J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2014年09月号

船川淳志の「グローバル」に、もう悩まない! 本音で語るヒトと組織のグローバル対応 第5回 英語やスキルに飛びつく前に、「飛び込む力」を!

多くの人材開発部門が頭を悩ませる、グローバル人材育成。 グローバル組織のコンサルタントとして活躍してきた船川氏は、「今求められているグローバル化対応は前人未踏の領域」と前置きしたうえで、だからこそ、 「我々自身の無知や無力感を持ちながらも前に進めばいいじゃないか」と人材開発担当者への厳しくも愛のあるエールを送る。

船川 淳志(ふなかわ あつし)氏
グローバルインパクト代表パートナー。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。東芝、アリコジャパンに勤務後、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)にてMBA取得。組織コンサルタントとして活動する傍ら、以下の講師を歴任。サンダーバード日本校客員教授
(1999-2003)、NHK教育テレビ「実践・ビジネス英会話ーグローバルビジネス成功の秘訣」講師(2003-2004)、社団法人日本能率協会主催「グローバルビジネスリーダープログラム」主任講師(2004-2007)、国際基督教大学大学院GlobalLeadershipStudies非常勤講師(2011-)、早稲田大学大学院ETP非常勤講師(2011-)。

株式会社日本能率協会マネジメントセンター 通信教育事業本部
〒 105-8520 東京都港区東新橋 1-9-2 汐留住友ビル 24 階
TEL:03-6253-8049
FAX:03-3572-5665
E-mail:contact@jmam.co.jp
URL:http://www.jmam.co.jp/

あるグローバルリーダーの挑戦

S氏はある大手日本企業が昨年から始めたグローバルリーダー育成プログラムの参加者の1人。国籍は韓国。アメリカに移住し、この日本企業の米国法人で採用されて以来、さまざまな実績を残し、頭角をあらわしてきた。よって、他の7カ国から選ばれた同プログラムへの参加者と同じように、社内の期待を集めていた。

しかし、1年前、ちょうどこの3年間にわたるリーダー育成プログラムが開始される直前、S氏には大きな試練が待ち受けていた。それは、アメリカから中国に移り、新たなビジネス開発をするものであった。彼が率いる中国の組織では英語を理解する人は少なく、彼もハングルと英語ができるとはいえ、中国語はできなかった。つまり、共通言語すらない状況だ。そんな厳しい環境の中で不安とフラストレーションを持ちながら彼はワークショップに参加したのだった。

私の目から見ても、彼の不安感と焦燥感はよくわかった。こうした第三国籍(ホスト国でも、本人の国籍でもない)の赴任者の活用によってグローバル経営を30年前からやってきている欧米企業があるが、この日本企業では彼のようなアサインメントは初めてのことであった。海外赴任者の研究についてよく知られているS・ブラックらによれば、「海外赴任の難易度」は、業務内容、文化の差異、そして言語の難易度の3つの掛け合わせによって決まるというモデルがあるが、彼の場合はこれで見ても難易度は高い。

先週、上海でそのS氏と1年ぶりのワークショップで再会して驚いた。私だけではなく、他の参加者からも「彼が復活した!」「1年前の悩みが吹っ切れて、前向きになってきた」「一皮むけた」などの言葉が出てきた。彼は中国での1年間を振り返りながら、我々に多くのことを共有させてくれた。前回の記事で述べたambiguity(曖昧さ)に彼は今でも取り組んでいる。しかし、昨年のような迷いや混乱は微塵も感じさせない。確実に試練を乗り越えていることが全員に理解できた。彼の使命感は次の言葉に表れていた。

「私の取り組んでいるようなミッションはこの会社が始まってから初めてだということはよくわかっている。だから、試行錯誤は当たり前。ただ、自分がなんとかこのミッションを果たして、後に続く人が出るようにしたい」

S氏のスピーチを聞きながら、私は確信した。やはり、グローバルリーダーの要件として欠かせないもの、それが「未知の世界に飛び込む力」だ。

未知の世界に飛び込む力」を備える

前回、小生が武道のインストラクター時代に行った滝行の写真を紹介した。そこでも述べたように、それは「滝行用の滝」ではなく自然の滝だ。テレビの映像や写真で見たことがある方もいるだろう。「滝行用の滝」は一般的には水量は少なく、高齢者や女性でも立っていられるもので、中には立ちやすいように足場が整えられていたり、踏み台になるような石がある場合もある。

ところが、私が入ったのは、「自然の滝」であり、人が入った形跡はなかった。滝の幅が10メートル弱、高さは10メートル強、その滝壺に向かうまで水の中を進まなければならなかった。多少の恐怖感もあった。ではなぜ、そんなことをしたかと言えば、当時、師事していた武道の先生に「船川、やってみろ!」と言われたからだ。深さがわからない滝壺に向かうことは文字通り、未知の世界に飛び込むことになる。立てなければ泳げばよいが、私が心配したのは岩に足をとられて動けなくなり、大量の「水責め」を受けることであった。幸い、滝の直下で立つこともできたし、全身全霊を込めて滝に向かっていったせいか、水に弾かれることもなかった。

考えてみると、グローバルビジネスのミッションも同じことが言える。前記のS氏の場合はまさに未知の世界でのミッションである。私の滝行は数分で終わりだが、彼の任務は数年に及び、かつ結果を出さなければならない。

最悪の場合を考えて、「まあ、命を落とすことはないだろう」と思えれば開き直れる。ただ開き直っているだけではいけないので、自分の力を出し切って、できることは全てやる──このあたりも滝行とグローバルビジネスの共通点だろう。

「未知の世界に飛び込む力」の練習のため、効果的な研修として、豊田圭一氏(株式会社JIN-G/スパイスアップ・ジャパン)がアジア新興国で行っている海外研修プログラム「ミッションコンプリート」がある。例えば、ベトナムに集まった日本人参加者に現地の見知らぬ人に会って協力を得なければならないような「ミッション」が与えられる。「第3回日本HRチャレンジ大賞」の人材サービス優秀賞(人材育成部門)を受賞された研修である。

これまで、さまざまな分野のグローバルベースで活躍している人に会ってきたが、やはり、共通しているのは、この「未知の世界に飛び込む力」を持っていることだ。どんな小さな挑戦でもいい。その原体験を重ねていくことがカギだ。

大前さんのアドバイス

「躊躇するな!飛び込め!というのは少し無責任だとは思うが、興味があれば何でも引き受けてその都度、“芸域を広げてきた”わたしは、まさにそうした生き方をしてきた。」

これは、今から5年前に出版された大前研一さんとの対談本、『グローバルリーダーの条件』(PHP研究所)のまえがきの最終部分の一節だ。やや長くなるが、出だしの部分も紹介したい。

「本書は日本で今一番不足しているといわれているグローバルリーダーをどのようにしたら生み出すことができるか、グローバルリーダーとはそもそもどういう思考や素質を持っているのか、などを船川さんとの対談を通して考察するものである。

少なくとも、私の経験でも、船川さんの経験でも、その答えは『先天的なもの』ではない。また帰国子女とか、海外で生まれ育っているとか、アメリカンスクールに行った、というような問題ではない。」

この後、「高校時代には人前に出るのも嫌い」だった(信じられない!と思う方は少なくないだろうが)大前さんが、大好きなクラリネットを買いたい一心で、海外からの旅行者向けの通訳案内業を始めたエピソードが紹介されている。海外から来る、しかも高齢者25名前後のグループの世話をしながら、日光や京都に同行して通訳をする、そのことによって英語を身につけたこと、そして何よりも、「それまでの引っ込み思案の性格を根本から変えた」(これも今の大前さんからは信じられないかもしれないが)経緯が述べられている。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,498文字

/

全文:4,996文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!