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特集 組織をあたためる 「感謝と称賛」 CASE2 ギークス 「 感謝と称賛」を表す社内アワードの舞台裏 全社員に浸透した「価値基準」が迷いなく仲間を讃える文化をつくる 成末千尋氏 ギークス 取締役/IT人材事業本部長 他

「働き方の新しい『当たり前』をつくる」ギークス。
同社の「感謝と称賛」の土壌となるのが価値基準「10の心得」であり、その象徴が「ギークスアワード」だ。
心理的安全性を高め、個人のパフォーマンスを最大化させる組織風土はいかにしてつくられたのか。その舞台裏に迫る。

[取材・文]=本間 幹 [写真]=ギークス提供

価値基準の明文化が「称賛の土壌」をつくる

社員同士が互いに感謝を伝え、称賛し合う―― 。そんな文化がギークス社内には根付いている。そして、そんな組織風土を支えるのが、同社が大切にする「10の心得」という社員の価値基準だ。

「10の心得」には、「年中無休の好奇心」や「変化を楽しむ」「想いを語る」といった項目が並ぶ。これらは、世の中に感動を創造し続ける企業であるために、社員一人ひとりに求められる要素として明文化されたものである。

同社取締役でIT人材事業本部長を務める成末千尋氏は、組織における称賛の価値と「10の心得」の関係について次のように説明する。

「称賛する文化は、企業活動において大きな価値を持つと考えています。なぜなら、称賛は会社や上司、同僚が『あなたの行動をしっかりと見ているよ』というメッセージを伝える行為だから。これが社員の心理的安全性を担保することにつながるのは、言うまでもありません。そこで重要になるのが、称賛の判断軸を明確にすることです。軸が曖昧なままでは、特定の社員をほめても周囲から『贔屓』と捉えられかねないからです。当社の場合は、『10の心得』という基準に沿って行動した際に、称賛の言葉が贈られます。何に対して『ありがとう』と言い、どのような行動を素晴らしいと認めるのか。その基準を全社員で共有することで、称賛に対する深い納得感が生まれるのです」()。

さらに、成末氏が率いるIT人材事業本部には、独自の行動基準として「Be a Giver(与える者であれ)」という指針が存在する。これは、「他者の成功を喜び、その達成を認めて讃える」ことや「感謝を言葉にして伝える」といった利他的な姿勢を尊重する考えを言葉にしたもの。こうした考えが組織の隅々にまで浸透していることが、日常的な称賛の連鎖を支えるエンジンになっている。

明確な「物差し」を共有することで心理的安全性が担保されれば、メンバーは、迷いなく自身の強みを発揮できる。つまり「10の心得」という共通の価値観が、個性を生かしながら働ける環境を形成しているのだ。

日常の相互理解が「心理的安全性」の根を張る

称賛や感謝に対する基準が浸透していることで、ギークス社内には、日常的にほめ合い、感謝を伝えるシーンが溢れている。それは対面でのコミュニケーションにとどまらない。

「『10の心得』に沿った行動をした社内メンバーには、周囲から社内チャットを通じて、惜しみなくスタンプや称賛のコメントが贈られます」(成末氏)という。

なお、成末氏自身も、メンバーをほめることは習慣化しているが、その際には必ず「10の心得」のいずれに紐付いているかを具体的に説明するように心掛けているとのこと。そうすることで「本人はなぜほめられているのかを深く理解でき、周囲も納得感を持ってその行動をお手本にできる。こうした共通言語を介した称賛の積み重ねが、組織の心理的安全性をより強固なものにする」(成末氏)からだ。

また1on1ミーティングも、称賛と感謝を伝える場になることが少なくない。

同社では、1on1ミーティングは単なる業務報告の場ではなく、対話を通じた相互理解の場と位置づけている。

「1on1ミーティングで業務報告は極力行わないこととしています。業務報告は、週次の全体ミーティングで済ませるべきもので、1on1ミーティングで行うべきことは、メンバーが『なぜその行動を選択したのか』『それがどう成果に結びつくと考えたのか』というプロセスや思考の深掘り。そして、対話で称賛すべきポイントが明らかになれば、その場で讃え、必要であればアドバイスも行う。こうした対話の積み重ねが、メンバーに『自分の考えが認められている』という安心感を与え、組織全体の心理的安全性の担保につながるのです」

同社広報・サスティナビリティ推進部の荒川有希絵氏は、成末氏をはじめ、経営陣の日ごろの何気ないコミュニケーションが社内風土の醸成に大きな影響を及ぼしていると語る。

「成末は、誰と会話する際でも、必ず目を見て頷きながら聞いています。また、髪形が変わったといった些細な変化や、メンバーの顔色の良し悪しにまで気づいて声をかけてくれる。こうした『1人の人間として尊重されている』という実感が、心理的安全性の高いチームをつくっているのは間違いないですね」

最高の晴れ舞台「ギークスアワード」

社内で感謝と称賛が当たり前のように交わされるギークスの文化。その最大級の表現の場として、創業時から欠かさず開催されてきたのが「ギークスアワード」だ。日常的な信頼関係という土台があるからこそ、半期に一度のこのイベントは単なる形式的な式典にはならず、全社員が熱狂する空間となっている。当初は親睦を深める「飲み会」のような色合いが強かったこの催しは、組織の成長フェーズに合わせてその役割を戦略的に進化させてきた。

「組織が大きくなると、何がよしとされ、何が称賛されるべきかという暗黙知の共有が難しくなります。そこで、改めてギークスの文化を統一し、どのような人がほめ讃えられるべきかを全社で共有し、受賞者が仲間に心から祝福される場として、アワードの形式を整えていったのです。ちょうど同じ理由で社内の暗黙知として存在していた考えを『10の心得』として、明文化したのとタイミングは同じでしたね」

半期に一度、ホテルの大会場で全社員が集まり開催される現在の「ギークスアワード」には、社内行事とは思えない特別感がある。レッドカーペットが敷かれた会場に、ドレスアップした社員が集まる光景は、さながら「アカデミー賞」のようだ。

アワードの事務局を務める広報・サスティナビリティ推進部部長の佐々木一成氏は、アワードの演出方針について、こう語る。

「企画において何より大切にしているのは、圧倒的な『特別感』の創出です。『ギークスアワード』のハイライトは、『10の心得』をもっとも体現した社員を讃える『Buddy賞(バディ賞)』の発表ですが、この際に受賞者はもちろん、来場者全員の心をどのように動かすかを突き詰めて、企画・演出をしています。そうすることで受賞を逃したメンバーが『次は絶対にあの舞台に立ってやる』というポジティブな悔しさを抱く。そのエネルギーこそが、組織をさらなる高みへ押し上げる原動力になると信じています」

全社員参加の選考プロセスが受賞者に箔をつける

「Buddy賞」の選考プロセスの透明性は極めて高い。受賞者は全社員による投票によって選ばれるからだ。

「投票に合わせて寄せられる投票コメントがとにかく熱いんです。皆、ものすごい長文で、『この場面の、この行動が『10の心得』の内の○○を体現していた』というエピソードを詳細に綴ってくれる。事務局である私たちは、その熱量も含めた社員の思いを可能な限り汲み取っていきます。そして最終的には、受賞の妥当性を経営陣に判断してもらう。その際、特定の部門から無理に選ぶような忖度は一切なし。たとえ2年間受賞者が出ない部門があっても、基準に達していなければ出さないという厳格さを守っています」(佐々木氏)

「Buddy賞」には、制度上の明確な基準がいくつか設けられている。

受賞者の対象は、基本的にリーダー以下のメンバーに限定されており、部長や役員といったマネジメント層は選考から除外される。さらに2025年度からは、入社3年未満と3年以上で枠を分けて投票を行う仕組みを導入。社歴の長短にかかわらず、それぞれのフェーズで高い称賛に値する行動をとった者が正当に注目されるための工夫である。

また、受賞枠を全従業員数の5%程度という「狭き門」に絞り込み、受賞者の名を当日まで徹底して秘匿することも、アワードの熱量を高める要因となっている。発表の瞬間に会場が包まれる興奮は凄まじく、喜びを爆発させる受賞者の傍らで、選に漏れた悔しさに涙を流す社員の姿も珍しくない。

成末氏は、称賛に「濃淡」をつけることの重要性と、それがもたらすキャリアへの影響について次のように説明する。

「日常的な称賛は全メンバーに対して等しく行いますが、際立った成果と行動を体現した者には、より特別な形の栄誉が与えられるべきだと考えています。それが『Buddy賞』の役割です。この賞を勝ち取ったメンバーは確固たる自信を深め、その誇りを糧に次世代のリーダーへと羽ばたいていく。つまりアワードは、本人の『自信』を確固たるものにし、組織全体に『目指すべき模範』を示す役割も果たしているのです」

実際に、かつての受賞者である佐々木氏と荒川氏の両名も「Buddy賞」受賞が仕事に向き合う「意識」や「基準」を大きく変える転換点になったと振り返る。

「受賞した瞬間の自分を、これからの仕事の最低基準にしなければならない。そんなポジティブな責任感が生まれたことを今でも鮮明に覚えています」とは佐々木氏の弁。また、荒川氏は「受賞を機に部署の枠組みを越えて顔と名前を覚えてもらえ、会社に認められたという確かな自信がつきました」と、公式な場での称賛が個人のモチベーション向上に直結したことを明かす。

受賞者の変化を間近で見守ってきた成末氏は、その効果を次のように分析する。

「受賞者は皆、自信に満ちた顔つきへ変わっていきます。また興味深いのは、受賞者を輩出できなかった部門のリーダーの反応です。『メンバーに取らせてあげられず申し訳ない。次は受賞させてあげられるように頑張ります』と、私に決意を述べる者もいる。評価されなかったという事実をそのままにせず、自らのマネジメントや行動を省み、改善へと向かう。こうした意識が組織全体に醸成されていくことは、個の成長を超え、組織力強化に大きく寄与していると確信しています」

なお、上期と下期に数名ずつ選出される「Buddy賞」のなかから、年に一度わずか1人のみが「Best of Buddy賞」に選出される。目指すべき「頂点」を明確に提示し、ロールモデルを可視化するこの仕組みも、メンバーの挑戦意欲を引き上げるための工夫の1つだ。

受賞者へのギフトとして「称賛」を社外へ広げる

同社では「ギークスアワード」の様子や「Buddy賞」受賞者のインタビューを自社サイトやブログで積極的に発信し続けている。

これらの取り組みは「会社からメンバーへのギフトだと捉えている」と佐々木氏は強調する。

「自分の仕事ぶりがインタビュー記事として形に残る機会はそうありません。そんななかで『Buddy賞』の受賞者インタビューは、ご家族やパートナーの方に『私はこの会社で素敵な仲間に認められるほど頑張っているよ』と胸を張って見せられるような、誇らしい内容にすることを心掛けて制作しています」

また採用候補者が、インタビュー記事を目にして「社員のことをきちんと評価してくれる会社だ」と思い、入社を決めるといった波及効果も。

「最近では『Buddy賞』を受賞して、インタビュー記事が掲載されることを目標に掲げる若手社員も増えており、社内外への発信がモチベーションアップに還元されるサイクルができています」と荒川氏も胸をはる。

ギークスの取り組みが示唆するのは、社員が互いに感謝を伝え、称賛し合う社内風土は、経営陣から現場までが本気で体現し続けることで生まれるということ。成末氏は、同様の取り組みを標榜する企業に向けて次のようなアドバイスを送る。

「結局、組織はトップがどう動くかにかかっています。現場がどんなに頑張っても、トップが『感謝なんてわざわざ言葉にする必要はない』というスタンスであれば、文化は根付きません。経営陣が率先してメンバーの些細な変化や行動に気づき、言葉にして讃え続ける。その背中を見せることが、称賛の文化を育む唯一の道なのだと実感しています」

「感謝と称賛」は組織をあたためる文化となる

ギークスの事例が教えてくれるのは、「感謝と称賛」とは会社に深く根付いた「文化」そのものであることだ。全社員が熱狂するアワードも、その文化が結実した1つの象徴的な機能にすぎない。この熱量を生み出している真の要因は、「どのような行動が称賛に値するのか」という価値基準が、社員一人ひとりの内面にまで浸透していることにある。日常的な信頼と納得感の積み重ねがあるからこそ、ハレの舞台がこれほどまでに輝くのだ。

「感謝や称賛なんて照れくさい」。もし組織にそんな空気が漂っているなら、まずは「何を讃えるべきか」という基準を言葉にすることから始めてみてはどうだろうか。文化をつくるのは、特別なイベントではなく、日々の等身大の「ありがとう」の連鎖なのだから。

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