J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年08月号

ここから始める!ポジティブメンタルヘルス 第4回 人事でつくることができる仕組み 職場活性化への具体的なヒント

依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。

小林 由佳(こばやし ゆか)
兵庫県神戸市生まれ。2005年岡山大学大学院医歯学総合研究科衛生学・予防医学分野修了。臨床心理士、博士(医学)。大学院在学中より企業のMH体制構築、カウンセリング、教育、職場活性化の取り組みなどに従事。2009年より現所属。

TOMH研究会とは?
2009年に発足した、「東京大学Occupational Mental Health」研究会。研究と実践領域の専門家が集まる。鍵となるテーマを検討・追究し、研究と実践の橋渡しを通じて、働く人全てのメンタルヘルス向上と、専門職のレベルアップに役立つノウハウの蓄積を行う。

[イラスト]=NLshop/shutterstock.com

1.はじめに

前号までで、メンタルヘルスに関する新潮流とこれからの対策の進め方の方向性が整理され、人事でつくることができる仕組みとして、組織活性化のポイントが示されました。本号では、組織の活性化(職場環境改善)の方法を整理し、具体的なヒントにつなげていきますが、その前に、なぜメンタルヘルスのために組織活性化が重要なのか、改めて整理しておきたいと思います。従来のメンタルヘルスケアでは「不調者へのケア」が主に行われてきました。そのため、「メンタルヘルスケア」というと、不調の状態を通常の状態へ戻すもの、という認識が広く持たれています。しかし、職場の人間関係や仕事の質といった業務関連要因が不調と深くかかわる近年の状況で、この「マイナスをゼロに」という対応だけでは、不調の発生を抑えることは難しいことがわかってきました。むしろ必要なのは、理想や目標の達成に向かって個人や組織を活性化することで、「ゼロからプラスの状態」をめざすことです。それが組織のwell-beingを高め、結果的に不調の発生も抑えられるのです。具体的な実践方法には、組織向けと個人向けの2つの方向性があります。組織向けのアプローチは、職場環境の根本要因を扱うため、個人向けアプローチよりも効果が大きく持続することが示されています。しかし、組織を活性化していくには個人のリソースも高める必要があるため、最も効果的なのは組織向けと個人向けの双方を組み合わせて強化することといえます。そうした職場活性化(職場環境改善)の取り組みの効果は、これまでに数多く報告されています※1、2。健康や生産性に関する指標としては、抑うつ、不安、循環器系疾患のリスクファクター、疾病休業、離職率、パフォーマンスが挙げられ、実践施策の有効性が示されています。また、職業性ストレスに伴う要因として、職場サポート、裁量度、職務満足感、モチベーション、バーンアウトなどの心理的指標に対する効果も認められています。

2.取り組みの効果を上げるには

このように効果の認められている職場活性化の方法には、いくつかポイントがあります。最も推奨される点としては、従業員が参画すること、つまり従業員参加型のアプローチであることです※1。その理由は、大きく3つ挙げられます。1つは、現場の課題と解決策をよく認識しているのは従業員自身であることから、従業員参加型にすることで職場を活性化していくのに妥当な視点が示されるという点です。2つめは、従業員たちが自ら主体的に職場組織について考えることが集団での目的意識と責任感につながり、当事者意識の醸成と対応の実践につながるという点です。管理者だけで対応を考えると「的外れな対策」や「やらされ感」につながりがちですが、自分たちで考えたことは必要性が理解されているだけに実践されやすく、組織の変化を導きます。3つめは、従業員同士が職場環境について本音で語り合うことによってコミュニケーションが活性化し、同僚間のサポートが向上するという点です。スピードが求められる昨今の労働環境下では、面と向かって職場環境について話し合える時間は多くないでしょう。しかしこのような機会を設けて、それぞれが普段から持っている疑問点やもやもやとした感覚を共有し、考えを交換すると相互理解が進み、組織としての学習も促されます。従業員参加型の取り組みは、組織のリソースと個人のリソースを同時に高められる合理的なアプローチといえるのです。

3.基本的な進め方

職場環境改善活動の進め方は、図表1のプロセスが基本です。1.現状の認識、状況把握のために調査票などを用いて組織の状態を定量的に示すと、関係者の関心も高まります。2.の対策討議と立案の段階では、先に挙げた従業員参加型での話し合い(検討会)をすることが有効です。組織の責任者を交えて全体で対話した後、組織として対応策をまとめたら、3.必ず実行に移すこともポイントです。参加型検討会では、4~7人程度の少人数の構成にしたり、同じような立場の人を集めたり、人間関係の悪い人を一緒にしないなど、グルーピングを工夫すると、意見が出やすくなります。また、他人任せの提案では、結局実現に至らなかった時に不満しか残らないので、討議する内容は、参加者自身で対応できることを扱うようにすることも大切です。実行した後の4.フォローアップは、効果を高めるために必須といえます。対策の妥当性、実効性を確認し、軌道修正を行います。

4.実際に推進する際のポイント

基本的な進め方を紹介しましたが、効果的に進めていくためにも、いくつかのポイントがあります。2011年、厚生労働省の研究班の活動の一環として、職場環境改善活動を進めている企業の担当者を集めて、活動の導入・展開・継続のそれぞれの過程で効果を高めるためのキーポイントの抽出と課題整理が行われました※1。そこでまとめられた内容に沿って、職場環境改善の具体的なヒントを以下に紹介します。

1.活動の位置づけと部署間の役割分担・連携の明確化

会社の施策として取り入れる際には、すでに展開されている施策と、新しく取り入れる活動を整合させる必要が生じます。図表2に、対策のレベル(経営・職場・作業)を縦軸に、ハード面・ソフト面への対応を横軸に整理しました。経営レベルのハードは、主に福利厚生領域で対応されるような内容といえます。またソフト面に挙げた施策は、経営企画部門や人事企画部門で企画立案されている企業が多いのではないでしょうか。また、職場レベルと作業レベルのハード面は、製造業ではQC活動やその他改善活動で推進されている内容かもしれません。そのような場合、組織活性化のための職場環境改善活動は、ハード面をカバーしつつも、ソフト面に主眼を置いた対策として位置づけるのが妥当と考えられます。

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