J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年12月号

300th Issue SPECIAL INTERVIEW 時を経ても変わらない 『人を動かす・活かす組織の要諦』

アサヒビールの社長、会長を歴任し、その後はNHKの会長も務めた福地茂雄氏。これまで、日本有数の組織をリーダーとして牽引し、数々の変革を実現してきた同氏に、これからの日本における人材育成について話を伺った。

福地茂雄(ふくち しげお)氏
1934年福岡県生まれ。1957年長崎大学経済学部卒業後、アサヒビール入社。1999年同社社長就任。2002年会長、2006年相談役就任。2008年から3年間NHK会長を務め、2011年よりアサヒグループホールディングス相談役に復帰。

[取材・文]=宮本裕生 [写真]=西山輝彦

「3つのション」で人は動く

──「失われた20年」とも呼ばれる日本経済の20年を振り返りますと、バブル崩壊から小泉政権下でのいざなみ景気、リーマンショックによる不況、そして現在、安倍政権下でのアベノミクスによる若干の好景気など、日本企業の経営にさまざまな影響を与えた出来事がありました。企業の人材育成も、こうしたこととリンクして変わってきているのでしょうか。

福地

私はアサヒビール、NHK、新国立劇場、東京芸術劇場とさまざまな組織で経営に携わってきました。しかし、20 年前も今も、「人を活かす」ということの大切さは不変です。組織は時代や環境によって変わってもいいのです。それも、朝令暮改どころか「朝令朝改」で構わない。ただ、その変化は常に、“人が仕事を進めやすくなる”ことを目的に行われるものでなくてはいけません。「人を活かす」ことの大切さは、何ひとつ変わらないのです。

── では、そのために福地さんはこれまでどのようなことを意識されてきたのでしょうか。

福地

「3 つのション」が必要だと思っています。モチベーション、コミュニケーション、バリュエーションの3つですね。人を動かすにはこの3 つが欠かせません。

まずは「モチベーション」。私は経営において「Unsung Hero(アンサング・ヒーロー)」を大切にしています。直訳すると、「歌われない英雄」という意味です。意訳すると、縁の下の力持ち、でしょうか。アメリカンフットボールを例にしましょう。アメフトにおいて最も華やかな存在というと、やはりクォーターバックです。ワイドレシーバーなどがそれに続いて目立ちますが、いずれもオフェンスのメンバー。一方ディフェンスのメンバーは、相手のオフェンスをタックルで止めたり、パスをカットしたりしますが、オフェンスほど華やかではありません。ところが、ディフェンスのメンバーが相手のオフェンスを止めない限り、自軍は攻撃に移れない。こうした「縁の下の力持ち」がいないと、アメフトの試合は成り立ちません。

── なるほど。しかし近頃は「会社の歯車になんてなりたくない」という社員も多いと聞きますが。

福地

時計の歯車が1つ欠けると動かなくなりますよね。会社の経営においても同じことがいえます。組織に「必要のない仕事」は存在しない。そもそも、必要のない仕事をやらせるほど悠長な会社もありませんが(笑)。

私は、新入社員に必ずこう言います。「君たちはこれからどこに配属されるかわからない。でも、『ここにいたら絶対失敗する』というところに、上司が君たちを配属することはないよ。だから、置かれた場所でしっかり仕事をしなさい」と。上の立場にある人間が「Unsung Hero」に目を配り、現場で働く社員を奮い立たせることで、彼らは存分にモチベーションを高められると思うからです。

「業際」を越えたコミュニケーションが重要

──2つめの「コミュニケーション」についてはいかがでしょう。

福地

「縦のコミュニケーション」の必要性はよくいわれている通りです。縦のコミュニケーションは人間でいうところの背骨のようなもの。ここがしっかりしていないと組織としての体を成しません。そしてさらに重要なのは、「横のコミュニケーション」です。

── 縦ではなく、横ですか。具体的にはどういうことでしょう。

福地

「三ツ矢サイダーキャンディ」という商品があります。三ツ矢サイダーといえばグループ会社であるアサヒ飲料の主力ブランドですが、三ツ矢サイダーキャンディはグループの食品会社であるアサヒフード&ヘルスケアが製造・販売をしています。今の時代、こういったグループ間の横の連携が求められていますが、いい事例だと思います。

このように、ビジネスの世界でも「業際」がどんどんなくなってきましたね。今まで以上に情報の共有、知見の共有を垣根なく進めていかなければならないと思います。

──NHKの会長に就任された直後に、役員の個室をなくして全員を大部屋に移らせたというお話も有名です。

福地

そうですね。もちろん私の席も大部屋にありました。大きな反対意見もなく役員の皆さんが私の意見を聞いてくれたことは、非常に心強かったです。

似たようなことはアサヒビール時代にもありました。私が仙台の東北統括本部を訪れた時のことです。8つのグループ企業が同じフロアにありました。8つの部署が同じフロアにあるというのは見たことがありますが、8つのグループ企業が同じフロアに、というのは初めて見ました。グループ企業とはいえ、別々の企業。それがパーテーションなどの仕切りはありますが、同じフロアで意見を交わしながら一緒に働いているというシーンを見て感激し、「物理的な壁がなくなったのだから、あとは心に壁をつくらないようにしないといけないよ」と話したことを覚えています。

「ほめること」と「叱ること」のルール

──いくら形を整えても、心に壁があってはその形もうまく機能しないということですね。3つめの「バリュエーション」についても、お考えをお聞かせください。

福地

「評価」というのは何なのかと言うと、要するに「ほめること」と「叱ること」。簡単なようですが、実はこれが非常に大事なことです。

ラグビーのトップリーグ、東芝でキャプテンを務めた冨岡鉄平さんは、人心掌握のために必要なこととして「ほめること」を挙げていますが、同時に「悪いところは目につくが、いいところは努力して探さないと見つからない」とおっしゃっています。ほめることは難しいのですが、「自分の子どもをほめるようにほめる」と考えればわかりやすいでしょうか。何でもかんでも手放しで称賛するのはいけませんから、ほめるべきポイントとタイミングを心得えておく必要があります。

またその際は、あえて人前でほめてあげるといいでしょう。NHK時代の話ですが、テレビを観ていて「これはいい番組だな」と思うと、その番組をつくった制作局の局長に電話をかけるのです。制作担当者に直接かけるのではなく、局長にかけるというのがポイントですね。そして「あの番組、とてもよかったよ。あなたの口から担当者をほめてあげてください」と伝えるのです。担当者からすれば、会長と局長の両方からほめられたことになりますよね。

── それは当事者にとっては大変モチベーションが上がりますね。「叱ること」のポイントもありますか?

福地

ほめる時とは逆に、叱る時は直接本人と1対1で話すのがいいでしょう。日本人には恥の文化がありますから、人前で叱ってしまうと、恥をかかされたと思ってしまいます。それこそ、「もう切腹するしかない」と思ってしまうわけです(笑)。叱ることといじめることは似て非なるものですから、社員のプライドをいたずらに傷つけてはいけません。「ほめる時は人前で、叱る時は人陰で」が、バリュエーションを考える際に重要なことだと思います。

独自のグローバル人材育成プログラム「GCP」

── 御社では2020年をターゲットとした「長期ビジョン2020」の実現に向けて取り組まれていますね。その中で、海外でも積極的に事業展開をすべく、グローバル人材の育成に注力していらっしゃるとお聞きしています。

福地

「グローバル・チャレンジャーズ・プログラム(GCP)」という育成プログラムを2010 年から行っています。当初は当社の海外拠点のない国にも派遣し、語学や現地の習慣・文化などを学ぶものでしたが、昨年からは1年程度、海外の事業会社で実際の業務を介したOJTを実施しています。やはりビジネスには、語学力だけではなく、現地の人の考え方・習慣を理解するという部分が重要になってきます。

── 英語が話せればいいというわけではない、ということでしょうか。

福地

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