J.H.倶楽部

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Learning Design 2021年01月刊

“Buzzword” から人材育成の未来を読み解く 第4回 “従業員の経験”という価値 人事の新しい命題 「EX」

いまこそ注目したい組織、人事領域のBuzzword。
第4回めではエンプロイーエクスペリエンス(以下、EX)に焦点を当て、その向上のための人事の役割について解説します。

高柳圭介氏 Takayanagi Keisuke
EYストラテジー・アンド・コンサルティング
ピープル・アドバイザリー・サービス パートナー

コンサルティングファーム数社を経て現職。
約15年の組織・人事コンサルティング経験を有し、現在は人材価値の最大化に主眼を置いたチームの責任者を務める。
タレントマネジメント戦略や要員・人件費管理、デジタル人材育成、様々な領域でのプロジェクトを手掛ける。

EXが“バズった”背景

EX という言葉が日本の人事業界で認知され始めたのは2015年ごろ。様々なHR 関連カンファレンスや業界誌で取り上げられました。当時、Airbnb社が人事部門の名称を「エンプロイーエクスペリエンスチーム」に変更し、そのトップをCEEO(Chief Employee Experience Officer)と呼称したことも大きな話題となりました。「会社を中心に置き、人材を1つの経営資源ととらえる考え方」から、「人材(従業員)を中心に置いた考え方」への変革は、人事部門の役割や在り方そのものにも大きな影響を与えています。

現在、日本は急速な少子高齢化の真っ只中におり、労働人口の減少と、それに伴うタレントウォー(人材獲得競争)の到来は避けられない状況です。また、1980年代以降に生まれた「ミレニアル世代」が、組織の中核を担う年齢層になるにつれ、働き手の労働観も大きく変化してきました。

従来の新卒一括採用・終身雇用の時代はもはや終わろうとしています個々人が自らのキャリアを実現するために、その受け皿としてもっとも適した企業を探す時代が到来しつつあるのです。従業員の帰属意識を高め、離職率を最小化するにはどうしたらよいのか――。企業はいま、真剣に考え始めています。その1つの答えとしてEXが注目されるようになったわけです。

EXとEEの深い関係

本題に入る前に、もう1点だけ説明しておかなければならないことがあります。それは「エンプロイーエクスペリエンス(EX)」と「エンプロイーエンゲージメント(EE)」という混同しがちな2つの言葉の関連性についてです。

エンプロイーエンゲージメントとは「従業員一人ひとりが所属する組織の目標達成に向けて能動的・主体的に貢献しようとする感情」を意味します。当然、エンプロイーエンゲージメントが高ければ高いほど、業績に良いインパクトがあるはずです。

2017年にリンクアンドモチベーション社と慶應義塾大学ビジネススクールが実施した共同調査「エンゲージメントと企業業績」のなかで、エンゲージメントがDランク以下の企業では、売上伸長率が4.2%だったのに対し、Bランク以上では19.8%に上った、という調査結果が示されています。

EXを高めることでエンプロイーエンゲージメントが高まり、エンプロイーエンゲージメントが高まることで個人業績が上がる。それが顧客満足につながり、最終的には組織としての業績が上がって、優秀な働き手を惹きつける魅力的な会社になるということです(図1)。「風が吹けば桶屋が儲かる」のような話ですが、EXがこの連鎖反応の起点になっているのは間違いありません。

日本は世界の国々に比べ、エンプロイーエンゲージメントが低いといわれています。ギャラップ社の調査(「Stateof the Global Workplace 2017」)によれば日本のエンゲージメントは対象139カ国中、132位とのこと。日本の「熱意溢れる社員= Engaged」は全体のわずか6%。逆に「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員=Actively disengaged」が23%、「やる気のない社員= Not engaged」は71%。エンプロイーエクスペリエンスを向上させることで、この現状をどこまで改善できるか。それが日本企業の人事部門に突きつけられた命題となっているのです。

EXを向上させる人事とは

エンプロイーエクスペリエンス向上に向けた施策や、その施策を実行するうえでの人事部門の役割を、コンサルティング事例を基にしたいくつかのケースに沿って見ていきましょう。

ケース①人事と現場の役割は?EE を可視化し、活用

エンプロイーエンゲージメントがEXの結果であるということは前述したとおりです。したがって、そのエンプロイーエンゲージメントがどういう状況にあるのかを可視化し、モニタリングしていくことはEX 向上に向けた施策の効果を確認するうえで非常に重要です。

製造業A社は、エンプロイーエンゲージメントの状況をサーベイによって可視化しようと考え、そのためのシステム導入、および運用プロセス設計を行いました。2019年にSAP社が買収したクアルトリクス社の「Qualtrics」や、リンクアンドモチベーション社が提供する「モチベーションクラウド」など、サーベイプラットフォームの業界には国内外のビッグプレーヤーがひしめきあっています。これらのシステムの特色や差異のどこにA社が注目し、何を選択したかについては別の機会にお話しさせていただくとして、注目したいのは、サーベイプラットフォームを中心とした新たな業務プロセスにおいて人事部門が担った役割についてです。

A社のサーベイは2つに大別されます。全従業員を対象とした、いわゆる従業員満足度調査と、各現場が裁量をもって運用するパルスサーベイです。パルスは「脈拍」の意味で、パルスサーベイは、まさに脈拍検査のように1、2分で完了する数問程度の質問を高頻度で投げかけるサーベイを指します。

A社では、従業員満足度調査は実施から分析、施策立案、実行まで、すべて人事部門主導で行われます。ただしパルスサーベイは現場主導としました。各現場はパルスサーベイを実施し、得たデータを基に速やかに解決策を立案、実行、次のサーベイで効果を検証するというサイクルを回していく責任をもちます。各現場のパルスサーベイの結果は経営陣にも定期的に公開されます。

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