J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年02月号

TOPIC ATD 2016 JAPAN SUMMITレポート 激化するグローバル競争に 人材開発担当者は何ができるか

「ATD 2016 JAPAN SUMMIT」は、2014年よりATD(米国タレント開発協会)が日経BP社と共同で、日本で開催する人材開発カンファレンスである。
競争の激しい今日のビジネス環境に対応すべく、人材開発分野の著名人が最新動向やベストプラクティスをグローバルな視点で紹介した。
本稿では、カンファレンス内の3つの一般講演の内容を報告する。
(基調講演者のロバート・O・ブリンカホフ氏の内容については34ページに一部紹介)

開催時期:2016 年11 月22 日
会 場:SMBC ホール(東京都大手町)
主 催:ATD(The Association for Talent Development)

取材・文・写真/瀧川美里

【一般講演1】なぜグローバルな視点で人財開発を捉える際に学習の神経科学が不可欠なのか

【講演者】Neuro-Link社 CEO André Vermeulen氏

第4次産業革命を生き抜くには

私たちは今、第4次産業革命の入り口にいる。バーチャルリアリティや人工知能が人間の知能と統合し、私たちの仕事や生活を変えていく。2016年の世界経済フォーラムで発表された「2020年に身につけるべきスキル」の第1位は、「複雑な問題の解決」だ。より複雑化する世界に対して人材開発の専門家は、従業員にスキルを提供して企業をけん引する準備ができているだろうか。私たちが適切なスキルを与えることで、第4次産業革命を生き延びるだけでなく、革命の中で企業をさらに伸ばすことができるのだ。

私は南アフリカで18年間、トヨタと共に仕事をする機会に恵まれた。「学習する組織」というのが彼らの戦略の1つだ。第4次産業革命の中で成長するためには、学習する組織であるということは選択肢の1つではなくマストになる。例えばトヨタの場合、彼らは従業員に対して常にマルチスキルを求める。新しく入ったインターン生は、最初の18カ月は各部門の中で複数の仕事を覚え、トヨタのビジネスを理解する。常に学び、変化に適応し、新しいシステムや技術に自分や組織を合わせるためには、メンタルの柔軟性が必要であり、それを持ち続けることが競争力の源泉となる。

競合よりも早く学ぶことだけが、唯一の持続可能な競争優位性かもしれない。私たちは、競争力を保つためには人材開発が不可欠であることを認識する必要がある。

行動の基に神経科学がある

そこで役立つものの1つに、神経科学がある。職場環境を改善したり、パフォーマンスを最大化させたりするためにも欠かせない。将来的には全てが神経科学に結びつくだろう。

例えばこの青いペットボトルのキャップ。この青色を人が見た時、脳の中で10回ほどの異なる神経伝達が起き、その動きがペットボトルを購入するかどうかの判断に影響を及ぼす。こうした神経科学を学ぶことは、いずれビジネスにおいても必須になるだろう。私たちが日々行っていることは、そのほとんどが神経科学に基づいているため、人の行動を理解するためには、科学の機能や認知の仕組みを学ぶ必要があるのだ。

脳の働きを最大化する学習方法

脳には個人差があるが、共通する部分がほとんどだ。社員に文化や教育の違いがあっても、人間としての生物的反応は同じなのである。自動車メーカーで働く人と鉱山で働く人では睡眠のパターンが違うが、神経の動きは共通している。多様な国籍の人が一緒に働く企業では、神経科学を理解する重要性が増す。

では、神経科学を基に、どういった学習を行うべきなのだろうか。

まず、学習を義務化することが必ずしも効果的とは限らない。教育者が一方的に説明するような教育ではなく、学習者が自ら答えを探したくなるようなものであるべきだ。ソーシャルラーニングという言葉があるように、人から学ぶことも大切である。いずれにせよ、学習した内容が確実に脳に定着する方法を選ばなければならない。

学習環境が、脳に優しいかどうかも重要だ。例えば、トヨタは南アフリカのトヨタの研修施設の壁に同社を象徴するグレーと赤を使おうとしたが、グレーはグレーでも、アースカラーに近い色を使用することにした。白、黒、グレーは脳によくないが、緑やベージュなどのアースカラーは創造的なプロセスを促進するからだ。色や匂い、音は行動に影響を及ぼすため、職場の環境が学習に向いているかどうかも考えなければならない。脳に合わない環境で無理をすると病気になることさえある。

また、朝の体操は脳に素晴らしい効果をもたらす。運動をして体内の血液が動くと、脳に酸素が運ばれてセンサーが活性化し、神経を効果的に動かすための準備ができる。トレーニング前のアスリートと同様、学習者も学習を始める前にウォームアップをする必要があるのだ。技術が発達するにつれて人が動かなくてもよい社会になりつつあるため、立ったまま作業できるデスクを設けたり、カーペットに足裏を刺激するボールを敷いたりして従業員の運動を促している企業もある。これはよい例だ。

成果が出ないからといって、それが全て学習者のせいとは限らない。人は知らないうちに、脳の片側ばかりを使って疲弊させたり、スイッチオフさせてしまうのである。それを防ぐためには、“脳のフィットネス”が、物理的にも精神的にも重要だ。

脳の左側は体の右側を動かし、脳の右側は体の左側を動かしているが、利き手があるように、脳にも無意識のうちによく使う「利き脳」がある。利き脳ばかりを使ってバランスを崩さぬよう、両側の脳を意識的に使うトレーニングを行うのである。例えば指で小さな輪をつくり、そこから対象物を覗くと、無意識のうちに片目でピントを合わせてしまうが、あえて両目を使ってバランスよくピントを合わせるようにする、といったことである。

さらに、睡眠不足になるとメンタルの危険信号を知らせる機能が下がり、脳の健康が保てなくなる。トラックの運転手を例にとると、きちんと睡眠をとっていない疲弊した運転手は、利き脳ではない側の脳をスイッチオフする。すると、利き脳側から発せられるアラートが聞こえなくなってしまう。このように、自分が疲れている時にどんなエラーが起こりうるかを知り、管理することが大切である。

神経伝達のデザインを測ろう

人体には電気が流れているが、その電気のように、ある人が職場でプラスのエネルギーを発すると、周りの人はプラスの影響を受ける。皆さんは、どんなエネルギーを出しているだろうか。自分のエネルギーと会社のエネルギーがマッチしていると、力をさらに発揮できる。チームのパフォーマンスが向上し、ハイパフォーミングなチームが会社を変えていく。

また個人の能力発揮で見れば、ポテンシャルがあってジェネラルスキルがある人は仕事はできるかもしれないが、ポテンシャルを十分に活かせておらず、幸せとはいえない。本当に幸せなのは、ポテンシャルに合ったスキルを身につけた人だ。楽しみながら働くことができ、100倍や1000倍もの能力を発揮できるのである。

このポテンシャルとスキルのミスマッチを防ぐには、人の神経伝達のデザインを特定し、どういうトレーニングを設計すべきかを考えることが大切だ。あなたが今、一緒に仕事をしている人は、将来アインシュタインやウォルト・ディズニーのように活躍できる人なのに、その能力を十分に活かせていないかもしれない。組織全体で幸せに働くためには、個々人がどういう神経伝達デザインを持っているかを知ることが不可欠だ。まずは一人ひとりの神経伝達デザインの測定から始めてほしい。

【一般講演2】ATD Excellence in Practice Awardの紹介:QNB Finansbankの "Career Architecture"

【講演者】QNB Finansbank Learning and Development Manager Özge Otmanbölük氏

GenerationYの学習ニーズ

QNB Finansbank はトルコで1987年にできた銀行で、国内で5番目の規模である。630拠点あり、1万3000名の従業員を抱えている。

当行では「キャリアアーキテクチャー」というプログラムを導入しており、2014年に「ATD Excellencein Practice Award」を贈呈いただいた。今回はそのプログラムの起点から発展のプロセス、そして結果をお話ししたい。

その前に、このプログラムの背景には「Generation Y」(1980年代から1990年代に生まれた世代)に特有の特徴やニーズがあることに触れておく。彼らはインターネットを空気や食べ物と同じように不可欠に捉え、モバイルを横に置いて寝る世代だ。それまでの世代とは環境やニーズが異なる。よって、企業側も彼らのニーズにマッチする教育を用意するためにアプローチを変える必要がある。

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