リーダーシップ」

③幅広い視野と高い専門性を併せ持ち、目標達成のために自在に組織を動かす「マネジメント能力」

現場の最前線で仕事を動かすY1、Y2の社員には、この3つの要件はすでにクリアしていてもらわなければならない。したがってY2になるまでのK等級の間にいかに育成するかが重要となる。

日本郵船の社員育成の柱は3つあると吉田氏はいう。「ジョブローテーションによるOJT」「OJTを補完するOff-JT(研修)」そして「人事評価制度」だ。

育成の核といえるのはジョブローテーションだろう。日本郵船では3~4年ごとに異動があり、どの社員も10回程度は所属部署が変わる。そのうち1回から3回は海外勤務を経験する。一方、同じジョブローテーションとはいえ、育成的な観点から見ると、等級によって目的は異なる。「K等級の間はさまざまな部署を回って会社の仕事を覚えてもらいます。次のY等級はK等級での経験を踏まえ、自分の得意分野は何か、適性は何かを見極める時期です。そして部長(グループ長)、副部長に相当するN等級では自分の専門性を発揮する部署に着任し、職務を全うしてもらうわけです」

もちろん、吉田氏自身も多くの部署と業務を経験。インドや中東向け貨物の集荷に始まり、土地開発事業、船の発注とその管理、インドネシアでの不定期船事業のマネジメント、業界団体での秘書業務等を経て、現在は人事グループのグループ長(経営委員)を務めている。

自身を成長させる秘訣は柔軟性と気概を持つこと

このようなジョブローテーションによる成長には何が必要なのだろうか。まず、現場で上司や同僚、部下などさまざまな人がかかわって“ワークプレイスラーニング”(現場の学び)が起きていることが重要だ。

同時に学ぶ側が「学べる姿勢」を持っているかどうかもポイントとなる。人事異動の多い同社でも、時には、「自分はなぜこんな部署にいるんだ?」といった疑問を感じる社員も現れるという。

「異動した先には、必ず何かしら得るものがある。そう考えて仕事に取り組むことが大事で、そうでなければ成長できません。

私自身、それぞれの仕事でいろいろなことを学んできました。たとえばインドネシアでは最初は怒ってばかりいました。というのも、現地では納期や日常の時間管理に対する意識が緩やかで、法令遵守の商習慣も未成熟だったためです。しかし彼らに気持ち良く働いてもらうにはどうすればいいか、それができるとどう事態が好転するかを考え始めてから見方が変わったんです。するとだんだん、現地のやり方が心地よくなってくるんですね(笑)東京に戻った時には『吉田、ずいぶんのんびり歩いているなあ』といわれました。最後には歩き方まで変わってしまったわけです」

さまざまな部署で培った経験は人事に異動してからも役立ったという。「人事経験がないのにいきなり人事部長なんて、乱暴な会社ですよね(笑)。ただ、いろいろな場所で仕事をしてきたので、どの部署にどういった人がふさわしいのかはわかっていました。ですから人事に移ってから最初の仕事となった採用面接は、それで乗り切れた。仕事の経験は、何かしらつながっているのです」

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