人材採用にエントリー マネジメントの視点を
採用を従来の「人的資源を調達する」という枠組みで捉えるのではなく、「組織の入り口で管理する=エントリーマネジメント」という概念で捉え直す必要がある。いまリクルーティングマーケットにおけるブランドの確立は喫緊の課題である。企業競争力を生み出す優秀な人材をいかに惹きつけるか、エントリーマネジメントカの差が企業力の格差に直結する時代に突入した。
1. エントリーマネジメントが企業成長を支える
私は従来、人材採用として扱われていた領域を単に「人的資源を調達する」という枠組みで捉えるのではなく、「組織の入り囗を管理する=エントリーマネジメント(以下EM)」という広い概念で捉え直すことが必要であると思っている。なぜなら、企業経営において「人的資源管理」という観点に立つと、これまで経験したことのない環境変化が起こっているからである。それは主に以下の3点に集約される。
第1に、「“企業”とそこで働く“個人”の関係」に劇的な変化が起こっていることがあげられる(図表1 )。高度経済成長期やバブル期を通して、両者はお互いに縛り合う「相互拘束関係」を続けてきた。勤務期間が長ければ長いほど右肩上がりで収入が増えていくような給与制度や退職金制度は「途中で退職すると大損害を被る」仕組みであり、企業が長期間にわたって個人を拘束するのに十分な機能を果たす制度であった。
一方で企業の方も、新卒時に採用した人材に縛られてきたことになる。企業が雇用関係の解消を迫るような動きは、現在とは比較にならないほどタブー視されてきたのである。しかしこのような関係も、社員を長期間縛り続ける高コスト体質を引きずったままでは激しい市場競争に勝てなくなった企業と、入社した企業に一生涯縛り続けられることに不合理を感じていた個人によって、徐々に「相互選択関係」へと変化することになる。
「相互選択関係」は、お互いに「縛り合う」代わりに「選び合う」「活かし合う」関係という性質を持つ。この新たな関係は両者にとって一見「選択肢の多い社会の到来」という楽観的な解釈が成り立つものであるが、一方で「選ばれない個人」や「選ばれない企業」が増加するという現実も見逃すことはできない。必然的に「働きたい場所だと思ってもらえる会社」と「ここにいても意味がない、将来がない、成長がない」と人材が流出してしまう企業に二極化していくことになる。
第2に、企業の競争力の源泉がハードからソフトに移行していることがあげられる。モノというハードを作れば売れた時代は終焉し、そこにどれだけ価値を付加できるか、社員の知恵から生まれたサービスを提供したり、顧客心理を的確に商品開発に反映させることができるかといったソフトの部分が重要な時代に変わってきている。市場が成熟してゼロサムゲームの様相を呈し、1人の優秀な人材=ソフトの動向で企業経営に大きなインパクトを与える構造に変わってきているのだ。変革に向けて多くの企業が掲げている「提案型ビジネス」「コンサルティング」「ソリューション」といったテーマは、まさに人材レベルによってその成否が分かれるビジネスモデルなのである。
第3に、個人の働く意識が多様化していることがあげられる。高度成長期のようにだれもが物質的豊かさ(=高給)と組織内の地位(=立身出世)を求めていた時代とは違う。特に豊かな時代に育った若年層は「食べるために働く」という意識が薄く、会社や仕事に求めるものも多様化している。
これからの時代は、企業はこの就業意識の多様化にどう対応していくかが大きな課題となろう。EM は、このような組織内の多様化し過ぎる従業員二-ズ(何を求めて働くのか)に対応するために有効な行動である。経営ビジョンや事業内容、仕事内容や待遇などについてオープンな情報提供を行うこと、そして応募者の「就業意識」や「会社選択の基準」を十分にヒアリングすることで、「相互理解」を深め、「応募者が組織に貢献できること」と「自社が応募者に提供できること」を擦り合わせ、応募者との間で双方の期待値を調整することが重要である。
以上を踏まえて企業の成長発展を考えると、リクルーティングマーケットにおける独自のブランド確立は決して後回しにできるテーマではない。企業の競争力を生み出す優秀な人材をいかに自社に惹きつけるか、このことを軸に本気でEM のあり方を考え直さなければならないことを強調したい。なぜならEM力の差が企業力の差に直結する時代に突入したからである。
ではEM とは、どのような示唆を含む活動なのか。そこには、企業経営に大きな効果をもたらす4つの逆転の発想が含まれている。