J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年06月号

被災体験から学ぶ 危機時のマネジメント

3月11日、営業力強化のコンサル・研修を手がける北龍 賢氏は、管理職向けの研修講師として訪れていた仙台市郊外で東日本大震災に遭遇。
「情報が遮断され交通網が分断された中、研修参加者らと避難した体験から、危機管理における活きた教訓を得ることができた」と話す北龍氏が、自らの被災体験を振り返りつつ、危機管理、リスクマネジメントについて語った。


北龍 賢氏(きたきみ・まさる)1942年石川県生まれ。大学卒業後、外資企業に入社。
営業担当者、マネジャーとして全国一の実績を残す。27歳で社員教育センターを設立。
以来、42年間にわたり、多くの企業の営業力強化コンサルティングを手がけるとともに、企業内研修の講師などを務める。JMAMパートナー講師。

3月11日(金)

地震発生

私は3月11日、仙台市郊外の研修施設にいた。3日間にわたる大手LPガス販売会社の代理店の課長や営業所長向け研修の最終日。奇しくも、この日の研修テーマは「危機管理とリスクマネジメント」。ちょうどこの討議と発表が終わった2時46分、大きな揺れが研修室を襲った。

ドドドド……という地鳴りから始まり、突き上げるような激しい揺れが長い間続いた。室内には主催企業の社員、参加者、事務局、総勢22名がいたのだが、動転して外に飛び出す人、机の下にもぐる人、テレビなどの備品を必死に押さえる人など――咄嗟の行動は人によってさまざまだった。研修中はしっかりとした意見を述べていた人が意外に冷静さを失っている場合もあった。

危機において自分や部下がどんな行動を取るのか、その思考と行動パターンを考慮しておくこともリスクマネジメントの1つだ。

大きな地震ではあったものの、研修室には、それほど被害はなかったことと、2日前にも小さな地震があったので、「また同じような地震だな」という思い込みもあり、当初は甚大な災害だという認識は持っていなかった。とはいえ、その後安全確保のため全員が建物から外の広場に退避した。

広場で、その後について話し合ったが、傍観者になる人、主体的にかかわろうとする人、自分勝手に集団から離れてしまう人などさまざまだった。後でわかったことだが、傍観者の中には、自分が所属する支店・営業所が心配なあまり口をつぐんでしまった人もいた。

話し合いをする中で、北海道から来ていた数名が、とりあえず仙台空港まで行ってみることにし、また地元から参加している5名は車で帰宅した。

はっきりと大変な事態になったということがわかったのは、空港へ向かったメンバーが引き返してきた時だ。仙台市内は通行止め、電車はもちろん不通。仙台空港も閉鎖されているということを知り、ようやく事態の深刻さに気づいた。

危機管理においては、「危機の全体像をつかむことが大切」ということがいわれる。理論的にはその通りだが、実際の危機的状況では、情報取得が難しい。むしろ、最少の情報から危機の全体像をざっとでもイメージできるかどうかが問われるということを痛感した。

交通網が機能するまでには時間がかかりそうだと判断した我々は、とりあえず研修所から一番近い参加企業のグループ支店へ移動することになった。その際、リーダーシップを発揮したのは、阪神・淡路大震災の経験があるという研修主催企業のA氏。彼は研修の際も、ファシリテータとしてメンバーから信頼されていた。そして参加者の仲で唯一、支店の営業所に勤務していて、土地勘のあるメンバーがリーダーを支えた。

危機に直面した時、リーダーとしてふさわしいのは、直面した状況について質の高い知識や経験を持っている人だ。そして当面の障害を乗り切らねばならない時は、そのことに詳しい人の力を借りる必要がある。

我々は荷物をまとめ、支店の営業所へ向けて歩き始めた。みんな3泊分の大荷物を抱えて雪のちらつく中、電灯のつかない薄暗い道を黙々と歩いた。途中、道路が陥没した箇所などもあり、改めて被害の甚大さを目のあたりにした。この移動中、はぐれないよう、土地勘のあるメンバーが列の最後尾についてくれた。ただ、土地勘のないメンバーたちは、あとどれだけ歩けば営業所につくのかがわからず不安で一杯になっていた。

仮説でもいいので、今後の見通し、危機を乗り越えるまでの期限をリーダーが示せば、メンバーの不安が解消されたかもしれない。

約40分をかけて支店の営業所着いた時には、すっかり日も暮れ、停電で電気は消え、営業所も施錠されて入ることができなかった。すると、暗黙のリーダーであるA氏が「こんな時は、近所の小学校が避難所になっているはずだ」と、そのまま歩いて10分ほどの所にある小学校へ。

こうした機転がきいたのは、リーダーの阪神・淡路大震災時の経験のおかげだろう。

3月11日(金)

避難所の小学校

避難所となっている小学校の講堂へ入ると、室内は、避難してきた地域住民の方々でぎっしりと埋めつくされていた。避難者名簿に記名をし、水のペットボトルを受け取る。すでに400名以上がこの避難所にいた。

我々が割り当てられた場所は出入り口近くの一画。全員がスーツ姿の我々は、地域住民の方々には、異質な集団として映っていたことだろう。来る途中で、夕食用の食品なども買っていたのだが、着の身着のまま逃げて来た人たちを前にして、とても食べられる雰囲気ではなかった。

その日は、この避難所で一夜を明かした。板張りの床は段ボールを敷いても底冷えし、出入口が開閉されるたびに冷気が入ってきた。足を伸ばすほどのスペースもなく、縮こまり、肩を寄せ合うようにして過ごした。寒さのため、ほとんど眠ることはできなかったが、それでも、体力的に弱そうな人や女性を少しでも暖かい所に座ってもらうようにするなど、メンバー同士の助け合い、思いやりがあったことは良かった。

組織の中には強い人、弱い人、さまざまな人がいる。自然に他のメンバーをサポートするといった助け合う組織風土があることは、チームのマネジメントにおいて非常に大切だ。

避難所で過ごす中で感じたことの1つは、子どもの力だ。避難所には老若男女いりまじって避難していたが、その中に1、2歳の子どもがいた。誰もが険しい表情となっている中、子どもの無邪気な笑顔に多くの人がほっと和み、癒された。

これは組織、チームの場合にも当てはまるのではないか。緊急時、ピリピリしたムードを、ちょっとした気遣いやキャラクターで和ませる人の存在は、組織、チームで危機に立ち向かううえで、大きな力となるように思う。

3月12日(土)

支店の営業所へ

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