J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

CASE 3 東都金属印刷 一人ひとりへのフォローが情熱を支える! 年齢で差別しない、 若手とシニアがペアになる

肉体作業も多く、体力が要求される印刷業界。
ところが、缶製品等の素材印刷を扱う東都金属印刷では
60 代から80 代の従業員が多く活躍するという。
「シニアは貴重な人材」と語る、その背景とは。


永吉武夫氏
社長室付顧問

木間和美氏
総務部 役員室秘書/係長

東都金属印刷
1921年に金属プレス加工会社を開業。1952年に現社名に改組。食品、薬品のパッケージ
や雑貨に使われる缶製品の印刷加工を行う。経営理念に「社員との意思疎通」「風通しの良
い明るく魅力ある職場を構築」「社員とその家族の生活向上」を盛り込み、経営の安定と社員
の幸福の両立を追求し続ける。
資本金:1000万円、従業員数:55 名(2017年6月現在)


[取材・文]=田邉泰子 [写真]=東都金属印刷提供、編集部

●概要 60代以上が社員の3割を占める

菓子や海苔、お茶の食品缶、コーヒー、コーラの飲料缶、缶詰、瓶の王冠、乾電池等、アルミやスチールへの印刷を手掛ける東都金属印刷。従業員55 名のうち、60 代以上が3割以上を占める。平均年齢は50.1歳と、“人生のベテラン”が大活躍する会社だ。最高齢は社長室付顧問の永吉武夫氏で、83歳というから驚きである。

60歳を超えても元気に働き続けられる理由は実にシンプルだ。65歳以上の従業員を対象とした再雇用契約では、年齢制限を設けていないのである。

「今年から定年の65歳を迎えた社員は、70 歳まで嘱託社員として再雇用契約を結び、その後は状況に応じて契約を更新するという仕組みを設けました。しかし制度化する前から、本人に働く意欲があって、体力的にも問題がなければ、1年ごとに更新する形で雇用契約を結んでいました」(永吉武夫氏、以下永吉氏)

始まりは“面談”だった。会社のご意見番的立場にある永吉氏は、全社員を対象に、会社や仕事のことも含め、自由に話せる個人面談の機会を設けていた。改めて、「会社には報告しないから、思う存分好きなように話してほしい」とシニア社員に呼びかけたところ、将来への不安と共に、まだまだ働き続けたいという声が相次いだという。

「以来、面談時の内容を重視するようになりました。健康状態や家庭の状況等もヒアリングします。業務内容だけでなく、出勤形態や給与についても本人の意向をよく聞き、話し合ったうえで契約を更新する仕組みとしました」(永吉氏)

現在は毎年5月を契約更新月とし、それに合わせて面談を行っている。

「一番盛り上がるのは、体力や健康面の話。年齢を重ねる以上、避けて通れないテーマです。印刷業は肉体労働ですし、1年前にはできていた仕事がしんどい、ということもあるでしょう。本人が不安を感じている場合は、配置転換や勤務時間の調整を行います。技術者なら若手の指導者的な立場を担ってもらったり、現場に立ち続けるのが難しければ、短時間勤務、短日勤務にしたりといった具合です」(永吉氏)

賃金・賞与は、基本的にパート従業員を対象とする職種別の人事評価表に基づいて算出するが、それで決定というわけではない。面談で本人の要望や事情をヒアリングしたうえで決める。会社の現実もあり、折り合いをつけるのは簡単ではないが、重要なポイントなので、そこは丁寧に検討を重ねるという()。

一方、交通費の支給や健康診断、予防接種の実施などは正社員と非正規社員の区別はつけず、全員同じ条件で行う。

家庭の事情等で働くことが難しいといった場合を除き、定年を迎えたほとんどの社員が再雇用を希望するという同社。高齢者の新規採用にも積極的だ。他社で定年退職まで勤め上げた人材が活躍しているケースも多いと、総務部係長の木間和美氏は説明する。

「今年76歳のスタッフがいますが、入社面接で『私の趣味は働くこと』と述べていたのが印象的でした。彼は今年で入社8年になります」(木間和美氏、以下木間氏)

ISO認定を取りまとめるメンバーも、他社の定年退職を機に入社した。今年、80 歳の誕生日を迎えるという。

●背景 熟練の技術と意欲を尊重

改めて、なぜ同社では定年後の再雇用や、シニア人材の獲得に力を入れているのだろうか。重機を扱い、金属板等を運ぶ作業もある印刷業なら、体力のある若手が戦力の中心になりそうだが。

「若い人材もぜひ欲しいですよ。しかし一方で、金属印刷は機械やデータに任せられるデジタルなものではなく熟練の技術を必要とする仕事ですそもそも、一人前になるには10 年は修業が必要というのが、この世界の常識でした。それだけに、ベテランの力は欠かせないのです」(永吉氏)

金属印刷は、繊細な技術を要するパッケージに使われる色の分だけ、版やインクを用意しなければならない色味の調整や印刷する素材に合わせたインクの選択も、技術者の感性が問われるポイントだ。インクの数が多ければ重ねる版の数も増え、ズレが起こらないように細かな調整が求められる。さらにインクは乾くと縮むことを考慮し、次の色を載せるベストタイミングを見極める必要がある。

「同業種の企業は全国に20 数社しかありません。ですから、金属印刷に熟達した技術者は貴重な存在なんです」(永吉氏)

勤勉で粘り強く、仕事へのモチベーションの高いシニア人材は、非常に魅力的な存在でもある。稼ぐためというよりも、社会とつながり、何かしらの形で貢献できていること、働けること自体に喜びを感じる高齢者は少なくない。

「中小企業ですから、ポーンと賃金や賞与の額を上げるわけにはいきません。その代わり、できるだけ本人が望む形で “機会”を提供したいと思っています。体の無理はきかなくなっても、能力を発揮できる場さえあれば元気に活躍できますから」(永吉氏)

●施策1 伝承と生産性を補完し合う制度

とはいえ、シニア社員の能力をうまく引き出すには、現場レベルでもそれなりの工夫が必要である。そこで同社では、「ペア就労」という仕組みを設けている。ベテランと若手の2人1組でライン業務を行い、技術やノウハウを伝承する仕掛けだ。10 代、20 代の社員が60代、70代の社員とペアになることも珍しくない。

「ここで苦心するのが、誰と誰を組み合わせるか、です。社員同士の相性もありますし、印刷物によって求められる技術や必要となる後処理も違いますから。ラインを管理する課長や工場長が、生産性を考慮しながら毎日、決定しています」(永吉氏)

永吉氏によれば、ベテラン社員には若手育成に熱心な人が多いという。

「若手社員同士でペアを組むと、先輩社員は苦労して身につけたスキルを簡単に教えたくないと、“出し惜しみ”しがち。しかし、シニア社員の場合は、『自分たちが若い人たちに伝承しなければ、技術が途絶えてしまう』という危機感を持っているようです」(木間氏)

そうは言っても、ベテラン世代は先輩の背中を見て育ってきた人々だ。仕事の伝え方やコミュニケーションが、若手とマッチしない場合もある。

「工場では生産性も大切ですから、『自分でやったほうが早い』と、若手の仕事を取り上げてしまうことも。ただ、目先の生産性にこだわった結果、若手が育たないようでは長い目で見てマイナスですから、ペアを変えたり、管理職がフォローしたります」(永吉氏)

ペアを組む理由は、技術伝承だけではない。加齢に伴う体の変化でベテランの力が及ばない場面では、若い世代が支え手になる。

「例えば歳を重ねれば視力も衰えがち。細かい模様等、識別できないケースもある。若い人の健康な瞳ならば、微細な箇所も確認できます」(永吉氏)

多忙な現場では、時に「とてもフォローしきれない」と悲鳴が上がることもある、と木間氏。そんな場合は配置換えや責任の負担を変える等して対応する。ここでも、やはりうまく折り合いをつける術が問われるという。

●施策2 “シニアだから”と区別しない

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