J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年04月号

リーダーシップは 誰のものか

前号の第2回では、経営学とは「測定と管理」の学問
であり、それを人材育成に応用することは、人材のパ
フォーマンスを測り成長度合を管理するということであ
ること、しかしそれは、人間性の管理とは全く異なるこ
とを述べた。今回は、リーダーとリーダーシップについ
て考える。


酒井 穣氏(さかい・じょう)
フリービット戦略人事部ジェネラルマネジャー。慶應義塾
大学理工学部卒。TiasNimbasビジネススクールMBA首席。
商社勤務の後、オランダの精密械メーカーに転職。2006年
にオランダでITベンチャーを創業しCFO就任。2009年4月
に帰国し現職。近著に『これからの思考の教科書』(ビジ
ネス社)、『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』
(光文社)がある。人材育成メルマガ『人材育成を考える』
(無料)を毎週発行している。
http://www.mag2.com/m/0001127971.html

「リーダーシップ」から忘れられている側面

「自分の考えたとおりに生きなければならない。そうでないと、自分が生きたとおりに考えてしまう」Paul Bourget(小説家/1852~1935年)

最近、『リーダーシップでいちばん大切なこと』(JMAM/刊)という書籍を上梓しました。この本では、リーダーシップとは何であり、それは誰にとって必要なのか、またその学習方法について、6名の若きリーダーたちの姿を取り上げつつ紹介しています。そこで今回はこの誌面でも、リーダーシップについてお話したいと思います。

リーダーシップは、経営学において最も重要なテーマの1つであると同時に、最も難しいテーマでもあります。一般に、リーダーシップとは「価値観を示し、人を巻き込む力」のこと。またリーダーとは、そうした力を持った人のことといわれます。しかし、膨大な量に及ぶリーダーシップに関する研究は、主に「人を巻き込む力」のほうばかりに注力してきたように思います。この「人を巻き込む力」は、マーケティング(=自分の思う方向に他者を動かす活動)に近い話ですので、実利を求める人々の関心を誘ったのでしょう。

そうした流れの中で、僕たちは「自分の価値観を示す」という、人間にしかできず、そしておそらくは人間にとって最も重要なテーマを忘れてきたのではないでしょうか。

画家フィンセント・ファン・ゴッホは、美術史における偉大なリーダーといってよいでしょう。ゴッホの絵は現代でこそ非常に高く評価されていますが、生前にはたった1枚しか売れなかった。生前には、フォロワーなど全くいなかったことになります。そんな彼に、死後、多くのフォロワーが群がることになった事実は、僕たちに「リーダーシップは、リーダーの死によっては失われない」という重要な視点を与えてくれます。

吉田松陰や坂本龍馬の例を挙げるまでもなく、リーダーの価値観が、何らかのアウトプット(作品や物語)として残される時、そのリーダーシップはリーダーの死後も、時間と空間を超越して発揮されます。

結局のところ、ある人物が偉大なリーダーかどうかは、歴史のチャレンジを受けてみないとわからないということです。つまり、リーダーの価値は、現時点で多くのフォロワーがいるか、いないかということでは決められないということです。しかし、過去のリーダーシップ研究の多くは、すでに地位や名声を獲得している(フォロワーの多い)人物に「共通する何か」を探ってきました。

「リーダー」とは成果を上げる人物のことか

リーダーシップは、古代ギリシャにおけるヘロドトスの『歴史』やプラトンの『国家論』などにも言及があるように、時間や地域を越えて世界的な関心を集めてきた重要なテーマです。リーダーシップは、人間にとって永遠のテーマなのでしょう。

そんなリーダーシップは、20世紀の初頭から科学的に研究されるようになり、その後も多くの優れた結果が生まれています(P65今月のKeywordを参照)。これらの研究は一貫して、リーダーを「集団を動かし、高い業績を上げる人材」として捉える視点を中心としています。

もちろん、誰もが「高い業績」を上げたいわけで、その意味ではこれらの研究結果には大きな意味があります。何よりも、過去の研究の多くは、組織の効率的な運用(つまるところ利益の上げ方)を研究する「経営学」という文脈の中でリーダーシップを考えているわけですから、業績にこだわるのは当然のことです。

しかし私は、ずっと「リーダーとは、高い業績を上げる人材である」という考え方に同意できないでいます。もちろん、業績を上げることは大切ですが、リーダーシップを考える時、業績にこだわり過ぎると見えなくなる“大切なこと”があると考えているからです。

リーダーとは、自分の価値観を示し、それに沿って行動できる人のこと。そして私が強い興味を持っているのは、自分の価値観通りに行動できる人は、どのようにして自分だけの価値観を獲得し、孤独をはねのけ、自分の信じることに絶え間ない情熱を注ぐことができるのか、ということです。どうすればそのような人物に近づくことができるのか、私も常に模索しています。

誤解を避けるために付け加えておきますが、「孤独」といっても、リーダーに家族や友人が必要ないということではありません。人間は強い存在ではないので、安息や、自分にとって大切な人々との関わりが絶対に必要です。ただ、それらは人が生きることの目的にはならないと思うのです。

誰のためのリーダーシップなのか

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