J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年06月号

ウェイが実践される組織には 具体的な仕組みがある

言葉としてのウェイは、とかく「美辞麗句」や「お題目」になりがちである。
ウェイでいう価値観を社内のすみずみに満たし、
現場における具体的な行動指針としていくには、どうすればいいのだろうか。
ウェイを「重要な経営資源」と位置づけるHRインスティテュート代表 
野口 昭氏に、ウェイが実践される組織の特徴と、人事の役割を聞いた。


野口 昭氏(のぐち・よしあき)
横浜国立大学大学院工学研究科修了。建築設計
事務所、ビジネスコンサルティング会社を経て、
1993年HRインスティテュートを設立。独自の
視点から使えるコンサルティング・実践される
コンサルティングにこだわり、現場での指揮を
執る。著書に『コンサルタントの「軸」思考術』
(PHP研究所)、『「ウェイ」のある強い経営』(か
んき出版)などがある。

取材・文/西川敦子、写真/HRインスティテュート

非常時ほどウェイが試される

3月11日に発生した「東日本大震災」で、私は多くの読者の皆さんと同様、帰宅困難者となった。クライアントのオフィスのある銀座から横浜の自宅まで、延々30㎞の道のりを歩き続けることになったのである。以前から「ひとたび大震災が起これば、道路は大渋滞し、歩道は徒歩で帰宅する人々で溢れかえる」といわれていたが、まさか本当に現実になるとは思わなかった。ただ、それはいろいろな意味で発見の多い旅でもあった。

印象的だったのは、大勢の帰宅困難者を温かく迎えてくれた店舗や病院である。トヨタの販売店は営業時間をとうに過ぎてもショールームを開けており、トイレや休憩場所を提供していた。また、あるコンビニエンスストアでは、店舗前に机を出して携帯電話の充電器を各種用意し、無料で利用させてくれた。川崎市内の総合病院ではロビーを開放していた。トイレや電話の利用はもちろん、温かなスープやお茶、さらにはパンまで無料配布。体調の悪い利用者がいれば、看護師が対応してくれるという至れり尽くせりぶりである。そのホスピタリティ溢れる姿勢には感動を覚えずにいられなかった。

彼らは皆、トップの指示で動いているようには見えなかった。あくまで現場の判断で、人々に手を差し伸べているように、私には思えた。

一方、道中見つけた某自転車販売チェーン店は、2店舗とも20時で販売を打ち切っていた。あの夜、自転車が使えたら、どれだけの人が助かったことか。改めて、こういう時こそ組織が日頃、人間を尊重しているかどうかが表れるように感じた。

いい換えればそれは、非常時ほどウェイ――その企業らしさ――が現場で活きているかどうかが試されるということでもある。

私がウェイと呼んでいるのは、強い組織の現場の基盤になるミッションやビジョンであり、大切にしている価値観だ。トップと現場を緊密に結びつけるものでもある。それらしい文言を額に入れ、ウェイとして掲げている企業は少なくないが、もちろんそれだけではウェイは機能しない。現場で意識され、実践され、仕組みとして動いて初めてウェイになる。つまり、「その企業らしい人や組織の動き方、動かし方」こそがウェイといえるであろう(図表1)。

それでは、具体的に“現場で活きるウェイ”とは、どんなウェイなのだろうか。

守ること進化させること

現場で活きるウェイの第一条件は、「揺るぎない企業遺伝子となっていること」だ。

強力なカリスマ性を備えたトップがどれほど素晴らしいウェイを掲げようとも、彼・彼女の交代とともにウェイが変わるようでは意味がない。真のウェイとは、経営環境や経営方針の変化とかかわりなく、脈々と受け継がれていくものである。そして、こうしたウェイは、緊急時ほどその底力を発揮する。

たとえば1982年に起きた、米国の「タイレノール事件」。ジョンソン・エンド・ジョンソン子会社の頭痛薬「タイレノール」に、何者かがシアン化合物を混入し、服用した数名が死亡した、とされる事件である。この時ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、事件発生直後に経営者会議を召集し、満場一致で製品の全回収を決定した。もちろん生産も中止。1億ドル超をかけ、回収に励んだ。実は、本当にタイレノールに毒物が混入していたかどうかは、この時点では定かではなかった。にもかかわらず、同社は「消費者の命を守る」という彼らのウェイを貫き通した。1943年に発表されたジョンソン・エンド・ジョンソンの「Our Credo(我が信条)」は、絶えることなく次代へと受け継がれていたのである。

現場で活きるウェイのもう一つの条件とは、「常に進化(改“善”)し続けること」である。職場における悪玉遺伝子を発見し、それを根絶していく勇気と、善玉遺伝子を守り育てていく努力。この2つが行われなければ、どんなに立派なウェイもお題目に終わってしまい、企業の進化もストップする。

日本には昔から、「道」を極める際の心得として「守破離」という言葉を遣うが、ウェイもまた、この守破離にのっとって進化させねばならない。まずはどんな非常時においても行動指針となるウェイをつくり上げ、必ずそれを守る。さらに、必要な時が来ればイノベーションを起こし、守り抜いてきたウェイを破る。その後、自ら主体的に動き、新しい「守」をつくっていく。

こうしてウェイを進化させることのできる企業は、限りなく成長していくことだろう。企業遺伝子を常に改善していく姿勢が、トップにも現場にも必要である。

活きたウェイは回り続ける

以上、ウェイに不可欠な2つの条件を述べてきた。では改めて、日本の企業はどのようにウェイを捉え、運用しているのか考察してみたい。さまざまなウェイを見渡すと、主に4つのタイプに分かれるようだ。

①「理念型」

②「現場起点型」

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