J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年09月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 経験や学びを自分ごとに変える 気づきの場の提供者でありたい

金融機関のオープン出納システムをはじめ、スーパーやコンビニで見掛けるつり銭機、飲食店などの券売機や、電子マネーの読み取り端末など、さまざまな通貨処理機の開発、製造、販売を手掛けるグローリー。
同社の人材開発部門で手腕を発揮する山本正昭氏は、入社後長年フィールドエンジニアを務め、現場での経験の数々が、今に生きているという。Off‐JTで大切にするのは「気づきの場の提供」だと語る、その真意とは。


グローリー
総務本部 人事部
人材開発グループ
アシスタントマネージャー

山本正昭 (Masaaki Yamamoto)氏
1986 年グローリー商事(現グローリー)入社。千葉県内や東京西部など、首都圏エリアのフィールドエンジニアを15年務める。その後、部門内の業務改革チーム、教育研修チームなどを経て、2011年より人事部。

会社紹介
グローリー
1918 年、電球の製造装置の修理工場として創業。1950年に国産初の硬貨計数機を開発。大蔵省造幣局に納めたのをきっかけに、本格的に通貨処理機事業を展開する。金融機関のオープン出納システムや小売店のつり銭機、飲食店などの券売機や、電子マネーの読み取り端末、駅のコインロッカーなどを開発、製造、販売し、通貨処理機メーカーのパイオニアとして世界を牽引する。
資本金:128億9294万7600円(2017年5月11日現在)、連結売上高:2225億8100万円(2017年3月期)、従業員数:3246 名(2017年3月31日現在)

取材・文/田邉泰子 写真/編集部

人が好きな気持ちが行動に

「いやぁ、どうもどうも! 本日はお世話になります」

止まっていた会議室の空気が目を覚ます。登場した一瞬で、その場の雰囲気を明るく、居合わせた人たちを笑顔にしてしまった。

山本正昭氏は、通貨処理機メーカー、グローリーの総務本部人事部人材開発グループで、アシスタントマネージャーを務める。社員の教育施策を一任されており、例えば若手社員向けのキャリア研修などで、自身が講師を務めることも少なくない。

「若手には“キャリア”の重要性を説いておきながら、私の場合は、ただただ周りのニーズに応えることに必死になってきた感じなんですよ。だから偉そうなことは言えないとは思っているのですが…」

そう謙遜するが、これまでの軌跡を聞けば聞くほど、今のポジションが必然的であったことが分かる。

高校卒業と同時に入社。自社の製品を使用する顧客のもとに訪問し、保守点検を行うフィールドエンジニア部門に配属された。「高校生の頃、スーパーの精肉売り場のアルバイトで培った」という人懐っこさで、年上の顧客に可愛がられた。

「午前中は一通り銀行を回り、午後からはパチンコ店などのアミューズメント施設を回るなどということもしょっちゅう。煙草屋さんに行けば、自販機のメンテナンスがてら、おばあさんの話し相手になる、という日もありました」(山本氏、以下同)

金融機関をはじめ、あらゆるサービス業でシステム化や自動化が進んでいた時期である。バブル経済も重なり、会社の成長に人が追い付かない状況だった。

「“猫の手も借りたい”とはまさにこのことだ、と実感させられるような毎日でした。当時は体育会系の体質でしたから、『現場で揉まれ、気合いで乗り切れ』という感じでしたね。30 歳になると、ある出張所の所長を任されたのですが、部下が入居していたマンションが火事になったかと思えば、他の部下が個人的なトラブルで会社にいられなくなるなど、ビックリするようなハプニングも絶えませんでした」

山本氏はそのたびに、部下たちに寄り添った。何かあれば真っ先に現場に駆け付け、終電時間を忘れてトラブルの対応策を考えた。ある種、“攻め”のコミュニケーションである。「とにかく人が好き」という気持ちが、山本氏を動かしていた。

特命チームで出会った傾聴術

山本氏が奔走する様子を、見ている人物がいた。入社時から親しい関係だった先輩である。彼に「自分のチームに来ないか」と誘われた。そのチームが行っていたのは、フィールドエンジニアから業務上の不便な点や各自の工夫をヒアリングし、全体の業務改善につなげるという仕事である。全国各地の事業所に数日間滞在し、訪問メンテナンスにも同行する。

ところが、業務改善というのは表向きの目的だった。

「真の狙いは、従業員のメンタルヘルス対策でした。体育会系の風土を引きずり、仕事のオーバーフローを時間や気力で乗り切ろうとする風潮が残っていたので、メンタル不調に陥る社員もいたのです」

訪れた事業所の社員たちと、飲みに行くのも恒例だった。お酒の席なら、本音もこぼれるからだ。

「話題によって、社員が口をつぐんだり、様子が落ち着かなくなったりといった些細な変化を見逃さずにチェックします。周りに合わせてお酒は飲みますが、私にとっては大事な仕事中なので、いくら飲んでも少しも酔えない。それはつらかったですね(笑)」

各地を巡り社員たちと接していくうちに、山本氏は“傾聴の重要性”を感じるようになる。それは、今まで彼が意識したことのないスキルセットだった。

「“攻め”から一転、“守り”のコミュニケーションですから、それは大きな気づきになりました」

社員の心の内を知りたくて、外部のカウンセリング研修にも通った。

「傾聴で一番大切なのは、自分の考えは、ひとまず脇に置くことです。今でも新人指導員の研修では、『相手の間違いを指摘する時は、“間”を取ってください』と説明します。そうすれば“、間違い”ではなく“違い”だけが残ります。

実は自分のフィルタを通していたから、相手が間違っていると思い込んでいることもあるのです。間違いを追及するのではなく、考えの違いを認識し、間を取りながらコミュニケーションをすることが大切です。ただ、分かってはいても、これがとても難しいんですよね……」

飲んだ日の翌日、移動中の車の中で、みんなの前では話せなかった思いを吐露する社員もいた。そんな時は、傾聴しなければと頭では分かっていても、つい自分の考えが脳内で邪魔をする。徹底的に聴き手に回ることができず、葛藤の日々が続いた。

伝える立場への転換

だが、業務改善チームでの活動は2年で幕を閉じた。国内で流通する紙幣の改刷に伴い、既存の製品に新たな仕様を追加する必要があり、山本氏は、仕様変更に伴う作業手順をフィールドエンジニアに解説する役割を担ったからだ。対象となるのは、全国で使用されている通貨処理機全てである。想像を絶する数であり、全社員の総力をあげて対応に追われた。

例え話をふんだんに盛り込んだ山本氏の解説は、分かりやすいと各地で評判になったという。これを契機に、山本氏は部門教育担当として、本格的に社員の育成に取り組むことになる。

部門教育担当としては、講座の企画設計から、講義内容の考案、テキスト作成まで行い、さらに講師の役割を担うなど、何でもこなした。製品に関するテクニカル知識や銀行の業務フロー、顧客満足を取り上げたものなど、プログラムは多彩だった。そのため、1年間のうち、200 日以上が研修で埋まっていった。研修中心の日々を過ごす中で、山本氏は教育の体系化がもたらす効果は大きいと実感していく。

「仕様変更のようなケースは別として、対処療法的な講座のつくり方では、社員を翻弄させるだけだと今も常々感じています」

現場での経験とOff‐JTの狙いや学ぶタイミングが噛み合ってこそ、学びは現場で効果を発揮する。人材開発に対する中長期的なビジョンが明確になり、初めて実現できるものだと考えるようになっていった。

自分ごとに変えるスイッチ

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