連載 起業するイノベーターたち 第16 回 人と環境に優しいユニークな商品創り

中小・ベンチャー企業の創業者、後継者の実話から変革への要点を探る
生分解性歯ブラシを始めとする日用衛生用品や介護用品を製造販売するファイン。清水和恵社長は10 年前、創業者であった夫をガンで失い、失意のなかで社長に就任した。しかし、悲しみに浸る間もなく、社員を養うためにすぐさま行動を起こさなければならなかった。自問自答の末に出した結論は、たとえ利益は薄くても、人のため世の中のためになる商品づくりに徹する「自分らしい経営」。それから10 年後の今日、同社のユニークな商品は、多くの人の支持を得るまでになっている。
国内唯一の生分解性歯ブラシメーカー
環境に優しい材料・として脚光を浴びている生分解性プラスチック。最近では苗木ポットやゴルフティーを始め、釣り糸、シャーレ、マスク、ゴミ袋などさまざまなものに使われ始めた。
生分解性プラスチックとは、使用状態では従来のプラスチックと同等の機能を持ち、使用後、廃棄された時は土中あるいは海水中などの微生物によって分解され、最終的に水と二酸化炭素になり、自然界の炭素サイクルに組み込まれる環境調和型のプラスチックのことである。
ただし、ひところよりも安くなったとはいえ、普通のプラスチックに比べ製造コストは3 ~5 倍程度高くならざるを得ない。こうした理由から、必要性を感じながらも商品化に二の足を踏んでいる業界も多い。歯ブラシ業界もその1 つである。
その業界で唯一、生分解性プラスチックを使った歯ブラシを製造するのが、ファインである。同社の歯ブラシにはさまざまなアイテムがあるが、主力商品は紙と同様に捨てることができ、土の中に埋めると分解される。大阪工場(八尾市) を中心に年間約10 万本を出荷している。
同社の歯ブラシは、歯に優しくフィットし、歯ぐきのブラッシングに効果的な天然毛を植毛したり、柄にトウモロコシのでんぷんから得られるポリ乳酸タイプ、もしくは化学合成タイプの生分解性プラスチックを使用しているのが特徴である。
特徴はそればかりではない。生分解性プラスチックの柄に形状記憶性を持たせ、60 ℃くらいの湯のなかに2~ 3分浸すと、柔らかくなり、湯から出し好みの形のまま手で固定させて冷ますとオリジナル歯ブラシが完成するという付加価値の高い製品もある。形が変えられるのは、もちろん、手に障害を持つ大たちに配慮したものである。
また、一部の製品ではパッケージにも生分解性プラスチックを採用、あるいは、リサイクル樹脂のペット素材や再生紙を使用するなど、環境への配慮を徹底している。
「製造コストが高い分だけ、利益は少なくなりますが、環境や人の健康に配慮した製品をつくりたくて、生分解性プラスチックの採用に踏み切りました」と清水和恵社長は言う。