J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2013年12月号

連載 ここから始める! ポジティブメンタルヘルス 第8回科学的根拠に基づいた効果的な人材育成研修の進め方: 認知行動療法の活用法

依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“ 未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。

川上 憲人(かわかみ のりと)氏
1957年岡山県生まれ。1985年、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。以来、産業保健と精神保健の研究・教育に従事。東京大学助手、岐阜大学助教授、岡山大学教授を経て2006年から現職。日本産業保健学会等、数々の学会の理事を務める。

関屋 裕希(せきや ゆき)氏
福岡県出身。早稲田大学文学部心理学専攻卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程終了後、2012年より現職。博士(心理学)、心理学修士、臨床心理士。認知行動療法を基礎とした労働者向けの教育研修プログラムの開発に取り組む。


TOMH研究会とは?
2009年に発足した、「東京大学OccupationalMental Health」研究会。研究と実践領域の専門家が集まる。鍵となるテーマを検討・追究し、研究と実践の橋渡しを通じて、働く人全てのメンタルヘルス向上と、専門職のレベルアップに役立つノウハウの蓄積を行う。

[イラスト]=NLshop/shutterstock.com

1. はじめに

第2回~第4回の「人事でつくることができる仕組み」、第5回~第7回の「マネジメントでの対策」に続き、第8回・第9回では、「一般従業員向け対策」について取り上げます。

今号の第8回では具体策の1つとして、教育研修に「認知行動療法」の要素をどのように取り入れたらよいのかをお示しします。

「認知行動療法」は科学的に効果が認められている心理療法であり、それを研修に取り入れることで、従業員が仕事のストレスやパフォーマンスを自分でマネジメントできるようになるために有益だと、TOMH 研究会では考えています。

2007年に厚生労働省が行った労働者健康状況調査によると、労働者への教育研修・情報提供を行っている事業所は49.3%となっています。他の取り組みと比べると教育研修は実施率が高く、この結果からも、科学的根拠に基づいた効果的な方法で研修を実施することは、新たな活動を一から始めるよりも手をつけやすい対策だといえます。

認知行動療法は、従業員のセルフマネジメントに効果的といわれ、取り入れられるようになってきています。しかし、対労働者に特化した認知行動療法の活用法に関する書籍などはまだ少ないのが現状です。

そこで今回は、認知行動療法とはどのようなもので、教育研修へはどう活用したらよいのかについて解説します。さらに具体例として、筆者らが開発を進めている、従業員のワーク・エンゲイジメントやパフォーマンスなど、ポジティブな面への効果に焦点を当てた研修の内容についても紹介します。

2.認知行動療法(CognitiveBehavior Therapy; CBT)とは

認知行動療法は、気分障害や不安障害などの精神疾患の治療や再発予防に対して科学的に効果が確認されている心理療法の1つです。中でも、うつ病への効果が大きいことが示されています。個々人が自分の力でストレスや問題に対処できるようになることを目標として、柔軟な考え方を身につけたり、対処行動のレパートリーを増やすアプローチです。

こういった有効な対処法の習得を援助する構造化されたプログラムも作成されています。この認知行動療法を導入した集合研修が、労働者のストレスの低減に効果を示した研究もすでに多く報告されています(これらの研究をもとに、後ほど紹介する厚生労働省科学研究費のガイドラインも作成されています)。

認知行動療法の代表的な技法の中で、教育研修に活用しやすいものを図1にまとめました。

「問題解決技法」「アサーティブネススキル」等、技法の概要を見てみると、こういった技法を身につけることは、ストレスを減らしたり不調にならないために役立つだけでなく、仕事を効率よく進めるうえでも有用であることがわかります。

3.科学的根拠に基づいた一般従業員向け研修のガイドライン

平成21 ~ 23 年度厚生労働科学研究費労働安全総合研究事業「労働者のメンタルヘルス不調の第一次予防の浸透手法に関する調査研究」(報告書。主任研究者・川上憲人)においては、「EB Mガイドラインに基づくセルフケアマニュアル」が作成されており、科学的根拠があると立証された一般従業員向け教育研修の進め方が紹介されています※1。

「E BM(Evidence-based medicine)」とは、科学的根拠に基づく医療 の意味で、前記報告書内の「労働者個人向けストレス対策(セルフケア)のガイドライン」では、多くの先行研究や知見をもとに、科学的に根拠のあるセルフケア研修を企画・実施する際の推奨項目が紹介されています。

このガイドラインは、研修を企画してから実施するまでの流れに沿って、「計画・準備」「内容」「形式」「事後の対応」の4つの領域に分かれており、それぞれの領域ごとに、合計6つの推奨項目がまとめられています(図2)。図中の「推奨4」に記載されている通り、このガイドラインでも、研修では認知・行動的アプローチに基づく方法を用いることが推奨されています。

ガイドラインの中では、推奨項目を事業所で円滑に実施するための工夫が「実施のポイント」としてまとめられており、科学的な根拠に基づきながらも現場で取り入れやすいように配慮されています。さらに、3つの実践例が収録されており、実際の教育研修で使用できるスライドや、実践例を使った教育の進め方のマニュアルも含まれています。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:1,720文字

/

全文:3,439文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!