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特集 続・ポジティブ管理職を育てる OPINION1 管理者は支援の提供者だけでなく、受給者でもあるはず 管理職を選ばれる役割にするため「役割・支援・魅力」の再構築を 坂爪洋美氏 法政大学 キャリアデザイン学部 教授

坂爪洋美氏

管理職という仕事は、近年、「罰ゲーム」などといわれ、ネガティブなイメージが先行しがちだが、本来は、大きなやりがいと達成感を味わえる役割のはずだ。
管理職本人や将来の管理職候補として期待される若手・中堅社員にその魅力を感じてもらうためには、何が必要なのか。
法政大学キャリアデザイン学部教授の坂爪洋美氏に聞いた。

[取材・文]=崎原 誠 [写真]=坂爪洋美氏提供

無尽蔵に拡大する役割が管理職に重くのしかかる

「管理職の基本的な役割は、自分以外の誰かを使って、任された職場の業績を上げること。それ自体は変わっていません。ただ、それ以外のところが無尽蔵に広がりつつあるのが、今の状況です」

法政大学キャリアデザイン学部教授の坂爪洋美氏は、管理職の役割の変化についてこう説明する。

よく言われているのが、プレイヤー業務の増加だ。今、課長の多くが、プレイングマネジャーとして自身の担当業務を抱えている。

「素晴らしいプレイヤーであることで周りの人が付いてくるなど、管理職としてのパワーにつながる面があるならばプレイヤーを兼ねることにも意味があります。しかし実際は、『他にやれる人がいない』などの理由でプレイヤーの仕事が残っているケースが多いです」

部下育成の変化も見逃せない。

「管理職はもともと、部下が今の仕事を遂行するのに必要な能力を高めるために、OJTを施してきました。ところが、キャリア形成への支援が求められるようになり、職場の今に責任を持ちつつ、部下の未来に向けた支援を担うようになりました。『君は将来どうなりたいの? 』というところから逆算し、その部下にとっての今の仕事の意味を語らなければなりません。やらなければいけないことの時間の幅が大きく広がり、かつ、個別対応が必要になりました」

制度運用者としての責任の広がりも、管理職の負担になっている。

「そもそものスタートは、成果主義です。一人ひとりの業績をきめ細かく管理する必要が生じ、もっとも身近にいる管理職にその役割が任されました。そこから広がり、たとえば男性の育児休業取得の意向確認、働き方改革のための労働時間管理など、『制度がうまくいくかどうかは管理職の運用しだい』という側面が拡大しています。昔は管理職が帰らないので部下が帰れないという話がありましたが、今は、管理職が残って仕事をし、部下が先に帰る逆転現象が起きています。『働く時間を減らさなければならないが、仕事は減っていない。それを吸収するのは、管理職の仕事ですよね。だって皆さん、人事制度の運用者だから』と、制度を機能させるためのバッファー(緩衝材)の役割を担わされています」

部下の評価やフィードバックは、職場で成果を上げるために必要な取り組みといえる。しかし、それ以外はどうか。おそらく多くの企業では、働き方改革や育児・介護休業の取得推進を通じて会社の業績を上げていこうという意識は薄く、企業自体にやらされ感がある状態で、その役割が管理職に降りてきている。管理職が疲弊し、モチベーションが低下するのもうなずける。

坂爪氏は2020年、課長クラス1,061名を対象に大規模な調査を行った(図1)。この結果からは、管理職の本分である管理業務と重要性が高まる部下育成にもっと時間をかけたいが、それができずに苦しむ課長の姿が浮き彫りになった。

管理職の役割を再設計し過剰な業務から解放しよう

この状況から脱却するためのポイントとして、坂爪氏は、以下の3点を挙げる(図2)。

1つめは「役割の再設計」だ。日本企業の課長層は、自分たちの業務の改廃権限がないことも多い。そうすると、「やった方がいいが、やらなくてもよい仕事」はいつまでも残る。権限を降ろすか、上の人が削減しないと、仕事は増える一方だ。

また、権限が限られているとはいえ、自分で減らせる業務もあるはずだ。たとえば、部下のすべてのメールのCCに課長が入っている場合、自分をCCから外し、1つ下の人に任せられないか。任せるべきと思いつつ任せられずにいる業務に、改善の余地があるかもしれない。

部下育成をどこまで管理職に担わせるかも、検討すべき点の1つだ。

「オンライン研修などOff-JTが充実してきたなか、本当に管理職がやらなければならない育成とは何か、もう一歩踏み込んで議論すべきです。キャリアの話もまさにそうで、確かに、部下の将来の希望を知っていた方がマネジメントはしやすいでしょう。でも、将来どうしたいかわからない人と一緒に考えるところまで管理職が担うべきでしょうか。『誰がやるの?』『管理職がやるのがいいんじゃない?』という仕事がそこここにあり、管理職の仕事が増え続けています」

プレイングマネジャーの「プレイング」部分も検討が必要だ。

「プレイヤーとして優秀な人が管理職になるので、『自分がやった方が早い』という理由で手放せない人もいるでしょう。部門ごとに適正比率を考えてもよいと思います」

また、日本の管理職、特に課長クラスは、予算や人に関する権限などの裁量が少ないといわれる。

「私は、課長もメンバーの異動などについてもっと権限を持った方が仕事がやりやすくなると考えています。『そんなことをしたら、ますます仕事が増える』と言う人も多く、なかなか賛同が得られませんが、日本の課長は国際的に見ても裁量がなさすぎます」

部下育成を管理職任せにせず教育や支援を検討すべき

2つめのポイントは、「能力開発と支援」だ。まず、管理職の登用基準自体を再定義する必要がある。

「プレイヤーとして優秀な人がマネジャーとして優秀かは別問題です。管理職をプロフェッショナルな専門職と捉えたときにどんな能力が必要か、見直すとよいでしょう」

また、「管理職なのだから、自分でなんとかできるはず」と丸投げせず、教育や支援を行うことも重要だ。

「多様な部下に個別に対応するには、繰り出す言葉にバリエーションを持っておく必要があります。海外の管理職にインタビューをすると、『Aさんは結論から話すと伝わる。Bさんは雑談から入ると聞く準備が整う。Cさんには選択肢を提示しないと……』と、個別対応が身についています。おそらく、それぐらい相手に伝わっているかを気にする必要があるのでしょう。しかし、日本は、割と部下が言うことを聞いてくれるため、一人ひとりに対応したコミュニケーションをするスキルが身につかないまま、手札がないまま来てしまっている気がします」

部下対応の研修をする会社は多いが、坂爪氏は、もう一歩踏み込んだ教育が必要だという。たとえば、年上の部下への対応や、希望と異なる部署に配属されてやる気がない人にどう言えばよいか具体的に示さないと、できる人はできる、できない人はできないという溝は埋まらない。

また、先ほども触れたキャリア形成支援については、管理職がその役割を担うとしても、社内のキャリア関連情報の整備・発信は会社が行う必要がある。個々の管理職が自身の経験の範囲でアドバイスしていたのでは、納得感がない。加えて、キャリアの相談窓口を社内外に設け、今の仕事の延長でキャリアを築きたい場合は管理職、他部署で活躍したい場合は人事、方向性が見いだせない場合は社外のプロ―― などと窓口を分岐させる体制を取れるとよい。

「どんな部下にも対応できる管理職も3割程度はいると思いますが、できていない人がいるのも事実。『管理職だから自分でなんとかしてください』ではうまくいかない事例が少なからず発生しています。個々の管理職が苦心して体得するだけが方法ではありません」

管理職の魅力を語れる管理職を増やすには

3つめのポイントは、「魅力度の再構築」だ。坂爪氏が管理職に仕事の醍醐味を聞くと、大体、数秒沈黙が続き、その後、「大きいのは部下の成長ですかね。それと、1人でやるより大きな仕事ができ、それに向けて意思決定できることに面白さがあります』などと答えるという。この2点が本人たちの感じる大きな魅力といえるが、坂爪氏は、管理職が即座に答えず、一様にしばらく口ごもるところに自信のなさを感じている。

「課長と部下の双方に調査を行い、『課長はよくやってくれていますか』と尋ねると、課長自身は『やっている』と答え、部下は『やっていない』と答えるのが定番でした。ところが最近は、部下は『やってくれている』と評価しているのに、課長自身は『やっていない』と回答することがあります。本人の目指すところが高すぎるのかもしれませんが、日々の業務に追われて内省の時間が取れず、上司からのフィードバックもなく、できている実感が持てない人も多いのではないでしょうか」

管理職に自信を持たせ、管理職の魅力を語れる管理職になってもらうには、どうすればよいのだろうか。

坂爪氏がある会社で管理職研修を実施した際、1人の課長が、「部下の前でため息をつくのをやめます」と宣言した。1カ月後に話を聞くと、「部下に『ため息をつかなくなりましたね』と言われ、『あ、見てくれているんだと、ちょっとやる気になりました』」と答えたという。

「管理職としてこんなエピソードでいいのかと思うかもしれませんが、『それでいいんですよ』と言える風土があってよいのではないでしょうか。理想の管理職像に引っ張られすぎていることが、自信を持てない要因の1つかもしれません」

また、管理職を1人にせず、サポート役を付けることも有効だ。

「新任管理職に半年ほどメンターを付けて伴走させる企業があります。管理職になった瞬間から、『あなたたちは支援をする側だから、自分でできて当たり前』となりがちですが、管理職は支援の提供者であるだけでなく、受給者でもあるはずです」

管理職の魅力として、もう1つ意識してほしいことがある。それは、「管理職自身のキャリアや成長」という観点だ。

「課長になってから経験を積み、できることも増え、視座も上がり視野も広がるのに、課長の皆さんがどういうキャリアを形成していきたいかがあまり語られません。『課長としてこういうことをやっていきたい』『こういうことができるようになりたい』ということが発信されていくと、捉え方も変わってくるはずです」

国際的に見て低いと言われる報酬や、先ほど触れた裁量の再検討なども含め、管理職の魅力を高めながら可視化していくことが重要だ。

部下の話を聞くだけでなく未来を語れる課長をつくろう

管理職の役割は、今後、どう変化していくべきか。坂爪氏は、「課長クラスを想定した場合、今、部下マネジメントに焦点が当たりがちですが、職場の1~2年先の未来を考え、それを今に戻して語れる力が大事だと思います」と提言する。

「多くの企業の課長研修では、部下の話を聞くことにフォーカスが当たっています。聞くことが大事なのは間違いないですが、それだけでは人は付いてきません。『私たちはここに行こうとしていて、そのために何が必要で、あなたには何をしてほしい』と語る力が圧倒的に足りていない人がいます。今、人を動かすことのコストがすごく高くなっています。『やれ』と言ってやってくれた時代は終わり、『それでは私のやる気のスイッチが入りません』という人もいれば、『私は短時間でしか働けないので無理です』という人もいます。強く言うと、ハラスメントになる恐れもあります。今後、従業員側がよりパワーを持ったとき、部下の話を聞くだけでは、多様な人たちを1つにまとめあげることはできません」

いわゆるカッツモデルに当てはめると、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルのうち、ヒューマンスキルが極端に重視されているのが、今の課長クラスの現状といえる。1対1で対話をしながら部下を動かすことが求められているわけだが、これを続けるだけだと、忙しくなるばかりだ。

「部長クラスになると、『自分がいなくても組織が回るためには、どうしたらよいか』と仕組みで考える発想が増えてきますが、課長クラスでもそれを持てるとよいでしょう」

管理職が未来を語れるようにするためには、会社がミッションやビジョンを明確に示す必要もある。また、それを自部門に言い換えるための研修もあるとよいだろう。部長にはそうした研修をしている会社もあるが、課長クラスにも、部下マネジメントだけでなく組織運営目線を持たせる研修を検討してはどうだろうか。

「視座を上げ、職場の未来を描いたり、自分がいなくても組織が回るための仕組みで考えることは、課長の今のがんじがらめの状態から抜け出すうえで大事だと思います。未来に向けて『こうしていきたい』と自分の意思を入れられたら、管理職という仕事のやらされ感が減りますし、課長自身も仕事が楽しくなるのではないでしょうか」

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