J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2018年03月号

THEME「グローバル人材」 日系グローバル企業は多国籍にあらず 「二国籍」マネジメントでは アジアの人的資源が枯渇する

優秀な人材が確保できない―グローバル展開する企業に共通の悩みではないだろうか。
なぜ人が育たないのか、採れないのか。
長年来の問題に明快に答えるのが、東アジア、中国などの人的資源管理に精通する白木三秀教授だ。
2000 年11月号記事「アジアにおける欧米グローバル企業の人的資源管理」を振り返り、打開策を提案いただいた。


白木三秀(しらき みつひで)氏
早稲田大学 政治経済学術院 教授/トランスナショナルHRM研究所 所長

1951 年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。
国士舘大学政経学部助教授・教授を経て、1999 年4月より早稲田大学政治経済学部教授。2005 年より現職。トランスナショナルHRM 研究所所長、国際ビジネス研究学会長等を兼務。専門は、社会政策、人的資源管理論。
『国際人的資源管理の比較分析』(単著、有斐閣)、『チェンジング・チャイナの人的資源管理』(編著、白桃書房)、『グローバル・マネジャーの育成と評価』(編著、早稲田大学出版部)、『人的資源管理の力』(編著、文眞堂)など著書多数。

[取材・文]=増田忠英  [写真]=編集部

20年先に進んでいた欧米企業

─ 30年前、日本企業の海外展開はどのような状況でしたか。

白木三秀氏(以下白木)

戦後、日本企業の海外オペレーションが始まったのは1960 年頃です。当初は大手のセットメーカーが中心で、主な進出先はASEAN諸国やNIEsでした。1985年のプラザ合意で円高が一気に進むと、中小企業を含めた日本企業の海外展開が本格化します。1980 年代後半5年間の日本企業による海外直接投資件数の伸び率は、大企業が毎年20〜30%だったのに対して、中小企業は200 〜300%に上りました。しかし、1990 年代に入ると、バブルが崩壊したため、日本企業の海外直接投資は停滞します。

私自身、アジアに進出する日本企業を研究し始めたのは1980 年代からでした。1990 年代には、アジアに進出している欧米企業も訪問しました。

─当時、アジアに進出している欧米企業は、どのような人材マネジメントを行っていましたか。

白木

先進的な企業は、既に1990 年代の時点で、世界中の人材を有効活用するためのシステムを確立していました。特徴のひとつは、世界本社が海外のオペレーションに強くコミットしていることです。例えば、GE(ゼネラル・エレクトリック)では世界中のシニアスタッフを米ニューヨーク州のクロトンビルの研修所に集め、GEの経営理念を共有します。ネスレも、世界本社のあるスイスの企業内研修センターに世界各国のスタッフを集め、トレーニングをしていました。

もうひとつは、将来のトップ人材候補を世界中の子会社から選抜することです。そのために、各子会社のトップは、自社内から30 歳前後のハイポテンシャル人材を選抜することに責任を負っています。

GEの場合、29万人の従業員の中から数百人が選抜されます。世界本社は、その人たちに3つのアサインメントを与えて育成します。1つめのアサインメントは、異なる事業を担当させること。GEの事業は、発電、航空機エンジン、医療、金融など多岐にわたっています。その中から、これまで経験したことのないビジネスに携わってもらい、3〜6カ月でキャッチアップさせます。2つめは、異なるファンクションを経験させること。例えば、今まで人事を担当してきた人であれば、営業や財務など、全く違う仕事に就かせる。そして3つめは、異なる国に赴任させることです。

こうすることで、事業・ファンクション・国を限定することなく、企業全体をマネジメントできるグローバルな人材を育て、その中から将来のトップマネジメントを選んでいくのです。同様の選抜育成の仕組みは、GEだけでなくシーメンスやユニリーバなども採用していました。

─アジアを含め、世界中の人材が、世界本社のトップマネジメントに選ばれるチャンスがあるわけですね。

白木

そうです。制限のない昇進機会を与えれば、世界中の優秀な人材にアピールできます。帰属意識も高められるでしょう。例えば30 歳前後で将来を嘱望され、「頑張ればトップに抜擢されるかもしれない」と思えば、転職の話があっても思いとどまるのではないでしょうか。

よく、「大企業のトップマネジメントの勤続年数が長いのは日本だけ」と思い込んでいる人がいますが、それは誤解です。欧米の大企業トップのキャリアを調べたことがありますが、勤続年数の平均は20 〜30 年と長い。例えば、GEの元CEO、ジャック・ウェルチは生え抜きでした。グローバル企業の経営は、昨日や今日入社した人では務まりません。やはり、社内で一定の経験を積むことが求められます。

欧米のホワイトカラーはよく転職するイメージがありますが、それはハイポテンシャルとして選抜されない層の話。社内でのキャリアの天井が低くなるので、より条件のいい会社があれば転職していく人が多いのです。

「二国籍」のままの日本企業

─この間、日本企業のグローバル人材マネジメントはどのように変化したでしょうか。

白木

欧米企業が1990 年代に既に実現させていたグローバル人材マネジメントを、日本企業はいまだに実現できていません。日本企業の人材マネジメントは、日本と日本以外とで明確に分けられています。象徴的なのが「同期」という言葉。海外現地法人の社員は同じ年に採用されたとしても、同期とはいわないでしょう。裏返せば、日本人は本国の狭い枠の中だけで出世競争をしていて、海外の社員は競争相手にカウントしていないことになります。

海外子会社のオペレーションは、親会社の経営理念や技術などが身についてさえいれば、必ずしも日本人が行う必要はありません。しかし、スタッフはローカルで採用するものの、上級管理職のかなりの比率は日本人で占められています。このように本社の国籍と現地国籍のスタッフだけで構成される企業を、私は90 年代に「二国籍企業」と名づけましたが、その状況は依然として変わっていません(図2)。

欧米企業の場合、本社の国籍でも現地国籍でもない、第三国籍の人材がマネジメントを担うことがよくあります。それは先述の通り、世界中からハイポテンシャルな人材を選抜して、各子会社に派遣しているからです。

欧米の先進企業が1990 年代に既に始めていたように、日本企業もグローバルで採用した優秀な人材を抜擢して、国籍を越えて活躍させる必要があります。そのことを日本企業は当時から分かっていながら、いまだに実現できていないのです。

日本国内でも留学生が増えてきました。彼らが日本企業に就職すれば、将来、第三国籍人材として海外に赴任する可能性はあります。しかし、そうなるまでには長い時間がかかります。日本企業の海外赴任者の平均年齢は40代後半。今、20 代の留学生が入社し、海外赴任するまで少なくとも10 年くらいかかることになります。

2017年、我々の研究所では、日本の大企業を対象に海外子会社のスタッフの育成について調査しましたが、取り組んでいる企業は半分もありませんでした。エンジニアの育成比率は比較的高かったですが、エグゼクティブ、ミドルマネジャー、若手層で実施中の企業は2〜3割でした。現地スタッフの育成を現地任せにしている日本企業が、どれほど多いかが分かります。

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