技術テーマを事業化し、マネジメントするための 教育デザイン6 つのヒント
新しい技術開発が製品に結実し、それが顧客に受け入れられるには、技術者や研究開発者自身がビジネスモデルを構想する力を身につけ、戦略課題をやり遂げる力が必要になってくる。ここでは、企業がMOTに取り組み、技術者・研究開発担当者が事業価値を生み出すために必要な6つの視点をあげてみる。
はじめに
「MOT をどうやってデザインすべきか」という問いを突き詰めていくと、「技術を核として、どのように事業をつくっていくか」という問題に行き着く。もちろん技術開発そのものは重要だが、それをいかに事業価値創造に結びつけるかがもっと重要だからだ。そこでポイントとなるのが、「技術づくり」から「事業づくり」への発想の転換である。
ところが、実際のR&D の現場においては、学会での評価や特許の取得が「R&D活動の成果」とされてしまうことが少なくない。こうした状況では、事業の成長や収益の向上に対してR&D 投資の貢献度がいっこうに高まらないのも無理はない。
技術をどのように事業に結実させるかというマネジメントについて見ると、いまだに「良い技術さえ開発していれば、自然に事業の収益につなかっていく」という考え方が、何の検証もされないまま根強く残っている。つまり、インプットの部分を確保することだけに終わってしまっていて、そこから事業価値というアウトプットにどう結びつけていくかというマネジメントが弱いのだ。そして当然の帰結として、技術を事業につなげるためのスキルも、なかなか会社として構築されてこない。
こういう状況は、多くの企業において少なからずあるはずだ。例えば、三菱化学はMIT のジョージ・ステファノポーラス教授をCTOとして招聘したが、彼は技術開発テーマがどのように事業に貢献するのかという意図で、社内でことあるごとに「Show me the money!」と言うそうである。そういうことを、外国から来た人に言われなければならないのが日本企業の実態なのだ。
筆者の経験では、「勝ち組」と言われている企業でも、事業づくりの観点からMOT にもっと真剣に、プロアクティブに取り組んでいけば業績はもっと向上するはずだ、と感じるケースが多々ある。
そこで、筆者の過去数年間における企業のR&D 戦略やR&D マネジメントへのサポートの経験から、MOT を実践するための具体的なヒントを提示したい。なかでも、最近特に力を入れている「エデユサルティング®(Edusulting=Education 十Consulting: 戦略課題解決プロジェクトを企業内の選抜メンバーによって実践する活動)」(図表1 )では、現場の第一線のエンジニアを始めとする精鋭の方々と直に接して、技術テーマの事業性評価やビジネスモデルづくりをサポートしており、その意味でも以下の6つのポイントは、そのまま現在のMOT 人材育成、あるいは組織能力開発のための有益な視点であると考えられる。
技術を事業づくりに結びつける6 つのポイント
①顧客へのバリュー・プロポジションからの事業づくり
バリュー・プロポジション(ValueProposition) 、つまり顧客への価値訴求ポイントからの事業構想を徹底させる、ということである。多くの企業のR&D 活動において、顧客のニーズやウォンツに対する理解は極めて不十分である。基本的には顧客のメリットがあってこその自社のキャッシュフロー、すなわち儲かるということなので、顧客サイドのエコノミクスや満足感から見た妥当な投資やコストについての理解をもっと深めるべきである。