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特集 AIと人事のつながり方 CASE2 直接会うことから始める仲間探し 効率ではなく本質を問う――「EntryMeet採用」が示唆するAI 時代の人事の軸足 藤原結衣氏 ロート製薬 人事総務部 人事2グループ

ロート製薬が2027年度入社の新卒採用で実施している「EntryMeet 採用」が話題だ。
エントリーシートによる書類選考をやめ、応募者と直接対話する形での1次選考を行ったのである。
AI 選考や動画解析などで新卒採用業務の効率化を進める企業も多いなかで、なぜ工数をかけて、「人と会う」ことを選んだのか。
この判断に至った背景や狙いについて、同社人事総務部人事2グループの藤原結衣氏に聞いた。

[取材・文]=本間 幹 [写真]=ロート製薬提供

生成AI活用の広がりに伴うES選考への疑問

ロート製薬が「EntryMeet採用」の導入を進めたのは、人事部門内で共有されていた問題意識が背景にある。毎年、数多く寄せられる新卒採用のエントリーシート(ES)を読み続けるなか、「これで本当に学生のことが見えるのか」という疑念がぬぐいきれなくなっていたのだ。

同社人事総務部人事2グループの藤原結衣氏は、当時の思いを次のように振り返る。

「もともとESは、『模範解答』のような型を参考に作成される場合も多く、『応募者の個性や可能性を映し出せていないのでは』という思いはありました。生成AIが身近になったことで、その傾向に拍車がかかり、いよいよESだけで評価や判断を行うことに、自信が持てなくなってしまったのです」

実際に学生がどのくらい生成AIを使ってESを作成しているかは、企業側で把握することは難しい。しかし、生成AIが普及した2024年ごろから、ESの内容に明確な変化が現れていたという。

「ロート製薬の理念や実績を挙げ、『そこに私はフィットします』という内容のESが増えた印象です」と藤原氏。

本来、ESで知りたいのは学生自身の人となりである。それにもかかわらず、企業研究を発表するレポートのようなESが増えたのだ。

また、生成AIによってESの作成が容易になれば、企業を十分に調べないまま“とりあえず”エントリーする学生が増え、企業側が数多くのエントリーを「裁く」ことに意識が集中してしまい、採用・選考の本質に向き合うことができなくなってしまうのではないか―― 。そうした採用環境の変化への危機感もあった

加えて「学生にとっても、エントリーが簡単にできるようになった結果、応募する企業を増やすことが本当に良いことなのか」(藤原氏)という疑問もあったという。

現在では、効率的に採用活動を行うためにAIを活用する企業も少なくない。たとえば、AIによるESの自動評価や、1次選考としてのAI面接の導入などが進んでいる。しかし、ロート製薬はこの方法を採らなかった。藤原氏は語る。

「もちろん、採用規模の大きい企業などでは、初期のスクリーニングとしてAIを活用し、効率的に絞り込む方法が適している場合も多いでしょう。しかし当社の場合は、30〜40名の仲間を探すのに、とりあえずたくさんエントリーしてもらい、それを効率的にさばくという手法が本当に必要なのかと考え直しました。私たちは採用活動を『未来を一緒に作っていく仲間探し』と捉えています。仲間探しはもっとシンプルで、まず会ってみて『一緒に働きたい』とお互いに思えるかどうかを確かめ合う。その原点に立ち戻ることにしたのです」

同社が掲げるバリューである「7つの宣誓」のうちの1つに、「まず人がいて、輝いてこそ企業が生きる。主役は人、一人ひとりが自らの意志と力で自立し、組織を動かして行きます。」というものがある。つまり、「人材は会社の所有物ではない」という考えが前提になっているのだ。藤原氏も「会社の成長においては、会社が主語というより、一人ひとりが主語になるべきだという考え方です」と語る。そして、採用活動は、書面上のスキルや専門性以上に、ロートのカルチャーにフィットし、幸せに働き、一緒に未来をつくれるか―― その可能性を見極めることに他ならない。

人の可能性を見極めるには、実際に会って話を聞くことが最善だとする判断は、極めて自然である。こうして同社は、あえてESによる書類選考を行わず、まず直接会うところからスタートするという“手間”を伴う選考プロセスを選択した(図1)。

「学生の皆さんが、私たちと会って『合わないかもしれない』と感じたら、そこで応募をやめていただいても構いません。その分、自分に合う企業に時間を使っていただいた方が、お互い幸せです。そうしたマッチングの見極めは、早い段階でできるほどプラスになるでしょう」

あえての「手間」が「最適な採用」を実現する

これまでESという書類で行ってきた1次選考を、初めから応募者と直接会う形に切り替えると、手間や工数は増えるように思える。しかし、実際はそうではないようだ。

「直接会うという、ひと手間が求められるのは、私たちだけでなく、学生も同じです。そのため、応募する学生は、私たちと一緒に働きたいという明確な意思のある方に絞られると見込んでいました。当社の価値観に共感する方と出会いやすい入口をまずつくることで、全体のエントリー数を絞り、おのずと応募の質が高まる設計になっています」(藤原氏)

2027年度入社の新卒採用における1次選考はすでに実施済みだが、想定どおり、応募者数は前年より減少した。

なお、面接は2026年1~2月に、全国8拠点を13日間で巡回するスケジュールで実施。ここでも、学生との相互理解を深めるための工夫が凝らされている。面接を担当するのは人事メンバーだが、会場の「待合ブース」には、営業や研究開発など他部署から集まった有志の社員を配置したのだ。面接前の学生の緊張をほぐし、対話を通してロート製薬への理解を深めてもらうためのコミュニケーションの場を設けている。

「面接は学生1人あたり15分間という限られた時間ですが、実際に会うことで、当社の考え方や価値観に共感しているか、自信を持って判断できるようになりました。そのため、次の選考への絞り込みも高い精度で行うことができ、選考プロセス全体で見ると、前年より100時間以上の削減となりました。効率化を目的としていたわけではありませんが、振り返ってみると結果的に非常に充実した時間の使い方になりました」と取り組みについて、藤原氏は語る。

また、面接を終えた学生たちからの声も注目すべきポイント。

「今回、選考にお越しいただいた学生から直接、『書類やAI面接で次に進めないと、何で判断されているか不透明でもやもやが残るが、「EntryMeet採用」では、自分の言葉で自分のことを伝えることができるので、仮に次に進めなかったとしても、一定の納得感がある』という声が寄せられています」(藤原氏)

情報収集・分析はAI、判断・評価は人。AI活用の境界線

さて、ここまでAIを活用せずに「できるだけ多くの応募者と会う」という取り組みを紹介してきたが、誤解してはいけないのは、ロート製薬は、AI活用を否定しているわけではない、ということ。そもそも同社は、積極的に先進技術を活用して、業務効率化やイノベーションを創出する企業として知られている。製造現場では、ヒューマノイドの開発をはじめとするフィジカルAI活用を見据えたプロジェクトがスタートしており、AIと画像解析技術を活用した産業DXの取り組み等が進んでいる。

つまり、「EntryMeet採用」はAI活用を否定した結果ではない。だからこそ、1次選考のオペレーションにおいてはデジタルツールやAIが重要な役割を担う。たとえば、採用管理ツールを徹底的に活用して学生情報を一元管理し、面接の場での気づきや発言を瞬時に閲覧・記録できる仕組みを整備した。さらに、面接の記録から申し送り用の要約を作成する際には生成AIを活用している。「面接から記録まで、その日のうちにやりきる」という方針のもと、対話の場は人が担い、記録・整理はデジタルツールやAIが補助する役割分担を設計しているのだ。

なお、その他、人事総務部の日常業務では、資料作成などアウトプットを伴う場面でも積極的にAIを活用しているという。

さらに、社員が提出する週報等をAIで読み込み、人事異動や組織編成などの人材戦略をサポートする取り組みも検討中とのこと。

「社内に分散する社員一人ひとりの情報をできるだけ見逃さず、次の人事的な判断に生かせる点にAI活用の価値を感じます。多くの情報を効率的に収集できれば、その分、人にしかできないクリエイティブなことや対面でのコミュニケーションに時間を注げるようになります」と藤原氏。

一方で、AIに踏み込ませない領域も明確だ。

「その人が普段どんな顔色で仕事をして、どんなことで楽しそうにしているかは、対話でしか、うかがい知ることはできない。だからこそ、直接コミュニケーションをとる場をなくすつもりはありません。また、採用・異動・評価における最終的な意思決定は、人が担うべき領域だと捉えています。当社では『データは過去のものでしかない』とよく話していますが、AIが出す答えは過去のデータに基づいたものでしかありません。それゆえ、人の可能性や将来に関わる未来の判断は、人にしかできないという考えが前提にありますね」

そして「そもそもAIにすべてを任せることはないと思っています。人事のように人に関わることは、特にそうではないでしょうか」と藤原氏は続ける。

同社では現在も、全社員が長期視点で自身のキャリアを考えるための「ビジョンシート」を提出しており、人事異動を検討する際には、経営幹部が異動対象となる社員のシートを読み込み、現場ヒアリングを重ねている。しかし、グループ会社を含めて組織規模が拡大するなかで、人の力だけで把握できる範囲に限界があるのも事実だ。だからこそ、AIを活用してしっかりと情報の収集・分析を行っていく必要がある。しかし、AIに判断を行わせることはない。あくまで、AIは、人がより多くの情報を把握し、より良い判断を行うための補助ツールという位置づけなのだ(図2)。

AIはあくまで手段―― 目的から逆算してツールを選ぶ

今後の採用活動について、藤原氏は「1カ月の短期決戦という形式にこだわるわけではないが、最初に会うところからスタートする採用のカタチは引き続き行っていきたい。今後は新卒採用だけでなく、キャリア採用にも適用していく考え」だという。今年度初めて実施された取り組みながら、対話を起点にした採用活動が、同社の人材採用の理想としてあるべき形になりうることが示された形だ。

なお、就職活動の早期化についても、学業を圧迫するような就職活動のあり方への問題意識は持ちつつ、「自分のキャリアを考えることに早いも遅いもない。働くことへのワクワクを感じる機会を、学年を問わずつくっていきたい」と前向きに捉える。

人事部門はAIとどう向き合うべきか―― この問いに対し、藤原氏は、「AI活用に際して、効率化よりも先に何を実現したいのか、そのために何をするかを問うべき」だと答える。

「採用活動であれば『最終的に何を目指すのか』という、ありたい姿から逆算し、そのために、どのような採用フローが適しているのかを考えることが大切です。本当に自社にとって本質的で、価値を創造するやり方は何かということを、人事担当者一人ひとりが考えることが求められます。AIを活用して応募者を効率的に絞り込む手法が、必ずしもすべての企業にとっての正解とは限りません。当社のように採用規模が数十人レベルで、価値観のマッチングを重要視する場合には、ただ母集団の数を増やして可能性を広げるのではなく、仲間にしたい人材がどこにいるかを把握し、自分たちから会いに行って魅力付けしたり、そういう方にこそ応募してもらえたりするような設計をつくる方が、結果的に効率的になることもあります。AIを活用して目の前の業務を効率化することが、常に最適解とは限りません。自社の採用にとって何がベストなのかを見極めたうえで、AIに何を求めどう活用するかを考える視点が求められるのではないでしょうか」

ロート製薬の事例が示すのは、「アナログ対デジタル」という単純な二項対立ではない。

「EntryMeet採用」も、学生と真摯に向き合い、お互いに納得感のある採用を実現するという目的から逆算して選ばれた手段にすぎないのである。同社にとってそれは突飛な選択ではなく、必然の帰結だった。

重要なのは、先進技術を活用するかどうかではなく、「何を見極めたいのか」という目的から逆算して手段を選ぶことだ。AIを活用する際にも、その問いから逸れていないか―― そこに「人をきちんと見る」ことが求められる人事の本質的な判断軸がある。

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