J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年06月号

CASE.1 博報堂 自ら考え主体的に行動する「自分ごと」を身につけるOJT

博報堂では2007年頃から、OJTの改革に着手してきたが、そのキーワードとなったのは「自分ごと」という言葉だ。社内では、自ら考え主体的に行動する「自分ごと」という言葉がしばしば用いられてきた。この「自分ごと」の意識を身につけさせるため、数年かけて新入社員OJTの仕組みを再構築した。その取り組みをまとめた『「自分ごと」だと人は育つ』(日本経済新聞出版社)を上梓した人材開発戦略室の白井剛司氏に「自分ごと」を身につけさせるためのOJTについて聞いた。

白井 剛司 氏 人材開発戦略室 マネジメントプラニングディレクター

博報堂
1895年創業。明治の広告黎明期より事業を展開する総合広告会社。「生活者発想」と「パートナー主義」をフィロソフィーに、より高い次元の統合マーケティングソリューションの提供をめざす。
資本金:358億4800万円、連結売上高:7452億1800万円(2012年4月~2013年3月、連結ベース)、従業員数:3122名(2014年4月現在、契約社員含む)

[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=本誌編集部

●背景・問題意識ゆとり世代だから育たない、は本当か?

博報堂で「OJTで新人を育てることが難しくなってきた」といった危機感が持たれるようになったのは、2005~2006年頃のこと。白井氏はその原因を、広告業界内で起こった、ある大きな変化にあったと話す。「インターネット関連業務が急激に増えてきたのです。これらの業務は年々、業務量、複雑さ、難易度が増していき、中心となって任された若手社員たちは多忙を極めました。その結果、現場で新人を育てる役割を担う若手社員たちが、十分に手をかけて新人にOJTを行うことができなくなってしまったのです」(白井氏、以下同)また数年前から、新人の傾向が変わってきたことも、従来のOJTが機能しなくなった一因だと白井氏。OJTトレーナーたちからも、「正解があると思っていて、自分で考える前に答えをほしがる」「失敗を恐れて、優等生的な無難な解答をしがち」といった新人の傾向を指摘する声が挙がっていた。

「『仕事の全体像や意味を学んでから取り組みたい』『先に教わってから経験したい』という志向を持つ新人が増えてきたのです。ネットが当たり前にある環境で育ったためか、まずは下調べをしてから経験する、という習慣が身についているのかもしれません」そうした新人と、「習うより慣れろ」「失敗を恐れずやってみろ」と言われて育ってきた先輩との間にギャップが生じ、OJTがうまくいかないケースが出てきたのだ。「新人に対して、『ゆとり世代だから消極的でダメだ』などと批判するのは簡単ですが、それで思考停止しては、先に進みません。例えば以前、『先に業務の全体像を教えてほしい。そのほうがより効率よく仕事を覚えられるのに』と不満を漏らす新人がいました。一見、『近道が知りたい』という発言のようですが、見方によってはキャリアを積む意識が高く、将来への危機感や成長への不安からの言葉と解釈することもできます。そうしたことからも、情報、経験の取得方法が以前とは異なる新人たちの傾向に合わせた、新しいOJTのやり方を模索するべきだと考えたのです」

●コンセプト「自分ごと」の意識を身につける

これらを踏まえ、人材開発戦略室では、新たにOJTのゴールを「『自分ごと』の意識を身につけること」と位置づけた。「自分ごと」とは、博報堂の社員にとって特別な意味を持つ言葉だ。バイタリティ溢れ、強い個性を持つ人が多い博報堂の社内では、自分の考えをしっかりと持って主体的に行動することが求められる。それを表す象徴的な言葉が「自分ごと」なのだ。昔から「それって自分ごとで取り組めているの?」などと社内で日常的に使われてきた「自分ごと」という言葉は、博報堂のフィロソフィーである「生活者発想」「パートナー主義」、さらに、社内で大切にされている「チームワーク」、全てにかかるキーワードでもある。「自分のこととして考えることこそ『生活者発想』であり、クライアントから与えられた問題や課題に対してそのまま受け取るだけではなく、自分の視点や考えを持って提案できることこそ『パートナー主義』です。また、そもそもチーム内でしっかりと自分の意見を主張できなければ、社内ではメンバーとして認めてもらえませんから」この「自分ごと」の意識を身につけるために必要なのは、先輩の仕事の一部を細切れに手伝うのではなく、小さくとも一通りの仕事を一気通貫で任せ、主体的に取り組み、最後までやり遂げる経験を積むことだ。しかし、実際の現場は、複雑で専門的な仕事ばかりで、新人には細切れの仕事しか与えられないケースも多い。そこで人材開発戦略室では、「新人が最初の1年で、自ら考え主体的に行動する『自分ごと』を体感するような仕事経験を積むこと」をゴールに定め、そのための新しいOJTの仕組みづくりを進めてきた。

●仕組みの概要OJT成功のカギはトレーナーへの支援

具体的な仕組みとしては、1人の新入社員に対し、入社8年目以上のOJTトレーナーと、入社3~6年目の同じ部署の先輩であるJOBトレーナーが2人体制で育成・指導にあたる(部署によってはJOBトレーナーがいないケースもある)。JOBトレーナーは実務指導をすると共に、身近な相談相手ともなるOJTの中心的存在だ。他方、OJTトレーナーはJOBトレーナーと共にOJTを進め、育成上の課題を見極めつつ、JOBトレーナーの相談に乗ったり、支援する役割を担う。OJT期間は配属後の6月から翌年3月までであり、6月から10月末までを前期、11月から3月末までを後期と位置づけている(図1)。同社でOJTを再構築するにあたり、最も力を注いだのは、トレーナーの育成・支援だった。以前はOJT開始時に一度、トレーナーを集めたガイダンスを行うだけだったが、OJTをトレーナー任せにしてしまうと、どうしても指導方法にバラつきが出てしまう。そこで、トレーナーに対するきめ細やかな育成、サポート体制を整えた。筆頭は、6月と11月の「OJTトレーナーズミーティング」というワークショップである。6月のワークショップでは、OJT環境の変化や新人の傾向、OJTの基本コンセプトなど、OJTを行ううえでの考え方、進め方を学ぶ。そして、1年後新人にどうなっていてほしいのか、どんな仕事ができるようになっていてほしいかというゴールイメージと、そのためにどんな仕事を任せるかなどを考え、OJT計画を作成する。「今の新人の傾向から、最初に仕事の全体像や意味を示してあげるようにしてほしいといったことなど、具体的な指導方法についても詳しく話すようにしています」各現場でのOJTを経た、前期終了後の11月のワークショップでは、新人の育成課題や前期の取り組みの見直しを行い、改めて後期のOJT計画を作成。再び現場でのOJTを経て、期末のワークショップで全体を振り返る、といったプログラムになっている。これらのワークショップ以外にも、トレーナー同士が集まり、悩みを共有し相談できる「OJTトレーナーズコンサルティング」という育成者間の対話の機会を年間3回ほど設け、トレーナーとしての気づきや成長をサポートしている。

●コンセプト「任せて・見る」「任せ・きる」

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