J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年06月号

回復力を高める 教育の力を信じて


寺田 佳子氏(てらだ・よしこ)
ジェイ・キャスト執行役員、IDコンサルティング代表取締役、日本イーラー
ニングコンソーシアム理事、IT人材育成事業者協議会理事、eLP(eラー
ニングプロフェッショナル)研修委員会委員長、JICA情報通信技術分野
課題支援委員、JICA─NET Instructional Design Seminar講師、AS
TD(米国人材開発機構)会員。著書に『IT時代の教育プロ養成戦略』
(共著、東信堂)など。http://instructionaldesign.blog97.fc2.com/

あの日からID designerは……

オフィスのあちこちから、「ブワ、ブワ、ブワ~」という音が響く。携帯電話の緊急地震速報の着信音である。

仕事の手を止め、「来ますね?」「そうね!」と目と目で合図しながら身構える。

あの日――「3.11」から、オフィスの日常が変わった。

エアコンを切ってひざ掛けを出し、天井の蛍光灯を消して太陽の明るさを感じるようになった。ウォーターサーバーを遠慮しながら使い、階段の上り下りで足腰が鍛えられる。

変わったのは、仕事場の風景だけではない。

企業の研修プログラムも緊急体制にシフトした。東日本大震災の被害の影響で、鉄道の関連企業は、送電線工事、通信ケーブル接続、信号工事、軌陸車などの作業要員の確保が急務となり、化学プラントを抱える企業は、消防法や高圧ガス保安法の徹底、大気汚染や水質汚濁など環境対策、特定化学設備の災害対策の大幅な見直しが必須となった。

このような非常時のトレーニングを、スピーディに設計するために、インストラクショナルデザイナーはまず現場に走る。今、どんな情報が足りないのか、新しい業務基準や業務フローをいち早く徹底させるための障害は何か、現場スタッフのモチベーションはどうか……。五感を駆使して調査、観察を行い、現場の災害対策マニュアルから、広報のマスコミ対応マニュアルまで、緊急時用に大幅カスタマイズし、超特急でトレーニングプログラムを開発する。時間が勝負なのである。

想定外をも想定する減災管理とは

というわけで、このひと月で、スーツにパンプスより、ヘルメットに安全チョッキ、安全靴がすっかり似合うようになった。崖のそばを車で走る時は自然に法面養生※1をチェックしてしまうし、駅のホームでは工事作業員の腕章の色※2を無意識に確認している。新幹線に乗る時、ついうっかり、「ドア、よし!、段差、よし!」と指差し呼称をしてしまい、アヤシイ人物のように見られたこともある。

しかし、こうした災害対策モードでなければ学べないこともたくさんあった。中でも改めて重要だと感じたのは、「Disaster ReductionManagement=DRM(減災管理)」と「Master Resilience Training=MRT(回復力開発研修)」である。「Disaster Reduction Management(減災管理)」という手法に出会ったのは、神戸の「人と防災未来センター」である。阪神・淡路大震災の経験を語り継ぎ、その教訓を未来に活かすことを目的にしたこの施設で、災害対策専門家の育成もしていると聞き、これはぜひ行かねばと思ったのだ。震災の再現ムービーやジオラマが目玉らしいが、一番惹かれたのが「DisasterReduction Management (減災管理)」に関する資料だった。「防災」が被害を出さないことを目的にした取り組みであるのに対し、「減災」は、どんなに完璧に準備しても防げない災害があることを前提にした管理手法である。今回の東日本大震災を見てもわかるように、防災の基準を超えた「想定外」の災害は起こりうる。それをあらかじめ「想定」したうえで、それを上回る「想定外」の事態が発生した時に、被害を最小限にとどめる体制・環境・手順・ツールを準備しておくこと、それも企業と行政、市民が共同で取り組むことが減災管理なのである。だから、「減災」という思想のもとでは、「想定外の事態だから」というエクスキューズは許されない。今回の震災を機に、企業の減災管理に関する人材育成も、大きな転換期に入ったようだ。

誰でも身につけられる適応能力――「回復力」

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