J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年05月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 国際創薬企業の基盤は 自ら学び考える、強い個の育成

田辺三菱製薬は、2011年から2015 年までの5年間、国内で6つの新薬を上市した。
海外でも、画期的な糖尿病治療薬、多発性硬化症治療薬の2つの大型製品を上市している。
新薬開発の成功率は、化合物3万個に1個と極めて低い。
にも関わらず、相次いで新製品を世に出す創薬力を支えているのは、治療法のない病に苦しむ人を、1人でも多く救いたいという強い思いだ。
使命感に燃える人材の育成法について、土屋会長に聞いた。


土屋 裕弘(Michihiro Tsuchiya)氏
田辺三菱製薬 取締役会長

生年月日 1947年7月12日
出身校 京都大学大学院薬学研究科博士課程修了

主な経歴
1976 年 4月 田辺製薬 入社 応用生化学研究所配属
1985年 8月 同社研究企画室 企画部
1995年 10月 同社社長室 経営企画部長
1999年 4月 同社執行役員 社長室経営企画部長
2000年 6月 同社執行役員 経営企画部長
2001年 6月 同社取締役 経営企画部長
2003年 4月 同社取締役 研究本部長
2003年 6月 同社常務取締役 研究本部長
2005年 6月 同社取締役 常務執行役員 研究本部長
2006 年 6月 同社代表取締役 専務執行役員 研究本部長
2007年10月 田辺三菱製薬 取締役 副社長執行役員
2009年 6月 同社代表取締役社長 社長執行役員
2014 年 6月 同社代表取締役会長
2016 年 6月 同社取締役会長 
現在に至る

企業プロフィール
田辺三菱製薬
2007年10月1日に田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併し発足。医療用医薬品を中心とする医薬品の製造・販売、
ヘルスケア製品等の製造・販売。
資本金:500 億円
連結売上高:4317億円(2015年度)
営業利益:949 億円(2015年度)
連結従業員数:8125 名(2016 年3月末現在)

インタビュー・文/竹林篤実
写真/大島拓也

製薬業に携わる者の矜持

―医薬品業界を取り巻く状況を、どのように見ていますか。

土屋

世の中の関心は、少子高齢化が進む中で健康寿命を伸ばすことに向かっています。高齢化の進展、医療技術の進歩等により、国民医療費は増加し続けており、このままでは保険財政が維持できません。政府は、これまで医療費抑制のために、薬の値段を引き下げる施策を中心に行ってきました。増え続ける医療費を、誰がどう負担するのか、国民的議論が必要な時期にあります。

―かといって、人の命を守るために薬は欠かせません。

土屋

その通りです。病気を治すのは薬なのです。しかも、世の中にはアンメットメディカルニーズ、つまり治療法の見つかっていない病気が、まだたくさんあります。そうした病気に苦しむ患者さんを救うために、新薬開発を怠ることはできません。製薬業の本質とは、命を救う社会貢献なのです。我々、製薬業に携わる人間は、そうした矜持を胸に日々業務に努めています。

―その矜持が経営の土台にあるということですね。2016 ~ 2020年の中期経営計画の、出だしはいかがですか。

土屋

おかげさまで2016年4月からスタートした第10 期も、順調な滑り出しとなりました。ただ、我々の利益の大半は、海外からもたらされています。国内だけでは、巨額の研究・開発費用を賄うことができない状況です。ノバルティス(スイス)に導出した多発性硬化症の治療薬ジレニアと、ヤンセン・ファーマシューティカルズ(米国)に導出した2型糖尿病治療薬のインヴォカナが、年間売上高10 億ドルを超える製品に育ってくれました。そのロイヤリティ収入が、経営基盤を支えています。

4つの挑戦で未来を切り拓く

―中期経営計画では、4つの柱が打ち出されています。

土屋

2020 年度の数値目標として売上高5000 億円、コア営業利益1000 億円と設定しています。国内3000億円、米国事業の本格展開に取り組むことにより、海外売上高2000 億円をめざします。そのために「パイプライン価値最大化」「育薬・営業強化」「米国事業展開」「業務生産性改革」という4つの挑戦を打ち出しました。製薬業は、プロダクトありきですが、研究・開発・生産・営業など、何もかもを自社だけで進める必要はありません。M&Aも含めてシナジーを出すための戦略投資を積極的に行い、アカデミアやベンチャー、他社との多様な協業形態の中から迅速な製品開発・上市に注力し、目標達成をめざします。

―同じ考え方が「パイプライン価値最大化」にも当てはまりそうです。

土屋

パイプラインとは業界用語で、開発中の新薬候補品を意味します。5年間で後期開発品10品目の創製を目標に、4000 億円以上の研究開発投資を行います。ここでも社外から創薬シーズを積極的に獲得する計画です。上市品については、重点品の価値最大化と重点疾患領域でのプレゼンス向上をめざします。

また業務生産性を高めながら、組織・要員の適正化を進めていきますが、そこで必要となるのが、一人ひとりが仕事の在り方を見直すことです。新たに始めなければならない仕事に取り組むためには、仕事の優先順位を明確にする必要があります。

同時に女性活躍推進を含めた多様な人材の活用も、重要な経営課題と捉えています。

人材育成の鍵となる3つのアクション

―経営戦略実現を担う人材は、どのように育成しますか。

土屋

言うまでもなく、人は会社の最大の財産です。私は社長を務めていた頃から「夢のある新薬を創製し、夢のある企業を実現しよう」と呼びかけ続けてきました。夢を実現するためには、次の3つのアクションが鍵となります。

第1が「自ら考えて行動する」ことです。課題に挑戦していく際には、誰でも必ず壁にぶつかるものです。目の前に障壁が立ちはだかった時に必要なのは、それを越えられない理由を並べ立てるのではなく、どうすれば壁を突破できるのかをまず自分で徹底的に考えることです。常に問題意識を持つ、ということでもあります。

第2は「1人で悩むな、1人で闘うな」です。最初から人を頼ってはいけませんが、自分でしっかり考えた後に、上司、先輩など周囲を巻き込むことがブレイクスルーにつながります。

そして第3の鍵は「学問・協業・異動のススメ」です。学問とは1人で勉強するだけでなく、社外での社会勉強も含みます。協業は、社内外、国内外を問わず周りの人の力を活用することです。そのためには、多くの人と知り合っておかなければなりません。人を知るために必要なのが異動です。福澤諭吉は1つしか言いませんでしたが、私は3つ「ススメ」を言っています(笑)。

人事異動は、絶好の成長の機会

―「異動のススメ」という意味では、会長ご自身が、多くの異動を経験されています。入社当初は研究所に配属されたとのこと。

土屋

薬学部で博士課程を修了して入社した時の夢は、患者さんを助ける革新的な新薬を創ることでした。しばしば、研究所の幹部へ自分の考えを率直に訴えてきました。言いたいことは口に出さずにいられない「逆命利君」な気質だったものですから。その後、自ら新しいところにチャレンジしたいと考えていた頃に、研究企画部への異動が叶いました。

それからまたしばらくして、経営企画部に移りました。研究所から本社の経営企画部に行く人は珍しかったと思います。けれども、いろいろな業務を経験したことが結果的にはとても良い学びになりました。自分自身、異動することにより、人を知ることができたのはもちろん、世界が広がったのです。

―身をもって異動の利点を感じたのですね。

土屋

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