J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年09月刊

連載 中原淳教授のGood Teamのつくり方 第13回 リモートチームから学ぶチームの本質

多くの企業でリモートワークが広がるなか、チームワークの難しさが課題となっています。
『リモートチームでうまくいく』(日本実業出版社)の著書でもある倉貫義人さんにリモートワークでGood Team をつくる方法について聞きました。

倉貫 義人(くらぬき よしひと)氏
大手SIerにて経験を積んだのち、社内ベンチャーを立ち上げる。2011年にMBOを行い、ソニックガーデンを設立。
月額定額&成果契約で顧問サービスを提供する「納品のない受託開発」を展開。
全社員リモートワーク、オフィスの撤廃、管理のない会社経営などの取り組みも行っている。
著書に『リモートチームでうまくいく』(日本実業出版社)ほか。



中原 淳氏 (Jun Nakahara)氏
立教大学経営学部教授。立教大学経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。
東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、2018年より現職。
著書に『職場学習論』、『経営学習論』(共に東京大学出版会)、『研修開発入門』(ダイヤモンド社)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中央公論新社)など多数。
研究の詳細は、Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/宇佐美 雅浩 

ソフトウェア開発事業を手掛けるソニックガーデンでは、約5年前から「オフィスなし、全社員リモートワーク」を実践しています。

リモートワークを導入したのは10年前。当初は一部のメンバー向けだったので、リモートワークをするメンバーと、オフィスにいるメンバーとのチームワークが課題でした。ビデオ会議システムやチャットなど様々なコミュニケーション方法を試しながら試行錯誤を重ね、2016年からはオフィスを廃し、完全リモートに。現在は約45名の社員の半数近くが地方在住者ですが、自社で開発したバーチャルオフィスシステムを使い、全員がオフィスで働いているのと変わらないチームワークを実現しています。

リモートチームで成果を上げていくためには何が必要なのでしょうか。代表取締役社長の倉貫義人さんにお話をうかがいました。

部長も課長もいないネットワーク型組織

中原:

全社員リモート勤務の会社ということですが、どのようなお仕事をなさっているのですか?

倉貫:

2つの事業分野があります。1つはお客様のシステム開発を行う受託開発です。ただし、発注されたものをその都度期限内に納品するのではなく、「納品のない受託開発」。税理士のように、顧問エンジニアとして月額、定額で長期間おつき合いしていくスタイルでビジネス展開しています。

もう1つは自社開発のソフトウェアのサービス販売で、主力商品はリモートワーク関連の仮想オフィスシステムや勤怠管理システムです。

変わっているのは1人で複数の部署、チームに所属している点。クライアントのA社のメイン担当をしながらB社の仕事も行い、社内のセキュリティー委員会と情報システム担当も兼務する、といった具合です。

中原:

それぞれの部署に管理職はいるのですか?

倉貫:

部長も課長もいません。ヒエラルキーはなく、ネットワーク型の組織です。上司が管理したり、指示命令したりして仕事を進めるのではなく、それぞれ自分が担当する複数の業務が円滑に進むよう、自分でリソース配分し、セルフマネジメントするというやり方をとっています。

中原:

各自が自立したスペシャリストだということですよね。

倉貫:

そうですね。ただ、1人で仕事を完結させる個人事業主の集団ではありません。お互い自分の得意なところを使って人を助けたり、苦手なところは人に任せたりして仕事を回しています。会社に依存したいとか、守られたいというのではなく、それぞれの強み、個性を活かしたい、という思いで集まっています。逆に何かしら強みがないと助けられっぱなしになってしまうので、居心地が悪いかもしれません。

会議と作業の間にあるもの

中原:

普通の職場に比べて、リモートの職場はどこが違いますか?

倉貫:

5年前、オフィスをなくしたとき、失うものはあるかなと考えてみました。

目的とアジェンダの決まった会議はテレビ会議の方が向いていると感じましたし、作業も在宅で大丈夫。ただ、会議や作業の合間の雑談や相談など、ちょっとしたコミュニケーションをする場所がなくなったのが困りました。オフィスというのは、“会議未満・個人作業以上”のコミュニケーションツールだったんだ、という発見がありました。

中原:

面白いですね。確かにオンラインだけだと、目的のあるコミュニケーションばかりになってしまうと感じていました。「ちょっといいですか」という声かけがしづらいし、あと、人の気配もない。

倉貫:

そうなのです。チャットを導入すれば、多少コミュニケーションはとれますが、人がいる感じはありません。

オフィスにいると、他の人の会話がなんとなく聞こえてきて「今、あの2人が一緒に仕事しているんだな」とか「あの人、怒ると怖いな」といったことがそれとなくわかります。また「こんなときに皆笑うんだな」といった会社のカルチャーやノリみたいなものは、目的も宛先もないコミュニケーションのなかから生じるものです。

中原:

そこで、ちょっとしたコミュニケーションや気配のなさを解消するバーチャルオフィスツールを自社開発されたのですね。

倉貫:

はい。他人の雑談がうるさくない程度に聞こえてくるような、朝、“出社”して「いい天気だな」などと独り言が言えるような環境を再現できたら、と考えました。

中原:

ちょっとした雑談など、インフォーマルなコミュニケーションがなくなると何に支障が出てしまうのでしょうか?

倉貫:

ありていに言えば人間関係だし、流行の言葉でいえば心理的安全性でしょうか。普段から雑談を通して相手を知り、関係性をつくっていないと話しかけづらくなりますよね。困っていることやわからないことがあっても会議の場では発言しにくいので、「次の会議で聞けたら聞いてみよう」と、つい消極的になってしまいます。

ですが、こうしたコミュニケーション不全の積み重ねが、スピード感を低下させる原因になります。気になることはその場で聞いて、早く解決する方が、生産性や品質の向上につながります。

中原:

ということは、人間関係のできていない新人は社内の誰が何に詳しいかわからず、特に相談しにくいですよね。育成的な観点では、やはりリモートはうまくいかない、と思っている会社も多いように思います。

倉貫:

やはり入社したてだと誰に聞いたらいいのかわからないという問題があります。そこでメンターをつけ、その人から案件ごとに適切な人を紹介してもらうようにしています。

中原:

オフィスにいれば、隣席の先輩が担っていた役割を、メンターに託しているというわけですね。

倉貫:

はい。ですが、実はオフィスでも、新人がぽかんとして困っているのに誰も声をかけない、といった問題は結構起きているのでは。そう考えると、オフィスもリモートもさほどの違いはないような気がします。

中原:

オンラインで少し辛口のフィードバックをするときはどうされていますか? リアルの職場よりやりづらいのでは、と思うのですが。

倉貫:

基本的には同じです。1対1で言いづらければ、他の人にも入ってもらったり。リアルでもオンラインでも言いにくいのは変わりません。そこに向き合うしかないのかと。

「管理」すると「監視」になってしまう

中原:

バーチャルオフィスでは、全社員の膨大なチャットをすべてリアルタイムで「見える化」しています。これには何か意味がありますか?

倉貫:

コミュニケーションは「質」も大事ですが、「量」の方が圧倒的に大切なのではないかと感じています。相手について情報量が多ければ多いほど不安が減り、雑談も相談もしやすくなります。ですので、話題を選ばず、チャット内容を全部オープンにして流しています。

中原:

なるほど。常に全員のチャットが流れ、常に全員の顔が映し出されていることで、オフィスのように人の気配が感じられますね。しかし、自分の顔がずっと映し出されているというのは、監視されているような感覚になりませんか?

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