J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年06月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 「教育を受ける機会は均一に、教え方は個別に」を実践する

一人ひとりと向き合い、個々の適性に合った教育を与える――。ヤマト運輸 人事総務部課長の江原 美江氏が何より大切にしていることである。社員を会社の財産=「人財」と考え、「人を尊重」することを基本精神の1つとするヤマト運輸。そんな中で江原氏は、“日本各地に点在するどの営業所に配属されても教育を受ける機会は等しく、しかし、育て方は一人ひとり異なる”体系づくりをめざしてきた。「一律では育てたくない」。取り組んできた全ての施策には、江原氏のこの想いが生きている。

人事総務部 課長
江原 美江(Yoshie Ehara)氏
入社後、北九州支店に配属。1995年小倉東営業所所長代行、翌96年同所長に就任。その後、九州支社マネジャー、北九州主管支店ベース長、佐賀主管支店長、宮崎主管支店長、徳島主管支店長を経て、2012年人事総務部課長。現在は企業風土改革を通して人材育成に携わる。

ヤマト運輸
1919年創立。宅急便・クロネコメール便を中心とした一般消費者・企業向け小口貨物輸送サービス事業を展開。2005年持株会社制に移行し、ヤマトホールディングス傘下の中核事業会社となる。
資本金:500億円、売上高(HD連結):1兆374億6100万円(2014年3月期)、社員数:15万6877名(2013年3月15日現在)

取材・文・写真/髙橋 真弓

パート社員時代に正社員の教育を担当

人事総務部課長の江原美江氏がヤマト運輸に入社したのは1983年。パート社員での中途採用だった。ヤマト運輸には、集配を担当するセールスドライバーの拠点としてお客様からの電話対応や荷受け業務などを担当する「センター」が全国に約6300ある。そのセンターを束ねるのが「支店」であり、さらに支店を束ねる主管支店、その上に支社、本社と組織されている。江原氏は入社すると、北九州主管支店で人事と経理を管轄する管理課に配属された。そこで4年間、新入社員教育に携わり、OJTや受付業務の指導などを中心に上長の支援業務を担当した。「パート社員である私が正社員を教えることに正直不安はありましたが、“任されている”という気持ちもあったため自分の役割は大切にしていました。新入社員数が少なかったこともあって“、3カ月で一人前にする”という目標を立てて、一人ひとり個別に教育スケジュールを組み、それぞれのペースに合わせて指導を行いました」その後、江原氏は正社員に登用され、センターへ異動。事務スタッフの教育を任された。そこで主管支店時代と同様、6名いたスタッフ一人ひとりに3カ月分のOJTのプログラムをつくった。「実は、一律な教育で同じ対応をした時にスタッフの1人は伸びたのですが、もう1人はモチベーションを大きく落としたことがありました。この時、一人ひとりに合わせた教育の大切さを実感しました。この人はどう言われれば前に進んでいけるか。褒められて伸びる人と、叱られて悔しいと思ってやる人と、1人ずつ変えることが必要なのです」さらにこのセンター時代に、もう1つ印象に残る出来事があった。江原氏が別のセンターへ異動すると、最初のセンターで実践していた指導法が、引き継がれることなく消えてしまった。「仕組みとして残せなかったことが何より残念でした。ですから2店目では自分が持っていた知識やスキルを全部出すようにしました。1カ月後、3カ月後の目標を明確にするスキルマップシートを作成したり、上長との面接のタイミングなども全て紙ベースで残し、見える化しました」スタッフそれぞれの個性や特徴、適性を見ながらの教育と仕組みづくり、そして責任者としての苦労もあったが、江原氏は「ここでの経験が一番勉強になり、私の教育のベースができた時期」と当時を振り返る。

社員一人ひとりに合わせた教育の仕組みをつくる

一人ひとりを大切にする育成方針とその実績が評価され、江原氏は再び主管支店に戻り、今度は管轄するセンター全体の教育を担当することになった。当時のセンターには、例えば「経理は女性、勤怠管理は男性の仕事」といったように暗黙の区分があった。だが人員が少ない中で、誰か1人欠ければ業務は滞ってしまう。全ての仕事に誰もが対応できるようにしたいと江原氏は考えていた。そこでまず、パート社員から支店長までセンターの事務スタッフ全員を対象とした多項目の筆記テストを実施し、業務の中で自分の弱いところを知ってもらった。そして、6カ月間の研修カリキュラムをつくり、100名前後の対象者一人ひとりに受講すべき研修項目を記したシートを渡した。「いわば主管支店版の企業内大学を立ち上げたのです。研修は希望の時間帯に参加できるよう、同じ講義を週4回ほど開催しました」一方で江原氏は、現場のスタッフを巻き込んでセンターの受付マニュアルも完成させた。もともと自身がセンターにいた頃に着手したものだったが、現場のスタッフに意見を求めたり、一緒になって考えることで当事者意識の醸成に役立てた。「自分たちでマニュアルをつくれば使う気にもなります。まして自らが意見を出している企画であれば自分事として捉えて頑張ろうと思うもの。ですから何かをやる時は私が決めて実行させるのではなく、まずみんなで話すことを重視しました」体系立った教育の仕組みづくりと巻き込み型の育成で、センタースタッフの仕事への意識を着実に変えていった。

新人育成法を見直し視野の広い新人を生み出す

1996年、江原氏は半年間の所長(現在:支店長)代行期間を経て、小倉東営業所の所長となった。ヤマト運輸初の女性所長だった。主管支店で教育を専門としていた江原氏が率いる営業所は必然的に教育のモデル店となり、大卒の新入社員の教育を担うことになった。そこで、センターと主管支店の双方で仕事をした経験が活かされた。「当時の新入社員はまず主管支店で1年間教育し、ある程度知識を習得してから2年目にセンターに配属、セールスドライバーとしてお客様と接する最前線に出していました。しかし一番大事なのは対お客様である第一線であり、現場の業務を知らずして、現場を束ねて支える主管支店での仕事はできません」江原氏は、「自分が面倒を見るから、まずは現場を経験させてほしい」と主管支店長に頼み込んだ。「そんなことをして、もし新人が辞めてしまったら君が責任をとるのか」と言われたこともあったが、「確実に成長する」という確信があった。

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