J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年02月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 異質な仕事や人、本との出会いが、 環境変化を乗り越える人格を磨く

王子グループの持株会社制への移行により、王子ホールディングスの「印刷情報メディアカンパニー」の中核会社として生まれ変わった王子製紙。新聞用紙事業、印刷・出版用紙事業、情報用紙事業を承継し、2012年10月に事業を開始した。国内需要の成熟や少子高齢化、そして電子化の潮流──多くの企業が直面する壁を「人材力」とコストダウン戦略で越え続ける同社。市場環境の変化をバネに、新時代の人材を育てる術を、代表取締役社長 渕上一雄氏に伺った。

渕上 一雄(Kazuo Fuchigami)氏
生年月日 1951年7月22日
出身校 九州工業大学工学部
主な経歴
1974年4月 本州製紙 入社
1989年3月 洋紙営業本部特殊紙・フィルム営業部調査役
1992年6月 洋紙営業本部 印刷用紙部 調査役 兼 新聞用紙部調査役
1996年7月 洋紙営業本部 印刷用紙部長代理 兼 新聞用紙部長代理
(1996年10月 新王子製紙と合併し王子製紙となる)
2001年6月 王子製紙 新聞用紙事業本部 新聞用紙部長
2003年6月 関西営業支社長代理 兼 新聞用紙部長
2005年6月 関西営業支社長 兼 新聞用紙部長
2008年4月 執行役員 新聞用紙事業本部長
2011年4月 常務執行役員 新聞用紙事業本部長
2012年6月 取締役常務執行役員 新聞用紙事業本部長
(2012年10月 持株会社制移行により王子ホールディングスとなる)
2012年10月 王子ホールディングス 取締役常務グループ経営委員 兼 王子製紙 副社長
2013年6月 取締役専務グループ経営委員 兼 王子製紙 社長
現在に至る

王子製紙
母体は渋沢栄一が1873年に設立した「抄紙会社」。2012年10月、王子グループの持株会社制への移行に伴い「印刷情報メディアカンパニー」の中核会社として、新聞用紙事業および洋紙事業を承継。
資本金:3億5,000万円、従業員数:2,453名(2013年3月31日現在)

インタビュアー/西川 敦子 写真/太田 亨

厳しい市場環境下でも守り抜くべきもの

――2012年10月、王子ホールディングスの「印刷情報メディアカンパニー」として新たな出発をされました。今、改めて王子製紙としてどんな理念をお持ちですか。

渕上

2013年で創業140年と、長い歴史を持っています。設立は明治6(1873)年。渋沢栄一が設立した抄紙会社が母体です。創業当時、国内には製紙会社がなく、輸入紙しか出回っていませんでした。しかし渋沢は「国民の文化、教育レベルを上げるには書籍や新聞などの印刷物の普及が必要となる。そのためには安価で大量印刷が可能な洋紙を製造すべきだ」と考えたそうです。当社の企業理念「情報を伝える。それ以上の価値を社会へ」にも、その思いが受け継がれています。新聞、出版物、その他の紙媒体における我々の役割は、単に情報を伝えることだけではありません。例えば新聞を広げてみると、一つひとつの記事は、単純に事実だけを綴ったものではありません。丹念な取材を重ね、深い洞察によって分析を加え書かれているのです。そこには書き手の魂がこもっている。だから読み手の心に響くものがあります。「なるほど」とうなる人もいれば、反論したくなる人もいるでしょう。気になるところがあれば目を止め、しばらく思索にふけったりするかもしれません。あるいは、もう一度読み返したり、切り抜いたりするかもしれない。これらは全て、紙に落とし込まれた媒体だからこそできることなのではないでしょうか。一方的に配信されてくるものをひたすら受け取るだけでは、こうはいきません。そう考えると、紙には深く読ませる力、書き手と読み手を結びつける力があることがわかります。

――紙はメディアとして重要な役割を担っている、と。

渕上

文字や写真の伝わり方は、使われている紙によって左右されるものです。当社が製造する新聞用紙は100種類以上。全国の新聞にそれぞれ特別オーダーの新聞用紙を納品していると言っても過言ではありません。その媒体にふさわしい紙というものがあるのです。

このように、時代を経ても紙の持つ役割は非常に重要です。とはいえ、製紙業界の市場環境は、はっきり言って厳しい。人口減少、少子高齢化、そして電子化――国内の新聞用紙の需要は毎年2%ずつ、雑誌などの出版物に使われる洋紙は年5%程度の減少を見せています。緩やかではありますが、減り続けているのは動かしがたい事実です。

――厳しい環境を、どう乗り越えていこうとお考えですか。

渕上

当社では、需要がピークに達した2000年頃から、大胆なコストカット体制に踏み切りました。以来、毎年数十億円単位の経費削減を続けています。2008~11年度にかけて12台の抄紙機を停止し、2012年度にも2台の抄紙機の停止、1台の品種転換を進めるなど、国内生産体制を柔軟に再編成しています。事業の「選択と集中」という観点でいえば、今後も守り育ててゆきたい分野は、やはり新聞用紙です。実は需要が減ってきたとはいえ、新聞用紙の市場は海外参入が非常に少なく、輸入紙が占める比率はほぼゼロに近い。これは、新聞用紙が「決まった時間に、決まった品質のものを、決まった量だけ納品しなければならない」という、ジャストインタイムの宿命を背負っているためです。海外勢との競合がない市場環境は、このご時世、恵まれていると言わねばなりません。出版用紙も、品質を重視すべきジャンルです。雑誌の休刊、廃刊が少なくなく、需要そのものは減ってきていますが、品質や種類の多様さが問われる製品分野ですから。コピー用紙などの情報用紙も然り。ただし、チラシなどの商業用紙は別です。大量生産をする紙ですので、もともと品質より価格が勝敗の分け目になりがちでした。特に近年、東南アジアの進出が著しくなってからは価格競争に拍車がかかっています。こうしたコストダウンができるところはそれに徹底的に注力し、安い商品を提供することでお客様に喜んでいただきたいのです。

流通経路の変化が意識革命を進めた

――こうした市場環境の変化は、人材育成のあり方をも変えてきているのでしょうか。

渕上

求められる人材、育てるべき人材は、明らかに昔と変わっています。というより、変わらざるを得ない時代になったと言ったほうがいい。つい最近まで紙の流通は、当社が創業された140年前からずっと同じ仕組みで回ってきました。製紙工場で作った製品は、紙商社(代理店)、さらに紙卸商を経て、エンドユーザーに届く、という複雑な経路が存在していたのです。無駄な時間もコストもかかるこの流通経路をいち早く短縮化したのが新聞でした。20年ほど前から、製紙工場から直接新聞社に納品する仕組みが広がり、近年ではすでに定着した感があります。こうなると、製紙会社は単にモノづくりだけをして、販売は他社にお任せ、というわけはいきません。

20年前に新聞社への直接販売が始まってからというもの、それまでデスクや工場に張りついていた人々も、顧客先に出向いては営業活動をするようになりました。それも単に売り込みをかけるだけでは営業にならない。お客様の情報を集めるだけ集め、それらを分析して課題を発見し、ソリューションにつなげなければなりません。意識変革が広がり、ようやくできてきましたが、一連の業務フローが回るようになるのに20年かかりました。ただ、これは新聞用紙など、あくまで一部の分野での話です。他分野では代理店経由での販売が依然として続いています。実はこれが非常に厄介な問題なんです。代理店経由で売ると、顧客と接する機会がないものだから、気が利かない人が増える。この壁を壊さない限り、これから真に必要となる人材は育てられないでしょう。

年功序列型の人事制度も変革しなければなりません。これまで王子ホールディングスでは、運用が年功序列になりやすい職能等級制度を導入していましたが、まもなく役割等級制度に移行させていきます。そうなると、30代社員が40代の上司になることもあるでしょう。グローバル化対応の視点を込めて、TOEICのスコアも昇格条件に入れるべきかもしれません。グループとしてそうしたメッセージを発信していくことで、組織の空気を刷新していきたいですね。

――今後の製紙業界で求められている人材像は。

渕上

アンテナと感性を持つ人材ですね。紙は基本的に内需型市場なので、王子製紙としては海外より国内での営業活動に重点を置いています。そうなると、やはりきめ細かなサービス、ハードルの高いニーズに応える営業力が欠かせません。それを可能にするのは「情報収集力」です。

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