J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年11月号

連載 ここから始める! ポジティブメンタルヘルス 第7 回 職場で対応に困るうつ病事例の特徴と対応のポイント

依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“ 未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。

今村 幸太郎(いまむら こうたろう)氏
北海道出身。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程修了後、2013年より現職。博士(保健学)、公衆衛生学修士、臨床心理士。ネットを活用した認知行動療法による労働者のストレス改善やうつ病予防の研究に取り組む。

川上 憲人(かわかみ のりと)氏
1957年岡山県生まれ。1985年、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。以来、産業保健と精神保健の研究・教育に従事。東京大学助手、岐阜大学助教授、岡山大学教授を経て2006年から現職。日本産業保健学会等、数々の学会の理事を務める。

小林 由佳(こばやし ゆか)氏
兵庫県神戸市生まれ。2005年岡山大学大学院医歯学総合研究科衛生学・予防医学分野修了。臨床心理士、博士(医学)。大学院在学中より企業のMH体制構築、カウンセリング、教育、職場活性化の取り組みなどに従事。2009年より現所属。


TOMH研究会とは?
2009年に発足した、「東京大学OccupationalMental Health」研究会。研究と実践領域の専門家が集まる。鍵となるテーマを検討・追究し、研究と実践の橋渡しを通じて、働く人全てのメンタルヘルス向上と、専門職のレベルアップに役立つノウハウの蓄積を行う。

[イラスト]=NLshop/shutterstock.com

1. はじめに

近年、職場の産業保健スタッフや人事労務担当者の方々から、職場で見られるうつ病の従業員の特徴が変わってきたことが指摘されています。

従来のうつ病は、典型的には40 ~50 代での発症が多く、真面目で几帳面で自分を責める傾向が強い従業員が「会社に迷惑をかけたくない」という思いから無理をして体調を崩してしまう、といったものでした。しかし、近年指摘されるうつ病と発症する従業員の特徴は、そうした従来の姿とは大きく異なります。

近年見られるうつ病の特徴的なエピソードとしては、30 代前後のわりと若い世代での発症が多く、うつ病と診断されて休業中であっても私的な飲み会などに参加して職場の同僚に目撃されたり、旅行や遊びに行った様子がブログやTwitterなど、インターネット上に書き込まれ、それを見た上司や同僚を驚かせる。一方で仕事のこととなると、うつ病になった原因は職場の上司や同僚にあると、他人を責めるような言動をしたり、なかなか復職への意欲が湧かず、長期の休業を経ても体調が安定せず、やっと復職してもまたすぐに体調を崩してしまう、といったものです。このような特徴から、職場では「わがまま」「自分勝手」だと誤解され、周囲から否定的な感情を持たれることで、より病状が不安定になる、といった事例も見られます。

こうした、従来型のうつ病の基本対応である「休養と服薬」が奏効せず、職場での対応もより困難であるといわれる、うつ病または抑うつ症状を呈する事例は、「新型うつ病」といわれることがあります。しかし、「新型うつ病」という言葉は医学用語ではなく、誤解を招く不適切な表現との意見が多いため、専門家の間では、「新型うつ病」という呼称の使用は避けています。こうしたいわゆる「新型うつ病」事例への考察としては、これまでに、ディスチミア親和型うつ病※1、現代型うつ病※2、未熟型うつ病※3、逃避型抑うつ※4、などが提唱されており、共通の特徴として、①発症年齢が若い(30 歳前後)、②うつ症状は軽症の場合が多い、③自責的傾向は目立たず逃避傾向が見られる、などが挙げられています※5。しかし、現状ではこの事例に有効な治療法は確立されておらず、職場で有効となる具体的な対応法についてもあまり検討されていません。

そこでTOMH 研究会では、上記のような「職場で対応に困るうつ病」事例について、産業精神保健の専門家や複数の企業の産業保健スタッフ、人事労務担当者の方々から情報収集を行い、対応に困った点を類型化し、職場で対応に困るうつ病事例の行動特性を明らかにすることに取り組みました。そして、その結果をもとに、事例の行動特性を評価し、職場での対応に役立てられる「職場で対応に困るうつ病事例の行動チェックリスト」を作成しました。

本稿では、類型化から整理された結果と、結果をもとに作成された行動チェックリストを紹介します。

2. 職場で対応に困るうつ病事例の類型化※6

具体的にはまず、2011年1月に4企業の産業保健スタッフおよび人事労務スタッフ計8名と、TOMH 研究会のメンバーで情報交換会を開催し、参加者が経験した「職場で対応に困るうつ病」事例の共有と、それぞれの事例について対応に困ったことや問題点についての具体的な情報収集を行いました。そこで収集された情報をもとに、職場で対応に困るうつ病事例の4つの行動特性(自己中心的・自己愛的行動傾向、回避的行動傾向、短絡的・享楽的行動傾向、権利主張傾向)を抽出しました(図表1)。そして、それらの行動傾向について、特に自己中心的・自己愛的行動傾向に着目し、自己中心的行動傾向と自己愛的行動傾向のどちらが優勢かによって、さらに2つの型に分類しました(図表2)。

これらの結果からは、以下の考察がなされました。1つは、今回整理された行動特性は、精神医学的にうつ病と診断される状態にあるかどうかにかかわらず生じる可能性がある、ということ。そして、これらの行動特性は、休業に入る段階、休業中、復職する時、また休業に至る前の段階で、本人がうつ病と申し出たり、通院を開始したりした状況で勤怠に影響が出た時にも顕在化しやすいといえるということです。

行動特性の類型については、図表2の通り、自己中心的傾向が優勢のA 型と、自己愛的傾向が優勢のB 型に区分することが病状の理解と対応に有効である可能性があります。

A 型への対応の例としては、一般常識と思えるような事柄についても、職場の社会的ルールを具体的、明確に説明することで、問題行動が是正される場合があります。たとえば、療養中は職場の同僚に誤解されるような行動(例:職場の同僚と会う可能性のある私的な飲み会やイベントへの参加、旅行や遊びなどの個人的な余暇活動をネット上で公開する)は慎む、などです。また、回避的行動傾向(本人にとって嫌なこと、苦手なこと、ストレスと感じることを避ける傾向)が強い場合には、休業時にも職場との心理的距離を遠ざけ過ぎない工夫が効果的な場合があります。

B 型への対応の例としては、自己愛的行動傾向の特徴に留意しつつ、上司、人事、産業保健スタッフなどの関係者が相互に連携し一貫した対応をすることが重要となります。自己愛的行動傾向の特徴とは、自己主張、自己欲求の強さ、他者への配慮のなさなどの特徴が強く見られ、自己に過剰な自信を持ち、それが傷つけられた時には攻撃的な言動をして周囲とトラブルになる、といったものです。これらの行動特性は、病前の性格や行動パターンが影響していると思われるケースと、発病や休業後に初めて現れるケースがあります。

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