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J.H.倶楽部会員セミナー

『チームワーキング』~ニッポンのチームをアップデートせよ 2021/3/10 特別レポート

中原淳氏(立教大学経営学部教授)と田中聡氏(立教大学経営学部助教)による共著『チームワーキング―ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』の刊行を記念して、JH倶楽部会員限定セミナー「チームワーキング:ニッポンのチームをアップデートせよ」が、3月10日に開催されました。
人材育成専門誌『Learning Design』での、中原氏の人気連載「GoodTeamのつくり方」で蓄積された様々なアイデアをベースに、田中氏が「データアナリティクスラボ」で行った研究成果を掲載した本書は、VUCA時代におけるチームワーキングの要諦が詰まった貴重な内容となっています。
当日は中原氏と田中氏により、本書の一部を圧縮して紹介した濃密な講義が行われました。ここでは、本講演の一部をレポートと動画で紹介します。

ダイジェストレポート(↓ どちらかをクリックしてください ↓)

セミナー映像

目次

項目ごとに「動画」もしくは「記事」(セミナーレポート)がご覧いただけます。

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セミナー当日のレジュメをダウンロード頂けます。

第1部 すべての人々にチームを動かすスキルを! 立教大学 経営学部 教授
中原 淳氏

第2部 ケースとデータで学ぶTeam Working 立教大学 経営学部 助教
田中 聡氏

※第1部・2部共通

書籍『チームワーキング』の出版にあたって

中原:

この『チームワーキング』という書籍では、様々な主張を展開しています。リーダーだけではなく、すべてのチームを動かすスキルを、「すべての人々」が持つべきであるということ。そしてチームで動くための「OS(チームを見つめる見方)」ととともに、「すべての人々にチームを動かす「3つのアプリ(チームでの行動)」が必要であるということを書いています。
さらに、データに基づきながら、「こういうものが大事なんだ」と解説し、データだけではなかなか学びにくいところもあるため、「ビジネスケース」も設けています。

(1)「すべての人々にチームを動かすスキルを!」

●VUCA時代の3つの病:

①うちの会社って何の会社だったっけ症候群

ビジネスケースを使ったブレイクアウトセッションに入っていく前に、本書の執筆に至ったきっかけについてお話をしておきましょう。皆さんは、「なんか最近の組織って、うまく動かないなぁ」とか、「なんか、ギスギスしてるなぁ」みたいな実感はありませんか?

最近「VUCA」とよく言われますが、Volatility(変わりまくり)、Uncertainty(やたら動いている)、Complexity(鬼複雑)、Ambiguity(劇的あいまい)の頭文字です。要は、社会全体がいろいろなかたちで動いていて、そのスピードや複雑性が増しているということだと思うのです。コロナ禍こそ、まさしくVUCAの典型ですね。

変化が激しいということは、組織や企業やビジネス、それぞれ全体が変化し、揺さぶられます。そうなると、なかなか自分の仕事や職場が何を目指しているのか、見通しが効かなくなってきます。そのなかで、『①うちの会社って何の会社だったっけ症候群』が発病しやすくなります。

「会社変わりまくり」、「ビジネス変わりまくり」の状態では、自分の会社が何をやっていて、何を目指していたのか、だんだんと分からなくなってくるので、職場でも何をやっていいかが分からなくなってくるわけですね。

パナソニック代表取締役の樋口泰行さんは、いまは、「自分たちが『何屋』になり何をするのかを定義しなければならない時代≒目標、めざすものが何かを自ら定義する時代」で、そういうときには「組織やチームは揺れる、揺れ続ける」とおっしゃっています。
 「パナソニックが置かれた環境は、次に開発するものが決まっている時代が長かった。テレビが、ブラウン管やプラズマ、液晶といった技術変化と、モノクロからカラー、フル HD 、 4K といった放送方式にあわせて進化してきたのがその最たる例だ。また、多くの製品がスタンドアロンの箱として存在していた。そのため、工場や実験室にこもっていても開発できた。
 しかし、いまではそれが通用せず、さらに、さまざまなディスラプターが存在している。
事業部を基点とした戦い方では勝てなくなってきている。視野を広く、景色を広くみないと勝てない」

つまり、カオスに陥らず、いかに「何=めざすもの=目標」を決めて、それぞれの現場で、ひとを巻き込んでいくかということですね。
 「目標が見えない」という問題があるなかで、「目標をしっかり握る」ということがとても重要になります。逆にいえば、それらがシビアになっている状況なので、すべての人が、もう一度、チームを動かす技術を身につけなければなりません。
 その技術を学ぶのが、本書のテーマのひとつです。

②となりに座っているひとって何やってるひとだっけ病

変化の激しい時代では、人の出入りも激しくなります。皆さんの会社はどうですか? 「②となりに座っているひとって何やってるひとだっけ病」を発病してはいませんか?
 これは、チームのメンバーが「自分の仕事はここまで、あなたの仕事はここ、あとは干渉しない」といった「個業化」が起こることによって、コミュニケーションがとれない問題を指します。
 これも、実際にある方から聞いた言葉です。

「気づいたら、今日1日誰とも会話しなかったっていう日もあるんです。すべてのコミュニケーションは社内チャットですみますし、言った言わないの水掛け論にならないので、文字で残したい。チームであって、チームじゃない。あまりよく知らないひとが、ただ自分の隣にいるだけです……」

リモートワークだったらあり得る話です。1日誰とも会話をしないというのは、多くの方が経験していると思います。

「自分の業務範囲を決めてしまう」うえに、「情報を共有しない」ことで、人々はなかなかコミュニケーションをはかれず、「隣の人が何をしているか分からない状態」になります。チームにとっては「これで成果を!」と言われても、出るはずがありません。

・“上腕二頭筋トレーニング”(飲み会)の限界

昔だったら、いわゆる「上腕二頭筋トレーニング」、つまり「飲み会」ができたわけです。

経営学者である野中郁次郎先生の、1970年代「課長層のコミュニケーション特性」に関する研究によると、「低業績課長」と「高業績課長」を比較したときに、一番の差があるのは、方向性(オフ・ザ・ジョブ)の項目でした。(高業績課長は)部下と「仕事以外」でのコミュニケーションが多いということです。ここから「=飲み会」と導き出すのはやや暴論のような気がしますが、(たとえ効果があるとしても)現在のコロナ禍において、飲み会のようなコミュニケーションを仕事外で持つということは、なかなか難しいわけです。

また、こうした“ノミュニケーション”とは「日本人男性正社員=長時間労働をいとわない人にだけ奏功するコミュニケーション」でもあります。たとえば、育児や介護をしている人たちはどうなるのか? 時短や派遣の人はどうなるのか? 組織が多様化しさまざまな雇用形態の方がいる現代において、上腕二頭筋トレーニング的なコミュニケーション施策には頼れません。

組織では「コミュニケーション施策」や「情報のやりとり」をかなり意図的に仕掛けていかなくてはならない状況にあるのです。

・必要なのは、「仮説」ではなく「地に足のついたデータ」

また、少し前だと、コミュニケーションの現状に対しては、「関係の質」という言葉が導入されました。「関係の質を高めれば、思考の質が高まり、行動の質が高まるから、よって結果の質につながる」という、アメリカから輸入された概念です。

しかし実は「関係の質」という概念は仮説であり、実証されていません。組織行動論の教科書などによく書かれている「タックマンモデル」なども同様です。

輸入された仮説をいくら覚えても、実際にはあまり使えないと私は思います。私たちにもっとも必要な行動は何か? それを、地に足をつけたデータから導き出す必要があり、それによって原理原則を身につけていくこと。これが本書『チームワーキング』の挑戦でもあります。

③モチベ低い病

アメリカのギャラップ社の調査によれば、日本は、熱意あふれる社員割合が6%と、139カ国中では最低レベル(132位)です。日本は、働くことに意義やモチベーション、動機などが持ちづらい状況にあることがうかがえます。

2019年の厚生労働省の調査(「令和元年版 労働経済の分析」)によれば、エンゲージメントが高まるほど、個人や企業の労働生産性も上がっていることがわかっています。つまり、働きがいを高めていかなければいけないということです。このようなエンゲージメントや働きがいは、どのようにしたら高まるのでしょうか。一番簡単に思いつくのは、「給料を上げる」ことです。しかし、その効果はおそらく一瞬です。上げ続けることはできないうえ、給料が上がってエンゲージメントが高まる人は、金になびきやすいので、待遇の良い会社があれば、すぐに転職するでしょう。だから、給料を上げるのは、結構難しいのです。

・エンゲージメント向上のためには何が必要か?

では、給料を上げる以外に、エンゲージメントを高める方法はないのでしょうか?
『成長企業が失速するとき、社員に“何”が起きているのか?』※という書籍に、そのヒントはありました。

エンゲージメント向上のために必要なことは、①チームの一員だと感じること、②リーダーが従業員をにかけていること、③リーダーが変化の先頭に立つこと、④チーム内で情報を知らされていることにより、「可能性があると感じられること」「明確な焦点と期待が示されること」となり、こうしたことから高いエンゲージメントが醸成されると言及しています。

エンゲージメントや働きがいを上げる、つまり「モチベ低い病」を見直すために必要なのは、自分の「半径 3 メートルの職場・チーム」の見直しです。

※スティーブ・バッコルツ,トム・ロス,ウィルソン・ラーニング ワールドワイド著
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/20/P88870/

●いかに「求心力」を持たせるか?

このように、目標が不透明、関係は希薄で、気枯れる日本の職場では、ブンブンと「遠心力」が増していて、人の心がどんどん離れかけています。それに対して、リーダーやメンバーは「求心力」を保たなければいけません。誰もが3秒で思いつく方法は、「管理職・リーダー」によるリーダーシップの発揮(ひとりに頼る)」です。リーダーや管理職が頑張ればいいということですね。ただ、それに加え、「チームメンバー全員が、チームワークのコツをつかむ」ことも必要となります。つまり、「すべてのひとびと」がチームの技術をもつべきだということです。

輸入された理論ではなく、地に足をつけてデータをとり、私たちにもっともフィットする「チームを動かす方法」を考えようと思ったときに、私の職場である「立教大学経営学部」が浮かびました。
ここでは、チームでの課題解決を常に行い、私たちは年間で100チームを教えています。このデータを用いて、私たちにもっともフィットした原理原則を明らかにしようという取り組みが土台となったのが、書籍『チームワーキング』です。

データを見ていくなかで、高業績を出すチームと低業績を出すチームに明確な差があるということがわかったので、ご紹介していきたいと思います。

(2)3つの見方と3つの行動のインストールを

まず大事なのは「OS」

まず大事なのが図の下の部分の「OS」です。チームに対する考え方、チームに対する見方――「チーム視点」「全員リーダー視点」「動的視点」、これらをもっているかいないかで、チームでの成果は大きく変わります。そのため、これからのすべてのひとは、チームに対する考え方、チームに対する見方をインストールしなければいけません。

OSがあったうえで、もうひとつ大事なのが「アプリ」、つまり、具体的行動です。「Goal Holding」「Task Working」「Feedbacking」、この3つの行動が大事だということがわかってきました。これも、「高業績チーム」と「低業績チーム」を分けてしまう典型的な行動です。
以上、3つの見方・3つの行動をぜひインストールしましょう。

1.チームで動くための「OS(チームを見つめる見方)」

●視点としての「OS」

具体的行動に行く前に大事なものがOSです。なぜなら、行動する前にやり方を教え、武器を渡しても、最初の「根本の思想」が腐ってしまっていては、成果はなかなか出てこないからです。
 書籍では数十ページ分を割いているポイントを、今から簡単にご説明します。

①チーム視点:「私の仕事だけやればいいんでしょう」というのは、「私視点」(目線が下がっている状態)です。そうではなく、私の仕事をしながら、チームの全体像を常に俯瞰する目をもたなければいけません。チーム視点をもたなければ、おそらく成果は出ないでしょう。チームというのは全体を意識することなのだと、チーム全員が思えていますでしょうか。

②全員リーダー視点:メンバーには、得意・不得意があります。また、強み・弱みもあります。「チームメンバーが、リーダーに従えばいいんでしょう?」という病気にかかっていれば、これもまた成果は出ません。
 チームというのは、「お互い様」で「フォローされあいっこ」です。ある時にはリーダーに頼り、課題が変われば、その分野が得意なメンバーが率いていく。前に出る、後ろに下がることを交互にやっていくのが「全員リーダー視点」です。「請われたならば、ひとさし舞う」、というマインドを持てるかどうかです。

③動的視点:常にチームの状態は“動いている”という考え方です。チームのコンディションは、常に動いている生き物のように変わっていきます。一方、チームには階段のようにステージがあるのだと考えてしまうと止まってしまいます。

●チームを「〜ing形」でとらえる

チームを全体として見ながら、ある時はリーダー、ある時は全員リーダーになって、全員フォローし合えるかどうか。そして、生き物のように、動的に見られているかどうか。チームとは「常にダイナミックに動いているものだ」という、マインドをインストールしていかなければなりません。これが「チームワーキング(Team+Working)」という概念であり、OSなのです。

2.チームを動かす「3つのアプリ(チームでの行動)」

次に重要なのはアプリ(具体的行動)

OSがインストールされた後は、「アプリ」、つまり「具体的な行動」が重要です。3つの「具体的行動」とはどのようなものかを下記に挙げます。

①Goal Holding(目標を握り続けること)
 目標は常に、「セット」するのではなく、「ホールド」しなければならないものです。ホールドするとは、ボールを握り続けることであり、チームの成果を分ける大きなポイントとなります。
 期初に目標設定した後に「放置」や「安心」していては、成果は出てきません。

②Task Working(解くべき課題を探し続けること)
解くべき課題としてのマイルストーンを設定し、動いてみて、見直して、「この方向で行けるね」となります。そしてまた、解くべき課題を再設定して、やってみて、振り返って、また解くべき課題を再々設定して決める。このように、少しずつ、何をやらなければいけないのかを考え続けて、解くべき課題を探し続けることが極めて重要です。
 反対に、課題を解いていく途中で「何か違う」と思っていても、誰も何も言わないことによって、さらに別の方向に動いてしまうようなことはないですか?
 「解くべき課題は何なのか?」、これは常に考え続けなければいけない。これが「Task Working」です。

③Feedbacking(言いたいことを言い合えること)
 期初や中間のセッションで、「ここで言いたいことは言いましょう」みたいなことは皆さんやっているかもしれませんが、重要なのは、「言いたいことを言い合い続けること」ができるかということです。「フィードバックしようね」と、ピンポイントで言うのではなく、常に、今ある状況が良いのか悪いのか、チームやメンバーに対してフィードバックできるか。OS同様、①~③についてはアプリでも常に、「ing形」が求められます。

このように、「すべてのひとにOSとアプリのインストールを!」というのが私たちの主張であり、『チームワーキング』では、具体的行動や見方をすべてのひとに持っていただくために、エビデンスケースと数値を用いて解説をしています。

田中:

立教大学経営学部にある「データアナリティクスラボ」は、チームやリーダーシップに関する研究を行う組織です。本日は、我々が日々の研究で扱うデータをもとにしながら話を進めさせていただきます。


※編集部註:当日はここで書籍『チームワーキング』のGoal Holdingケーススタディー1つを使ったブレイクアウトセッションを実施。その後、田中氏による解説がありました。詳細は、上部の「セミナー映像」をご覧ください。

(1)データから見えてきた「Goal Holding」の3つの要諦

先ほどディスカッションしていただいたGoal Holdingのケース、町村チームほど極端ではないかもしれませんが、「つまずくチーム」に見られる共通項は、どのチームにも起こり得るものです。それが何かということを、データから示していきたいと思います。

最初に結論めいた部分を申し上げると、「成果が出るチーム」と「コケてしまうチーム」には、「Goal Holding」に関する違いがあります。端的にいえば、“いい目標を設定する”だけでは不十分であり、“目標を握り続けているかどうか“が重要ということです。もう少しブレイクダウンすると、3つのポイントに分かれます。

●Goal Holding その1:「全員が目標にコミットし続ける」

1つめは「全員が目標にコミットし続ける」ということです。「データアナリティクスラボ」では、60チームのうち、特にハイパフォーマンスな成果の高いチームと、そうではないチームに分けて分析を行いました。図は、特徴にどのような違いあるかを見た結果です。

最後まで目標にコミットし続けられない

左側が「高成果チーム群」、右側が「低成果チーム群」です。棒グラフのグレー(左)は「チームでの課題解決を行う初期段階」と、ブルー(右)が「チームでの課題解決を行う最終段階」。両者とも、初期段階では全員が目標にコミットし続けており、割合にそれほど差はありません。
 これが、時間が経つにつれて、後者(「コケてしまうチーム」)は、目標にコミットし続けられなくなるメンバーが出てきます。

理由は何か? ポイントは「全員が達成したいグループ目標の設定」ができているかどうか。そして、その鍵となるのが、「メンバー全員が共通の情報を持っているか」にあります。

目標コミットの鍵は「オープンな情報共有」

「オープンな情報共有」(左上)は、全員がコミットしたい、達成したいグループ目標の設定に対して、正(プラス)の優位な影響を与えています。競合やマーケットの情報、チームメンバーの情報など、メンバーが共有している情報が、常に同じである状態を保つためには、情報を発信するときに、リーダーだけに情報発信するのではなく、チーム全員に対して情報発信をすることが重要となります。これがグループ目標の設定の第一歩となります。

反対に、ネガティブな影響を与えてしまっているのは、「やる気なしメンバーの存在」(右)です。
では、やる気のなさを生み出す原因は何か? 分析してわかったことは、「やる気のなさ」とは、本人の「意思」や「意識」から生み出されているというよりも、チームを運営する「仕組み」が生み出していると考えた方がよいということです。

やる気のなさは「仕組み」が生み出す!

キーワードは「業務の属人化」(左上)と「チーム視点」(左下)です。役割分担をする場合も、業務と業務の間にきちんと「のりしろ」をつくって、お互いが関わり合える状況をいかにつくるか(仕組みなど)が大切です。

以上がGoal Holdingを果たすポイントの1つですが、では、「全員がコミットし続けられる目標をいかに設定するかが重要!」というだけで終わっていいのでしょうか。

どうやら、問題はそう簡単ではありません。メンバーだけではなく、管理職も目標設定には悩んでいます。パーソルキャリアによる調査※でも、それは明らかです。約8割の人が、目標設定をしても機能しないことに悩みを抱えています(2019年,1,200名のビジネスパーソン対象「目標」に関する調査)。

では、一度は立てた目標が、なぜ機能しなくなるのか? それには以下の理由が考えられるでしょう。

「期初」に目標を立てるが、忙しさにかまけて「期中」に放置・忘却し、振り返りの面談などで「期末」慌てて確認している、ということはありませんか?
 何が怖いかといえば、このサイクルを繰り返すなかで、次第に、「目標設定には意味がない」という誤ったバイアスが形成され、目標設定が儀礼化してしまうことです。

目標設定で陥りがちな「負のサイクル」

目標は設定したその瞬間から「忘れ去られていく運命」にあります。以前にTwitterを使った調査によると、期初に設定した目標を常に心にとめている社員はわずか14%。ほとんどの社員は面談直前に振り返って思い出していることが浮き彫りとなりました。目標設定後のマネジメント、「目標設定後の放置」に問題がなかったかを改めて見返す必要があるということです。

●Goal Holding その2:
「状況に応じて目標に立ち返る」

この「状況に応じて目標に立ち返る」ことは、極めて大事です。

「高成果チーム」と「低成果チーム」では、後者も初期段階に比べれば目標に立ち返るようにしていますが、パフォーマンスを上げるチームと比較すれば10ポイント程度の差があることが示されています。

目標は立ち返ってナンボ

では、状況に応じて目標に立ち返られるような、理想的なチームとなるにはどうすればよいのでしょうか? ポイントは2つあります。

まずは、「エースメンバーへの依存」を避けること。リーダーに投げておけば、後はすべてを巻き取ってくれる、または目標を見直してくれているというチームの「安心感」が、結局はメンバー全員がチーム目標に立ち返らなくなる行動を生むことになります。

エース依存を避け、全員リーダーで目標回帰せよ

もうひとつは、「チーム視点」です。メンバー全員が、チームが現在どういう状態にあるのかということを、繰り返し確認をすることが大事となります。

「チーム視点」とは、常に「目標」の視点に立って、チームを眺める癖を全員がつけるということです。
 その上で、自分たちは「何を目指しているのか?(We)」、そのなかで「自分は何をしているのか?(I)」、自分以外の「他者は何をしているのか?(You)」。この関係性や問いを常に共有しながら、チームのコミュニケーションを進めていく必要があります。

チームの全体像を捉える「視点」と「問い」

●Goal Holdingその3:
(必要に応じて)目標の見直し・再設定をする

それぞれのチームが置かれている状況は変わってきていると思います。そうしたときに、期初に立てた半年前や1年前の目標が、その先も妥当であり続ける、「追いかけ続けるべき目標」になっているでしょうか?

チーム目標の見直しや再設定は、「言うは易く行うは難し」で難しく、ストレスもかかります。せっかくチームで一度は合わせたチームの目標を、期中に見直し、変えていくことは、人によっては「いままでやってきたことはどうなるのか?」とか、「いままでやってきたことをやり直すのか?」といった反発や批判が生まれる場合があります。そういうときでも、チームの目標がずれているかもしれないから「見直しませんか?」と、一言発することができるかどうかが重要です。そうした、「心理的安全」が確保されたチームや職場をつくっていくために必要なキーワードは2つの「オープンさ」です。

①「オープンな情報共有」:皆が同じ情報を共有するために、チーム全員を宛先として情報を発信する

②「オープンな人間関係」:直接は仕事やタスクに関わらない話。お互いの心配ごとや悩み事も含めて、お互いにオープンな人間関係を形成できているか?

これらが、皆にとって面倒くさいと思われる一言であっても、チームにとっては大事だと思うから、「チーム目標を見直そう」と、一言いえるかどうかを決める、重要な要因になっています。

目標の見直しを促す鍵は「オープンさ」

3つのチームホールディングの話をまとめると、「全員が達成したいチーム目標の設定」をし、途中で「チーム目標の立ち返り」をして、目標が現実に合わない場合は、「チーム目標の見直し・再設定」を行うこと。そのためにチーム視点を持ち、オープンに関わることが重要となります。

チーム視点を持ち、オープンに関わることが重要

(2)データから見えてきたTask Workingのポイント

Task Workingの出発点は「解くべき課題」の設定です。何か課題解決をするときに、「解決策の質」を高めることに集中しがちですが、それ以上に、「解くべき課題」の設定と見極めが重要となります。

Task workingの出発点は「解くべき課題」の設定

また、「解くべき課題の質」は「アウトプットの質」と正の関係にあることもわかっています。

「解くべき課題の質」は成果に直結する

Task Workingの理想的なプロセスは次の図のとおりです。

タスクワーキングの理想的なプロセス

でも実際はどうでしょうか。Task Workingを阻む3つのチームの特徴として、①No Action(アクションを取らないチーム)、②No Challenge(チャレンジをしないチーム)、③No reflection(振り返らないチーム)が挙げられます。

でも実際は・・・?Task workingを阻む3つのチーム

①と②の共通する問題は、「社会的手抜き」問題、いわゆる“フリーライダー”です。「社会的手抜き」問題を防ぐポイントは2つ。①「全員アクション」、②「チームリフレクション」で阻止することです。

社会的手抜きを生み出す要因は?

ここで特筆すべきは「不完全な状態でのアウトプット共有に対する抵抗」です。タスクの途中経過を他のメンバーに共有するのを恥じらうメンバーの存在は、結果的に、「社会的手抜き」行動を生んでしまいます。また、「仲良し関係の重視」も、行き過ぎればメンバー間の関係性を下げてしまいます。

まとめると「Task Workingの原理」とは、動きながら課題を探し続けることです。具体的には、①「解くべき課題」を見極める、②全員アクションとチームリフレクションで「解くべき課題」の精度をバージョンアップ、③社会的手抜きを放置しない。この3点です。

(3)データから見えてきたFeedbacking のポイント

成果を生むのは「心理的安全なチーム」であると、私たちの研究でも証明されました。最近よく聞かれる「心理的安全性」とは、チーム全体の成果に向けた、率直な意見・違和感の指摘をいつでも、誰もが、気兼ねなく行えるような状態のことです。

成果を生むのは「心理的安全なチーム」

一方で、チームの仲の良さを重視することはアウトプットの質に影響しません。また、「こけるチーム」は、徐々にフィードバックをしなくなることがわかっています。

こけるチームは徐々にフィードバックしなくなる

相互フィードバックを阻む5つの心理的なカベとしては、①「フィードバックできない」、②「フィードバックしにくい」、③「フィードバックしても意味がない」、④「フィードバックしても間に合わない」、⓹「フィードバックするのが面倒くさい」が挙げられます。

さらに、良い人間関係を保つことが、意外にもチームが「コケる」ことに繋がる場合があります。これが、「仲良し信奉の罠」です。

こけるチームがハマる「仲良し信奉の罠」

仲良くすることを目的とすると、チームとして解くべき課題があったときに、摩擦を避けて個業化が進みます。そうなると、お互いがやっている仕事が見えなくなります。その結果、チームを同じ視点で眺めるチーム視点が失われます。だから結局自分のタスクを管理することに集中してしまい、コケる――というサイクルになることがわかっています。

目標達成に向けた到達過程の副産物が「仲の良さ」なのであって、最初から目的化すると、このような事態を招きます。

目標達成に向けた到達過程の副産物が「仲の良さ」なのであって、最初から目的化すると、このような事態を招きます。

まとめです。「Feedbackingの原理」とは、相互にフィードバックし続けることです。具体的には、①「仲良し=良好な関係性」を目的化しない、②個人のタスクをブラックボックス化しない、③チーム視点でお互いにフィードバックし合う。この3点です。

中原:

本日は『チームワーキング』の一部をご紹介しましたが、大切なことは、「チームを動かすのは『リーダー』だけではない」、「すべての人々にチームを動かすスキルを!」という点です。
 これからは、一体型の「餅型組織」ではなく、それぞれの粒が残って繋がっていても、信頼関係のもとで動く「おにぎり型組織」が求められます。ただし、まだまだ「OS(チームを見つめる見方)」がインストールされていないのが現状だと思われます。田中先生は現状をどう見ていますか?

まとめ 田中:

何となくズレている気がしていても、その原因に気づけない状態に、多くのニッポンのチームがあると思います。それを探る意味でも、本書が1つの素材になればいいのではないでしょうか。お互いに話し合う際に、管理職やメンバーだけではなくて、すべての人、たとえば、会社の新入社員の育成のところから、基本的な社会的スキルとして身につけてもらえると変わっていくと思います。

中原:

その通りですね。「Goal Holding」「Task Working」「Feedbacking」という呼び方がよいかはわかりませんが、こうした共通言語を持つことは大きな強みだと思います。皆さんのの職場やチームで「Team+Working」している状態をつくろうということですね。

冒頭で、コロナ禍はVUCAの極みと申し上げました。先行きの見えないなかで、この1~2年何が起こったかといえば、パーソル総研のデータによれば、「組織の一体感の低下」(36.4%)や「組織に貢献したい意欲・気持ちの低下」(25.6%)、「組織の帰属意識の低下」(24.8%)、「生活の満足度は高まるも……」(19.2%)とあり、他でもおおむね同様の傾向が見られています。つまり、コロナ禍で組織が揺れているのです。

テレワーク実施直後の変化

また、オフイスの解約も首都圏を中心に増えています。そういう意味でも、同じ人たちが、同じ時間に、同じ場所を共有するといった、「日本型」「昭和型」の働き方も変わってくるのではないでしょうか。リモートになるほど、遠心力が働くので、求心力となるものをインストールする必要があります。

ぜひ、皆さんで本書をお読みいただいて、議論していただければと思います。
 チームを動かす技術は、学校では教えてくれません。引き続き、我々大学からも、教育を通じて優位な人材を社会に輩出していきますので、企業の皆さんでも実践していただければと思います。

田中:

学校では教えてくれないが故に、それぞれが自分のチームワークでの経験を基にした議論をしますが、実は、これが一番やっかいなのです。何故なら、それぞれがもっている経験が違うからです。だからこそ、「チームワークって、なんだっけ?」ということを、同じ共通言語を使って、認識をすり合わせることが必要です。その過程においては、ストレスがかかると思います。リーダーによっては、自分の目標設定の仕方がよくないと思う人もいるかもしれません。そうした、痛みやストレスを伴うかもしれませんが、このあたりで一度、話し合う時間をつくる必要があると思います。

中原:

面白いですね。たしかに、自分の職場で「チームワーク、どう?」なんて聞いたら、お互いの経験をしゃべり始めて、収拾がつかなくなることがあるかもしれません。

その点、書籍やケースの良いところは、現実から一度離れることができることにあります。書籍を通じた議論をして、最後は自分の職場に戻していくことができれば、良いOSとアプリの「再インストールの機会」になると思います。ぜひ、「昭和型」のチームワークのアップデートを、皆さんでやっていただきたいと思います。

本日は短い時間でしたが、また書籍の中でお会いできるのを楽しみにしております。ありがとうございました。