第3回 表現力(コミュニケーション力) 財津康輔氏 日本大学 生産工学部 数理情報工学科 助教
財津康輔氏
「学び」の必要性を感じていながらも、一歩踏み出せない人は少なくない。学びに対するハードルの高いイメージや、学校で受け身で行うものというネガティブな印象がその一因ではないだろうか。ボードゲームを活用したユニークな視点でこの問題に取り組んでいるのが、日本大学生産工学部数理情報工学科助教の財津康輔氏である。本連載では、「ボードゲームを使って学ぶ」ことを研究し、普及活動を続ける財津氏に、ビジネススキル向上につながるボードゲームを紹介してもらう。
[写真]=編集部、ゲームは各ゲーム制作会社より提供
伝えるために必要な表現と前提の共有
「コミュニケーション」という言葉は、あまりにも普遍的です。しかし、その実態がどのようなものを指しているかについては、多くの人の間で意見が分かれるのではないでしょうか。たとえば「コミュニケーション能力」は、企業が求める人材像において、メーカーや小売・流通・商社、サービスなどその業種を問わず、常にもっとも重視される能力です。
しかし、具体的にそこから連想されるものは、説明力や言語化する力、傾聴する力などのように人によってその解釈は多義的です。したがって、ここまでの連載では「共感力」(第1回)「傾聴力」(第2回)のようにその中身にフォーカスを当ててきたわけですが、今一度その本来の意味に立ち返ってみましょう。
この言葉は、「伝える」「分かち合う」「共有する」という意味のラテン語「communicare(コミュニケア)」に由来しており、辞書的にはシンプルに「人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合うこと(デジタル大辞泉)」とされています。

このように書くと、何も難しいことのように思えません。しかし、そこに困難があるからこそ、企業はこぞってその価値を重視するわけです。その背景には、コミュニケーションという行為には「表現」が伴うという事実があります。そして、その表現が相手に正しく伝わるためには、お互いの間で「前提が共有されている」ことが必要不可欠だからです(実は、この前提の共有自体もコミュニケーションの一部です)。さて、それを踏まえて、次のやり取りを読んでみてください。
文字にすると、やり取りの滑稽さはいささか薄れてしまうかもしれませんが、いかがだったでしょうか。「ポータブル冷蔵庫を売りにきた青年」と「娘の彼氏を迎えるつもりだった父親」の、前提が共有されていないからこそのズレたやり取りを読んでいただきました。お互いに言葉を発してはいるものの、これは本当の意味での「コミュニケーション」とはいえないかもしれません。
それこそ、前提となるお話が長くなってしまいましたが、本稿では、こうした「前提のズレ」があることに気づき、どのように「表現」を工夫していくことができるか、といったことを楽しく考える機会を提供してくれるボードゲームを紹介していきます。ボードゲームを遊ぶことそのものが、自身の表現を見直したり、ブラッシュアップしたりすることにつながるものもありますので、ぜひ機会を見つけて遊んでみてください。
❶ 数字を言わずに意図を伝え、仲間との前提を少しずつ揃えていく『ザ・ゲーム』
初めに紹介するゲームは、『ザ・ゲーム』です。プレーヤー全員で相談しながら、手札の数字カードを大きい順、または小さい順に置いていく協力ゲームです。置いていく数字カードは「2」から「99」までの98枚あります。全員で1つの山札を共有し、それをすべて使い切ることを目指します。

自分の番になったら、手札のなかから、共通の場にある「1(ここから数字を上げていく場)」か「100(ここから数字を下げていく場)」のいずれかに出さなければなりません。カードの数字は必ずしも連続していなくても構いませんが、数字が数十も跳んでしまうと、後から出せる数字の幅がどんどん狭くなってしまいます。自分の番が終わると、出した枚数だけ山札から手札に補充します。もし誰か1人でも、「カードを出せない状態」になってしまったら、その時点で全員が敗北となります。

