J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年09月刊

新連載 進化するオンライン研修 600人新入社員研修のオンライン化実践 前例の通用しない世界で 活躍できる基盤を オンライン研修で醸成 〈第1回〉 本田技研工業

新型コロナウイルスの感染拡大は、企業内研修の在り方に大きな影響を与えている。
多くの企業が研修の延期や中止、計画の見直しを行うなか、本田技研工業は早期に新入社員研修のオンライン化を決断・実施し、手応えを感じたという。
オンライン化の経緯や工夫、そして効果とは。

大野慎一氏 本田技研工業 人事部 人材開発課 課長
笹野真紀氏 人事部 人材開発課 育成統括
鈴木繁正氏 人事部 人材開発課 人材育成グループリーダー
笠井英明氏 人事部 人材開発課 チーフ 新入社員研修担当
市原佑季子氏 人事部 人材開発課 新入社員研修担当

本田技研工業株式会社
1948年設立。主要事業は、二輪車、四輪車、ライフクリエーション製品などの研究・開発・製造・販売。
2030年ビジョン「すべての人に、『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する」の実現に向けて、現在「既存事業の盤石化」と「将来の成長に向けた仕込み」に取り組んでいる。
資本金:860億円(2020年3月31日現在)
連結売上収益:14兆9,310億円(2019年度)
連結従業員数:21万8,674名(2020年3月31日現在)

[取材・文]=谷口梨花 [写真]=本田技研工業提供

コンセプトは変えずにオンライン化

例年、本田技研工業に入社した新入社員は、三重県鈴鹿市で1週間、入社時研修を受講後、製作所や販売店実習を経て各部署に配属されていた。

しかし、今年度の新入社員研修は、まったく異なる形で実施されることとなった。研修はすべてオンライン化。実習が中止になった分、期間も当初の1週間から2カ月間延長して6月上旬まで行われたのである。オンライン化の経緯について、人事部人材開発課課長の大野慎一氏はこう話す。

「当社では新入社員に限らず全社員に対して、前例の通用しない世界で自ら考え、行動する意志をもつ人材となることを求めています(図1)。正式配属時にその基盤ができていることを目指し、今年度の新入社員研修から、経験学習に基づく新たな研修デザインに刷新する予定でした。しかし、準備を進めている最中に新型コロナウイルスの感染が拡大してきましたので、集合型研修や実習が難しくなることを見越して、主体的な成長を促すための育成を強化するという当初のコンセプトは変えずに、それをオンラインで実現する方向に舵を切ったのです」(大野氏)

新型コロナの感染が拡大した時期は、新入社員を迎える直前。どうオンライン化を進めていったのだろうか。新入社員研修を担当する笠井英明氏と市原佑季子氏は、こう振り返る。

「当社の新入社員は約600名と非常に多く、全員が全国を移動するリスクも鑑みて、人事部内では2月末にはオンラインに切り替える方向性で動き始めました。最終的にオンライン化が決まったのは3月上旬。そこからは、『前例の通用しない世界で活躍していくための基盤をつくる』という当初の目的を実現するために、研修のゴールを具体的な行動変容レベルまでブレークダウンしていきました」(笠井氏)

目的を達成するための、次の5つの目標「①社会人としての基礎を磨く」「② Hondaフィロソフィーの理解と体感」「③社内環境を認識し、働くうえで必要な社内知識を身につけている」「④社外環境を認識し、自らが実践すべきことを理解している」「⑤社会人として求められるコンピテンシーを備えている」それぞれに対し、具体的なゴールを設定し、それに応じたコンテンツを企画していった。先行き不透明な状況のなかでは、スピーディーで柔軟な対応が求められた。

「研修期間についても、3月の段階で6月上旬までの延長が決まっていたわけではなく、社会情勢を見ながら都度判断していきました。育成コンセプトはブレさせず、オンラインで何ができるのか、具体的なコンテンツは走りながら考えたという感じですね」(市原氏)

インプットした学びをアウトプットするプログラムに変更

そして4月1日から、オンライン研修が始まった。

「1週目は、昨年度まで鈴鹿市で行っていた入社時研修と同じ内容のものをオンラインで提供しました。企業理念など、このタイミングで学ぶべきことばかりのため、外せないと考えたからです。ただ、当時はオンラインのノウハウがなかったため、講師に依頼して事前に撮影したビデオを流すくらいしかできなかったのが反省点です。後半になるとオンラインの知見がかなり増えてきたので、今振り返ればもっとインタラクティブにすることもできたと思います」(市原氏)

例年であれば、入社時研修後はモノづくりの現場で働く製作所実習や、顧客と接する販売店実習に向かうが、今年4月のその時点は緊急事態宣言の最中。実習を行うのは難しい状況であり、オンライン研修の延長が決まった。

そこで研修に組み込んだのがワークショップである。背景には、従来の新入社員研修における課題があったと大野氏は指摘する。

「一律のインプットが中心のこれまでの研修では、新入社員が受け身の姿勢になりがちで、自立・自律的に行動する機会が不足することが課題でした。

主体的な成長を促すためには、研修においてもインプットとアウトプットのバランスが取れていなければいけません。そこで、アウトプットが中心になるワークショップを複数実施することにしたのです」(大野氏)

2カ月間の研修中に実施したワークショップは4つある(図2)。

「まず4月に行ったのは、未来を予測し、当社が今後50年生き抜くためにはどうしたらいいかを考える未来洞察ワークショップと、当社の販売店であるHonda Carsにおける新サービスや新体験を提案するワークショップの2つです。SWOT などのフレームワークも活用しました。

5月は少し負荷を高め、他の2つのワークショップを同時並行で実施しました。1つは、移動の喜びを実現するサービスアプリを提案する顧客価値創造ワークショップです。もう1つは、新型コロナウイルス感染者搬送車両の提供などの、当社の支援活動も踏まえて行った『Beyond theCOVID19』 というワークショップ。実際に搬送車両の開発に携わった社員にも登壇してもらい、社会への価値提供のあり方を考えてもらいました」(笠井氏)

ワークショップでは、オンライン上の機能を駆使して自分の意見をアウトプットする機会を増やしたという。さらに、いいアイデアは特許申請や事業化を検討するというインセンティブを付与し、モチベーションを高める工夫もした。

「今回、ワークショップを多く取り入れることで、インプットした知識をすぐに活用し、アウトプットさせることができました。例年と比べても、アウトプットの比率は圧倒的に増えましたね。

ちなみに、これらのワークショップは経営企画部門や知的財産部門など様々な部門と連携し、完全内製で行いましたが、それもこれまでなかったことです」(大野氏)

eラーニングを活用した反転学習で理解度が向上

また、今年度の新入社員研修ではeラーニングを積極的に取り入れたことも変更点の1つである。人事部人材開発課育成統括の笹野真紀氏はこう説明する。

「当社では、これまでe ラーニングを積極的に取り入れていませんでした。その背景には、当社の人材育成が、実務の経験を重ねるなかでの専門性や職務遂行能力を高めるOJTを基本としてきたことなどがあります。さらに、新入社員研修に関していえば、1週間という短期間のため、どうしても実習・配属に向けてのマインドセットが中心になっていたことも理由の1つです。

ただ、今回eラーニングと講義を組み合わせることで、理解が深まることを実感しました。eラーニングの活用可能性は、今後も検討していきたいと考えています」(笹野氏)

今回、eラーニングを取り入れるだけではなくeラーニングでインプットした知識を、講義やワークショップで活用する「反転学習」も行った。大野氏はこう評価する。

「『反転学習』を取り入れることで、理解度が深まりましたし、インプットした知識をすぐに体現する力も向上しました。eラーニングは、時間と場所を選ばずにオンデマンドでどんどん学べることがメリット。今こそ積極的に活用するべきだと思っています」(大野氏)

日々のリフレクションで内省力を強化

もともと今年度から経験学習に基づく新たな研修デザインに刷新する予定だったこともあり、同社が例年以上に力を入れたのが「内省力の強化」である。そのために、研修終了後には毎日リフレクションを行った(図3)。

「研修プラットフォーム上に、その日の気づきや学び、そしてそれを今後の行動にどう反映するかを書いてもらいました。これを配属まで毎日行うことでリフレクションが習慣化し、内省力が高まったと思います」(笠井氏)

内省力の強化には、600名の同期の存在も大きかったという。

「内省を深めるには他者からの学びも重要です。各自の気づきや学びはリアルタイムで共有できるようになっており、同期同士でコメントや『いいね』をつけることができました。研修が進むにつれて活発なフィードバックが行われるようになり、他者からの学びも大きかったと感じています」(市原氏)

さらに、2カ月間の研修の最後には、2日間のまとめ研修も行った。

「1日目は、入社から現在までを振り返り、何ができるようになったか、何ができていないのかを言葉にしていきました。それを踏まえて2日目は、今後何をしていくのか、具体的な行動計画にまで落とし込みました」(市原氏)

内省力の強化は、研修中の言動にも表れたと大野氏。

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