J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年02月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 経営ステージと現場の視点を取り入れた 育成・制度・風土の改革をめざす

自動車や住宅、橋やビル、工場などの大型構造物の塗料を製造、販売する日本ペイントホールディングスグループ。
2014年には持株会社体制に移行するなど、将来を見据えた大きな変革に取り組んでいる。そうした中、2016年4月に人事本部長に就任したのが、藤田徹朗氏だ。
藤田氏は事業系出身で海外駐在の期間も長い。 経営者としての経験も活かしながら、「経営と現場に根ざした人事改革を進めたい」と意気込む。
経営者視点の“ 改革への思い”に迫った。


日本ペイントホールディングス
上席執行役員
人事本部長※
藤田徹朗(Tetsuro Fujita) 氏
1982年日本ペイント(現 日本ペイントホールディングス)入社。千葉営業所、横浜営業所勤務を経て、1992年より9年間イギリスに駐在、2001年に帰国後、自動車塗料事業本部を経て、2005年より再度イギリス駐在。2010年からはシンガポールに駐在、2013年にはインドの現地法人のCEOを兼務。2014年より上席執行役員。2016 年4月より人事本部長。2017年1月よりアメリカ現地法人のCEOに就任。

※本稿の情報は、取材当時のものです。

日本ペイントホールディングス
1881年創業。アジアNo.1の総合塗料メーカーとして、自動車や住宅、橋梁などの大型構造物、また家電製品やオフィス機器の塗料、及び防錆性や塗膜密着性、耐久性向上などの機能を付与する表面処理剤の製造を手掛ける。2014 年に持株会社体制に移行。現在、国内グループ会社は主要4社の事業会社で展開している。
資本金:788 億6200万円
連結売上高:5357億4600万円(2016 年3月期)
連結従業員数:1万6498 名(2016 年3月31日現在)

取材・文/田邉泰子 写真/編集部

現場が分かるからできること

国内最大手、世界第4位塗料メーカー、日本ペイントホールディングス上席執行役員の藤田徹朗氏は、2016 年より人事本部長を務める。だが、藤田氏自身に人事部門の在籍経験はなく、事業畑を歩み続けてきた。

「国内営業に始まり、その後は自動車塗料事業や海外での事業展開に携わってきました。その間、イギリスの現地法人で工場を立ち上げたと思えば、シンガポールで華僑の人たちとパートナーシップを築くこともありました。機能部門の経験はありませんが、グローバルなレベルでの“現場の感覚”というものを、肌で感じ続けてきました。自分が人事本部に来た意味は、そこにあるのではないかと考え、机上の空論で終わらせない、実効性のある人事の実現をめざしています」(藤田氏、以下同)

物腰柔らかに穏やかに語る藤田氏は、いわゆる“泥臭さ”とは縁遠い印象を受ける。だが、彼が人や組織の成長の瞬間に立ち会ったのは、いつも「現場」、それも海外でのことだった。

人への思いは国や人種を越える

藤田氏は34 歳の頃、イギリスに赴任。ロンドン郊外にある町で、工場の立ち上げに関わった。5人の日本人スタッフのうち、藤田氏以外の4人はエンジニアだったため、彼らはいつも工場に張りついていた。そのため、原料調達や総務に関連する業務は、本来は営業担当のはずの藤田氏に全て回って来る。

さすがに1 人でこなすことは難しかったため、調達業務は現地社員にパートナーになってもらい行うことにした。相手はインド系の移民で、20 代前半の若者だった。彼とは日々共に仕事をこなすのはもちろん、週末には特別な時間を過ごしていた。

「当時、私の家族はロンドンに住んでいました。彼の自宅はヒースローにあったので、工場から自宅へ戻るのに、一緒に車に乗せていたのです」

工場からロンドンまで、およそ130kmのドライブだ。

「車中では仕事中に指示した内容の背景を説明することもあれば、『5年後はどうなっていたいの?』『それのためには、今何をする必要があると思う?』などと、キャリアについて一緒に考えることもありましたね」

慣れない英語でのコミュニケーションで、最初はもどかしさも感じた。だが1年ほどすると、青年も心を開き、自分の思いを語るようになった。

「英国でも、やはり見えない人種の壁が存在します。インド系の彼は、『自分は社会で駒として扱われ、使い捨てにされるのではないか』という不安を抱えていました。その不安を拭えるだけの経験と自信を、仕事を通じてどれだけ得られるかが大切だ、という話をよくしましたね。仕事中は厳しく接したこともありましたが、場所が変わるとお互いが冷静になって話し合えました」

ドライブ中のコミュニケーションを続けるうちに、彼の仕事ぶりに変化が見られるようになった。一つひとつのタスクの目的や背景を意識するようになり、言動が研ぎ澄まされていくようになったと藤田氏は振り返る。

「“数年後”という長期的な展望が人を強くすると思いましたね。目先のことにとらわれると、精神的に疲弊してくるものです」

現在この青年は、ある航空会社の調達部門のマネジャーを務めている。

「将来に目を向けた対話や動機づけが相手の意欲を左右すること、それは国や人種を越えて、全ての人に共通することだと実感しました」

思いもよらぬ雇い止めの噂

その工場にはもう一つ思い出深いエピソードがある。一度日本に帰任した藤田氏は、その4年後の2005 年、今度は経営者として工場に赴くことになった。

2009 年、工場近くにある当社の主要納入先の製造拠点がリーマンショックのあおりを受け、生産ラインが4カ月間ストップした。その影響は雇用にも及び、毎週のように100 人規模の雇い止めが生じていた。

「大量の塗料を納品していた当社にも何かしらの影響が及ぶわけで、スタッフたちも『明日は我が身』と、不安に感じていたことと思います」

そうした中、ある事件が起こる。工場内で、「うちも雇い止めが始まる」という噂が広まったのだ。聞けば、藤田氏が食堂を訪れた時に、そこにいたスタッフにたまたま気づかずに、挨拶しなかったことが発端だという。

「いつもなら“Hell o ”って声を掛けてくれるのに、今日はそれがない。スタッフは、これは怪しいと思ったようです。すると、『そういえば、今朝の日本本社との電話の様子も、何やら深刻そうだった。日本語だから分からなかったけど、きっと悪い話に違いない』と、おかしなほうへ、話が膨らんでいったのです」

すぐ側でredundancy(雇い止め)を見ているだけに、センシティブになるのも当然のことだ。

「減収に対する策を講じる必要はありましたが、スタッフの解雇は全く考えていませんでした。とはいえ、スタッフが疑心暗鬼になっているわけですから、このままではいけない。そこで、その日のうちに話をしようと、皆を集めました」

いよいよ来たか――ほとんどのスタッフはそう思ったに違いない。集められたホールには緊張が走った。

「事前に人事とも相談をし、そのうえで『解雇をするつもりはない』ということをスタッフに直接伝えました。同時に、給料の引き下げと同意書へのサインも要請したところ、全てのスタッフが応じてくれました」

修羅場体験をデザインする

この一件は、リーダーの在り方を深く考えるきっかけとなった。

「わずかな振る舞いや態度が、社員たちを勇気づけたり、不安にさせたりします。リーダーが社員に与える影響力の存在を、自覚しましたね」

経営者として、人を率いる立場として何を大切にしていくべきなのか。考え抜いた末に、藤田氏は経営者に必要な6つの観点を打ち出した(図)。

「誰に対してもフェアであり、迷いのない態度で、どのステークホルダーも支持できる方向性を示すこと、そして自分自身が強い気持ちを持ってビジネスに臨む姿勢が必要だと思いました。これらは今も自身の行動規範となっています」

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