J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2013年11月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 “木登り型”の世界を見晴らすプロ集団をつくれ!

血球計数分野で世界シェアNo.1の地位を獲得しているシスメックス。血液や尿、細胞など検体検査全体の領域では世界トップ10に位置する。「検査」をキーワードに、医療機器、試薬、サービス&サポートなど幅広く事業を展開してきた。採用や育成もユニークだ。会社と人材がいつでもどこでも出会える「世界面接」などの試みを続けている。グローバル人材が互いに混ざり合い、視野を広げ、刺激し合う場づくりについて話を伺った。

家次 恒(Hisashi Ietsugu)氏
シスメックス 代表取締役会長 兼 社長

生年月日 1949年9月17日
出身校 京都大学経済学部
主な経歴
1973年 4月 三和銀行
(現三菱東京UFJ銀行)入行
1986年 9月 東亞医用電子(現シスメックス)
入社 取締役 就任
1990年 3月 常務取締役 就任
1996年 4月 専務取締役(代表取締役)就任
1996年 6月 代表取締役社長 就任
1998年10月 シスメックスに社名変更
2013年 4月 代表取締役会長 兼 社長 就任
現在に至る

シスメックス
1968 年2月20日設立。検体検査に必要な機器・試薬・ソフトウェアの研究開発から製造、販売・サービス&サポートを一貫して行う総合メーカーとして、現在、世界170カ国以上で事業を展開。
資本金:97億1,177 万円(2013年3月31日現在)、連結売上高:1,455億7,700万円(2013年3月期)、連結従業員数:5,594 名(2013年3月31日現在)

インタビュアー/西川敦子
Interview by Atsuko Nishikawa
写真/行友重治
Photo by Shigeharu Yukitomo

「専門性」の落とし穴に陥らない

――血液や尿、細胞などを採取して調べる検体検査の分野で、世界的シェアを獲得されています。近年、世界各国でのニーズの多様化や医療インフラ整備の進む中、従来のヘマトロジー(血球計数検査)のみならず、免疫、凝固などその他の検体分野やライフサイエンス領域へと事業を拡大されています。人材に求める能力も変わったのでしょうか。

家次

昔のように専門性にばかり頼れない時代になりましたね。今は、働く人々が「2つめの強み」を持つべきで、それも自分自身のオリジナルな強みが必要です。大学でいう第2外国語みたいなものでしょうか。

当社はもともと技術系の会社です。臨床検査機器や試薬などのモノづくり、研究開発が起点。だから伝統的に技術系の人間が多かったわけですが、グローバル展開を続けるためには、技術に詳しいだけでは不十分です。昨今はお客様の幅が急速に広がり、販売やマーケティングの知識が求められるようになっていますから。

当社の核となる機能の1つ「サービス&サポート」のサポートをとってみても、操作やメンテナンス関連だけでなく医療関係での学術的サポートなど、関連する職種がどんどん広がっています。

―― 一般的にも、仕事の細分化、専門化は進んでいます。その一方で、大学教育と仕事の現場との乖離も大きく、自分の方向性が見出せない若手が増えていると聞きますが。

家次

どんな仕事に自分が向いているのか、若い人にはなかなか見極められないでしょうね。

日本人は何となく大学に入学して、何となく4 年間を過ごし、それからわっと就活する。自分の強みなど、大抵の場合わかっていません。たとえ大学で専門知識を身につけたとしても、そこにぶら下がっているのは危険です。知識とはいずれ陳腐化するものなのですから。

――処方箋はあるのでしょうか。

家次

30歳くらいまでは専門分野に限らずいろんなことを体験させるべきだ、というのが私の持論です。

ですから、当社では若手にいろいろな仕事を体験させています。どんな仕事に適しているのか、何が得意か、体でつかんでもらう。

新入社員研修では、全員に営業部門と生産現場、両方を回ってもらっていますし、ジョブローテーションにも力を入れています。その結果、技術畑の人間が支店長になる、などというケースも珍しくありません。

直販体制がグローバル人材をつくった

――早い時期から直販や提携を進めることにより、海外展開をスピード化されています。グローバル人材育成について伺う前に、まずその背景をお聞かせください。

家次

当社の誕生は1968年に遡ります。80年代までは欧米の各国に進出する際、それぞれ現地の代理店と契約していました。

大きな転機が訪れたのは1991年。英国の代理店が突然、撤退を宣言しましてね。困惑しました。

別の代理店に引き継いでもらうか、それともいっそ現地の代理店を買収し、自分たちで直接、販売やサービスを手掛けるか――。

背景にあったのは、EUの誕生です。通貨や国境で守られていた欧州各国の市場は、激しい競争にさらされていました。メジャーなライバルが参入してきたらひとたまりもない状況でしたね。「今、このタイミングで直接販売・サービスにシフトしなければ」という思いは強かったですよ。

自分たちの目でお客様のニーズを見極め、評価に耳を傾けなければ、シスメックスのブランドを欧州で確立することは難しくなる――と。

そんなことから、直販の道を選びました。その後、1993年は米国、さらに1995年はドイツと、次々に代理店を買収しては現地法人を設立しました。

思えば90年代後半から2000年代前半は、買収に次ぐ買収の時代でした。1993年に欧州試薬生産拠点ノイミュンスター工場(ドイツ)を設立するなど、生産拠点も現地へ。最近の話では、今年7月、米国に「米州R&Dセンター」を設立し、研究開発拠点もグローバル展開しています。

混ざり合える日本人をつくる

――海外事業比率は国内のそれをはるかに超えると伺っています。

家次

今や海外事業比率は7割超。拠点数も海外のほうが多い。従業員は連結で約6,000名ですが、そのうち半数近くが外国人です。

こうしたボーダレスな環境で日本人社員が外国人とコミュニケーションする機会は格段に増えています。

買収によって確保した海外の人材は、それぞれ違う宗教、カルチャーを背負っています。彼らと“混ざり合える”人材の育成は急務。グローバルな舞台で、多様な人材とうまく理解し合える人材を増やさねばなりません。――日本型経営を海外移転させていた時代と違い、人材もカルチャーもグローバル化しています。日本企業からの海外赴任者の中には、外国での仕事に馴染めず、メンタルヘルス不全を起こしてしまう方も少なくないと聞きます。

家次

日本人は、価値観が似通っているためか、以心伝心が成り立ちます。仕事を進めるうえでそれほどコミュニケーションに苦労しません。ところがグローバル社会ではまるで事情が違います。

国際会議の議長の心得は、「いかにインド人を黙らせて、日本人を喋らせるか」だそうですね。海外の人たちが我勝ちに手を挙げ、発言する一方、日本人は非常に物静か。「何か質問はありませんか」と尋ねても皆、しーんとしている。ところが、あなたはどうですか、と誰かにマイクを向けると喋り出す。話す内容がないのではなく、気後れしやすいのではないでしょうか。

こうしたギャップは、個人の能力というより、育ったカルチャーの差によるものだと思っています。ですから、若いうちに外の風に当て、周囲に「割り負け」※1しない日本人を育てなくては。

――「割り負け」しない日本人……グローバルな舞台でも、周囲に気後れせずに相手と向き合い、自らも発信する日本人、ということですね。そうした人材をどう育成されていますか。

家次

たとえば2 ~ 12カ月、海外で実務を経験する研修プログラム「グローバルアプレンティスプログラム」がそうです。

対象は係長クラスまでと若手層が中心。グローバルオペレーションの実行水準を高めるのが目的です。それぞれ挑戦したい課題認識を持ち、自ら現地活動の目的を設定してもらうことが条件です。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,738文字

/

全文:5,475文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!