J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年06月号

OPINION 2 育て上手は聞き上手! 経験学習を促す聞き方の極意

自分で考えられる人材を育てるには、日々の仕事やOJTの中で、上司は特にどのように部下の話を聞けばいいのだろうか。“育て上手な上司”として定評のある阿野氏は、「1対1で聞き切る」ことの重要性を説く。その底流には「1人ひとりの存在を認め、“和顔愛語”で接する」という“こころ”がある。阿野氏に、その方法とノウハウ、またそれらを習得した経験を伺った。

阿野 安雄(あの やすお)氏
國學院大學文学部史学科卒業後、ヤナセ入社。輸入車の販売を手がけトップセールスマンに。1990年、異業種のプルデンシャル生命保険に転職、ライフプランナーの道を歩む。営業所長、支社長、営業本部長などを歴任。2007年から2年間、プルデンシャル・セグロス・メキシコ営業本部長を務め、2014年から現職。

[取材・文]=浜名 純 [写真]=本誌編集部

今に生きる異業種での経験

──以前は輸入車販売の「ヤナセ」で営業を担当されていました。

阿野

ヤナセでは、新人時代1日100件以上の飛び込み営業をして、特段の成果もなく疲れて帰ってくると、課長が「ちょっとおいで」とお茶を出してくれて、今日あったことを聞いてくれました。これがとても慰めになりました。話を聞いてもらうと気持ちが楽になり、明日も頑張ろうと思えるようになります。話を聞いてもらうのは嬉しいことなのだと実感しました。また、ヤナセでは自分の中にマネジャーをつくり、自問自答しながら1人でセールスをしていました。自分の中に存在するマネジャーが、自分という営業マンを動かしていたのですね。その経験が今になって非常に役立っています。その後、プルデンシャル生命保険のマネジャーに育てられて「人は環境で育つ。その環境をつくっているのは人である」ということを学びました。そして、MDRT※の事務局長や、営業所長を経験する過程で、人材をヘッドハンティングして育て、組織を構築していくためにはどうすればいいかを会得しました。

──メキシコでも営業本部長として、異文化の中で人材育成に尽力された経験をお持ちですね。

阿野

メキシコでは阿吽の呼吸がききませんし、このくらいのことはわかっているだろうと思っても、実はわかっていないことが多く、きちんと何度も説明しなければなりませんでした。フローチャートに書くなどしてイメージを持たせないと理解が難しい。しかし、日本人の場合も、人によって習熟度は異なりますよね。日本の教育制度や企業論理ではスピード感が求められ、習熟度の遅い人を待っていられないのが現状なのでしょうが、私は“それでも待ってあげなければいけない”と、メキシコでの経験から学びました。

失敗から学んだ部下を伸ばすノウハウ

──自分で進めてしまったほうが楽ではないですか。

阿野

支社長になった時、支社を大きくしようと思いました。そして、その実現のためには自分で考えるほうが早いと考え、当初、皆の意見を採り入れませんでした。形式的には皆の話を聞いていたのですが、“聞くふり”だったのです。部下への権限委譲も行っていませんでした。当時の営業所長も、支社経営に対して意見したかったわけですが、私は私で、支社全体のことを考えるのは私だというスタンスを取り続けていました。それが変わったのは、社内でサティスファクションサーベイ(満足度調査)が実施されたのがきっかけです。そこで「支社長は私たちの意見を採り入れてくれない」という話がたくさん出てきたのです。支社規模を拡大していた背景もあり、営業所長に権限委譲し始めました。1人ひとりを心から信用することが大切なんですね。あの時、皆が言ってくれてよかったと思っています。強権発動をしていたら、支社は空中分解していたでしょう。

──グループ単位で指導したほうが効率的ではありませんか。

阿野

そう考え、ある時には、成績の芳しくない人を伸ばすために「雪山登山隊」というプロジェクトを立ち上げました。「5人は雪山で遭難している。寝たら死ぬからお互いに励まし合いながら頑張る」というシチュエーションを構築し、午前7時半に出勤、9時まで研修することにしたのです。しかし、1回目から遅刻した者がいたので、より厳しく臨むことにし、営業所長に怒ってもらいました。そうして翌週の2回目の朝、全員来るには来たのですが、皆しゅんとしている。これではだめだと思って、2回でやめました。その反省から、やはり個人面談でなければ、と痛感しました。1対1のマネジメント、One on One Managementの大切さを思い知らされたのです。1対1で「何がしたいの」「どうなりたいの」「そのためにはどうすればいいの」「では、企画書を書いてごらんよ。次に会う時その進捗状況を聞かせてね」といった対応をしたら、皆生き生きとしてきたのです。

和顔愛語で接し、話を聞き切る

──話を聞くうえで大切なことは何でしょうか。

阿野

「和顔愛語」で接することがとても大切です。和顔愛語とは仏教用語で、穏やかで親しみやすい振る舞いのこと。優しい顔とやさしい言葉、和やかな雰囲気の中で話すことの必要性を説いています。厳しい要求をする時もありますが、それも和顔愛語の環境で行わないと絶対うまくいきません。フリーアナウンサーの大沢悠里さんの講演を聞いた時、「教育は畑の作物と同じだ」と言っていたのが印象的でした。両方とも“肥(声)かけ”が大切だと。肥をかければ野菜が育つように、声をかければ人間は育つというのです(笑)。日頃の声かけやコミュニケーションが重要です。竹下登元首相が若い頃から使ってきた5つの言葉があります。「ほう、なるほど、さすが、なんと、まさか」というもので、この5つを駆使して陳情団の人たちの話を聞くわけです。多くの人たちに反応して、ちゃんと話を聞いてあげる手法です。

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