日清食品グループの「育て上手アワード」 松尾 睦氏 青山学院大学 経営学部 経営学科 教授/北海道大学 名誉教授
松尾 睦氏
日清食品グループでは2019年と2024年に、社内の育て上手社員を表彰する「育て上手アワード」を実施した。その目的は、育て上手人材の指導方法を共有することで、「よってたかって相互に成長させ合うことが当たり前」という人材育成マインドを醸成することにある。本事例は、これまで明確に示されてこなかった「育て上手」の実態を明らかにし、「人材育成」の重要性を社内に広める優れた試みである。以下では、同グループの資料および日清食品ホールディングス人材開発部の段村典子氏と髙橋晶子氏へのインタビューをもとに、育て上手アワードの実践を紹介する。
第1回「育て上手アワード」の流れ

「育て上手アワード」が初めて開催されたのは2019年である。当時、社内で部下の成長を支援するプロジェクトが動いていたこともあり、「育成文化を根づかせたい」という思いが本アワードの構想につながった。具体的には、全グループ社員を対象に、「この人の周りで人が育つ!」と、人に推薦したくなる人材を現職、OB・OG、前職の従業員のなかから最大5名、エピソードとともに推薦してもらい、優れた人材を表彰するイベントである。なお、中途採用者に対して「前職における育て上手人材」の推薦も受けつけたのは、優れた指導についての情報を収集するためであった。
同社のイントラネットを通して人材を推薦してもらったところ、1,284名(社員1,078名、パート・アルバイト206名)から回答を得ることができた。推薦された人は898名(現職579名、OB・OG112名、前職207名)であり、そのうちの約8割が推薦者数2名以下であった。なお、推薦された人材は上司、同僚、部下と多様であり、管理職だけでなく一般職やパートにも育て上手人材が存在することがわかった。
育て上手人材の指導方法(2019)

表1は、育て上手人材の指導方法を整理したものである。もっともコメント数が多かった指導は「明確な指示やアドバイス」(例:基本は本人に任せ、外せない本質だけをアドバイスしてくれる)であり、「傾聴する」(例:手を止めて真剣に話に耳を傾けてくれる、否定せずに最後まで話や考えを聞いてくれる)、「丁寧な業務指導」(例:説明し、やらせてみて、わからなければ手本を見せてアドバイスしてくれる)、「わかりやすく伝える」(例:業務指示のときに背景や理由を説明し、納得感をもたせたうえで業務を任せる)、「考えさせる」(例:行き詰まったとき、やりたいことや目的を繰り返し問いかけてくれる)が続く。これらの指導をみると、「明確な指示や丁寧な指導」等、何をすべきかについての説明と、「傾聴し考えさせる」といった主体性を重視した指導を組み合わせている点に特徴がある。
集計結果を基に、育て上手TOP3として、金賞はA氏(営業部部長、推薦数20)、銀賞はB氏(営業課長、推薦数15)、銅賞はC氏(製造課グループリーダー、推薦数10)が選ばれた。以下、推薦コメントを紹介したい。
A氏の指導
・ユーモアと冗談・雑談も交えて元気づける言葉がけが多い。メンバーへの承認と応援の姿勢を行動と言動・メールでも盛んにされている。
・会社の方針に対してもいつも自分なりの考えを持たれて、部下に対しても時代に合った指導をされていて信頼できる。
B氏の指導
・部下育成において常に本気で熱く指導している。常に真剣に向き合っていることが伝わると、部下も全幅の信頼を置くようになる。

