J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2014年08月号

OPINION 1 日本人駐在員に求められる能力 ローカル社員が評価するパフォーマンスの高い上司の特徴とは

日本企業のアジア新興国を含む海外オペレーションが拡大する中、そのオペレーションを担当する専門家や責任者、いわゆる「グローバル人材」の不足が叫ばれている。この「グローバル人材」という言葉は2008年のリーマン・ショック以後、頻繁に使われるようになったと言う白木三秀氏に、日本人駐在員に必要とされる資質やスキル、育成上の課題について語ってもらった。

白木 三秀( しらき みつひで)氏
フ国士舘大学政経学部助教授・教授を経て、1999年4月より早稲田大学政治経済学部教授。2005年よりトランスナショナルHRM研究所所長を務め、他にも日本労務学会会長、国際ビジネス研究学会常任理事等を兼務。専門は、社会政策、人的資源管理論。最近の著書として『新版 人的資源管理の基本』(文眞堂、2013年)、『グローバル・マネジャーの育成と評価』(早稲田大学出版部、2014年)がある。

[取材・文]=坂田 博史 [写真]=トランスナショナルHRM研究所提供

「国の違いによる人材要件」の誤解

アジア現地法人の人材育成を考える際、その国の文化や特徴に合った人材を国ごとに育成する必要があると、「国の違い」が強調されることが多い。しかし、これは大きな誤解だ。それぞれの国の文化や習慣、宗教などについての知識は確かに必要不可欠だが、ビジネスは基本的にどこの国でも同じはずだ。違うのは、スタートアップなのか、成長期なのか、成熟期なのか、衰退期なのかという「ビジネスのライフサイクル段階」である。この違いによって、必要な人材が変わってくる。1985年のプラザ合意後、旧ASEAN(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン等)やアジアNIES(韓国、香港、台湾、シンガポール)への日本企業の進出が本格化した。こうしたスタートアップ段階では、ゴールを設定し、それを達成しようとするパフォーマンス志向の強いリーダー人材が必要であった。

しかし現在は、これらの地域の現地法人には、すでに20~30 年の歴史があり、ローカル人材の蓄積層も厚くなっている。日本人派遣者の平均年齢は40代半ばが多いようだが、現地にはそれ以上に経験を積んだローカル人材がいることも珍しくない。1980~90 年代であれば、日本から来たというだけでローカル社員から一目置かれたが、今では専門スキルやマネジメント能力が乏しければリスペクトされなくなっている。また、これらの地域の現地法人は安定した成長期に入っているため、集団の社会的安定をより強く意識したメンテナンス志向の強いリーダーが求められているといえる。これに対して、中国、ベトナム、インド、ミャンマーといった新興国への進出は2000 年以後で、その歴史はまだ浅い。いわば、スタートアップの時期であり、こちらに必要なのはパフォーマンス志向のリーダーだろう。国によって必要なリーダー像が違うのではなく、ビジネスのライフサイクル段階によって必要なリーダー像が違うということだ。「グローバル人材」を考える場合にリーダーシップとマネジメントの違いをはっきりと分けて考えることも重要だ。

図に示したように、コッターによれば、リーダーシップの基本的役割は、「変化と運動を引き起こす」ことで、マネジメントの基本的役割は、「秩序と整合性をもたらす」ことだ。つまり、現地法人のトップ層にはリーダーシップの発揮が望まれ、ミドル層にはマネジメントの役割が期待される。ところが、日本人駐在員は、日本にいる時にはミドル層としてマネジメントの仕事をしているにもかかわらず、現地法人ではトップ層に就任することが多い。このため、リーダーシップを発揮してローカル人材を使っていくことに不慣れで苦しんでいる。もちろん、派遣されるのはミドルとして優秀な成績を上げた人材だ。それでも、有能なミドルが有能なトップになるとは限らない点に注意が必要だ。特に、まじめな人ほど、そして几帳面で正確な仕事を好む人ほど、アジアのあいまいさや、複雑性に翻弄されやすい。

インドの現地法人に社長として赴任した人の話をしよう。その初日のこと。始業時間になっても来ない現地スタッフが多いことに驚く。全員が集まったところでひと言言おうかと思ったが、初日ということもあって我慢した。そして1週間、社員を観察してみると、決してふまじめなのではなく、必要があれば終業時間が過ぎても仕事をきっちりとやっていることに気づく。その後わかったのは、時間を正確に守れない環境にあるということだった。交通手段は少なく、バスなどが時間通りに運行されることも少ない。「日本とは違う」と頭ではわかっていても、ついつい日本と同じことを求めようとしてしまう。

駐在員に欠かせない3つの経験

日本人駐在員には、トップマネジメントの経験と共に、海外で働く経験、海外の人と一緒に働く経験という3つの経験が欠かせない。トップマネジメントの経験は、子会社への出向やプロジェクトを任せることでも積める。小さい組織であっても自分がトップとして組織を動かしたことがあれば貴重な経験となる。海外で働く経験も、若い時から積ませておくことが重要だ。さまざまな国で経験を積めば、異文化への理解力が高まり、あいまいさや複雑性への適応能力も磨かれるであろう。海外の人と一緒に働く経験は、日本でも積める。海外の現地法人で働くローカル人材を各地から日本に呼び、一緒に働く。ローカル人材に日本で働く経験を積ませることも同時にできるので、一石二鳥だ。人事は、こうした経験を20代の若い時から積ませることで、グローバル人材としての適性があるかどうかを見極めることもできる。逆に、あまり感心しないのが派遣前に行われる異文化コミュニケーションの研修だ。「異文化」をことさら強調することは、偏見を助長することにつながりやすい。ステレオタイプの知識を与えるぐらいなら、その国の人を数人連れてきて、研修と同じ時間いろいろな質問を投げかけ、直接現地の話を聞いて理解したほうが有効なのではないだろうか。

ローカル社員が望む上司像

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,146文字

/

全文:4,292文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!