J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2009年08月号

企業事例 日立グループ 事後アンケートに基づく 受講者ニーズに沿って 研修を改善

1961年に日立製作所が設立した日本初の企業内大学を前身とする日立総合経営研修所。
日立グループ各社のマネジャー育成のため、多岐にわたって研修・教育を実施してきた。
しかし同社が行うのは、研修の企画立案や教育プログラムの構築・実施ばかりではない。
研修をより効果のあるものにするために、教育効果を測定し、その結果をもとにインストラクショナルデザインを用いて研修の質を高めていくのである。
ここでは、事後アンケートを使った教育効果測定を経て1つの研修が改善されていく様子を紹介する。

柳 美里氏
日立総合経営研修所営業研修グループHRDスペシャリスト

日立グループ
1910年創業の総合電機メーカー、日立製作所を中心とした企業グループ。国内外に943社のグループ会社を擁し、電気機器から、情報通信、電力・産業システム、電子デバイス、高機能材料、物流、金融に至る幅広い分野で事業を展開する。1961年に設立した日立総合経営研修所は、国内におけるコーポレートユニバーシティの先駆けであり、研修を中心に日立グループ全体のマネジメント強化を担う。
連結売上高:1 0 兆3 億6 9 0 0 万円(2009年3月期)、連結従業員数:40万129名(2009年3月末)

取材・文/黒原康一郎、写真/本誌編集部

学習内容に乖離があったストレスマネジメント研修

2005年8月、日立総合経営研修所では、グループ会社のマネジャーを対象として「ストレスマネジメント研修」を実施することになった。数年前よりビジネスパーソンの“うつ”が一般に認知され、日立グループにとってもストレスマネジメントは喫緊の課題であった。ストレスマネジメント研修には、あるベンダーが開発したプログラムを導入することが決定。1日の集合研修で、2006年4月から3カ月に1回のペースで行うスケジュールとした。

その後、研修企画・運営を一任された柳美里氏は、次のように当時のことを振り返る。

「さまざまな事業所の部課長クラスに事前ヒアリングを行いましたが、予想通り『ストレスを感じている部下にどう対処していいのかわからない』という戸惑いが大勢を占めました。結局、ストレスマネジメントのスキルは、部下の精神的健康を保つことはもちろん、マネジャー自身のためにも必要な教育だという結論に達したのです」

研修のテーマはメンタルヘルス。具体的な学習目標、目指すべきゴールは、「部下がストレス状態に陥ったことを早期発見できるようになること」、そして「部下が自分で問題を解決できるように支援するスキルを身につけること」の2つであった。マネジャーがストレス状態の部下への対処法を知ることこそ、職場のメンタルヘルスに最も効果的だと考えたからだ。

初回の研修当日、柳氏は会場の末席に座り、オブザーバーとして参加した。しかし研修が進むにつれ、次第に違和感を覚えるようになる。受講者であるマネジャーたちの期待と、提供している学習内容にズレがあるように感じたのである。研修終了後に実施した受講者へのアンケートやヒアリングの結果に、それが鮮明に表れていた。

「部下の調子が悪くなるのは管理監督者の責任という精神的なプレッシャーに上司も参ってしまい、メンタルヘルス不調になる可能性さえあるのです。しかし初回の研修では、部下とのコミュニケーションのとり方が講義の中心で、ストレスやうつに対する正確な知識をわかりやすく伝えたり、マネジャーの精神的負担の軽減を図る方法などの課題に対する解決策が想定されていなかったのです」(柳氏、以下同)

現場で問題に直面しているマネジャーたちは、予想以上に事態を深刻に受け止めていることがわかったのである。そんな彼らに、部下を支援するコミュニケーションスキルを授けても、“今さら”感は否めない。さらに、ベンダーから派遣された講師は対人コミュニケーションの専門家であったが、「高度なスキルを教えられても一朝一夕には実践できない」という悲観的な声や、メンタルヘルスが専門外だったこともあって、「受講者の突っ込んだ疑問に答えられなかった」など、厳しい意見も多くあった。

企画者の意図しない学習内容の持ち帰り

柳氏が何より危惧したのは、受講者が企画者側の意図していないネガティブな結論を持ち帰ってしまったのではないかということだった。アンケートやヒアリングの声から「専門家ではない上司が、ひとりで部下のメンタルヘルス問題を解決しなくてはならない」という印象を植え付けてしまった感がぬぐえず、マネジャーをさらに精神的に追い込んだり、逆に「私には到底無理だ」と投げやりにさせてしまった傾向が見られたのである。

柳氏は講師に感じたことを伝え、すぐに学習内容の改訂を行った。結果、解決策として取り入れたのは、「学習内容がわかりやすくなるように講義の順番を入れ替える」「ロールプレイなどの演習を行い、実践しやすくする」という2点であった。同時に、所内の企画担当者と教育効果測定の専門家に次回のオブザーブを依頼。自分が問題点だと思ったことも単なる思い込みかもしれない……。そのため、複数人で確認する必要があると感じたからだ。

改訂後に初めて実施された研修のアンケートとオブザーバーからのフィードバックに、柳氏は「やはり」という思いを抱かざるをえなかった。初回で感じた問題点の多くが、そのまま持ち越されていたからである。アンケートの漠然とした回答に、自分が持った印象と受講者へのヒアリングを加味した、印象論だけで改訂を行った結果だった。

「このままじゃいけないと心底思いましたが、下手にいじって改悪してしまったら、さらに大変なことになります。ここはじっくりと根本から見直す必要があると考えました」

こうして2006年7月、ストレスマネジメント研修改訂チームが発足。学習目標や内容はもちろん、情報を得るための研修後アンケートの内容も根本的に見直す改訂作業に入った。

IDのセオリーに基づく本格的な研修改訂

最初に行ったのは“基本に帰る”ことだった。メンタルヘルスの専門家や産業カウンセラーなどその道のプロ、いわゆるSME(Subject Matter Expert)へ相談したり、専門文献から情報を収集したりしながら、マネジャーに対するメンタルヘルス研修とはいかなるもので、どのような切り口やアプローチが最適かを詰めていったのである。同時に柳氏は、効果的な研修設計を行うためのインストラクショナルデザイン(以下、ID)の勉強会に参加。自身のスキルアップも図った。

そうした中で、研修の新たな学習目標が再設定された。「ストレスとは何かを知る」「部下がストレス状態に陥った時の兆候をつかむ」「職場マネジメントの一環としてストレッサー軽減の対策を図る」「職場に戻るに当たり、受講者が勇気づけられる(元気になる)」の4つである。

今回の目標設定のポイントは、職場マネジメントを正しく行っていくことがメンタルヘルスにつながるということをしっかり伝えること。そして、ストレスがすべて悪いわけではなく、適度なストレスは生産性を上げることなど、ストレスを正確に理解させることであった。また、マネジャーが研修で元気を失うようでは、職場でも実践できないと考え、受講者を勇気づけることも盛り込まれた。

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