J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年02月号

寺田佳子のまなまな 第14回 関鉄工所 社長 関英一さんに聞く ワザと絆のつなぎ方

町工場の職人たちが、ボブスレーのソリづくりでオリンピックをめざす―
そんな夢溢れるプロジェクト、「下町ボブスレー」の一員・関英一さんが今回のお相手。
ソリに必要となる膨大な数の部品を短期間でつくり上げることができた理由には、太田区の町工場が持つ、“ 仲間まわし”の文化があるといいます。
互いの強みを熟知したそのネットワークについて、実物のソリを見ながら伺いました。

関 英一(せき えいいち)氏
関鉄工所社長。工業系の専門学校を卒業後、紙器・段ボールを扱う会社に入社し、サービスエンジニアとしてリース機のメンテナンスを行う。10年間務めた後、関鉄工所に入社し、2014年に社長に就任。下町ボブスレーネットワークプロジェクトには2012年の1号機の部品加工から参加。
全日本製造業コマ大戦大田区場所では実行委員長を務める。

寺田佳子(てらだよしこ)氏
ジェイ・キャスト常務執行役員、IDコンサルティング代表取締役、日本イーラーニングコンソーシアム理事、IT人材育成事業者協議会理事、熊本大学大学院教授システム学専攻講師、日本大学生産工学部非常勤講師、ATD(タレント開発協会)会員。著書に『学ぶ気・やる気を育てる技術』(JMAM)など。https://www.facebook.com/InstructionalDesignConsulting
[写真]=鈴木卓也

迫力ある“ボブスレー”の世界

「『下町ボブスレー』、ジャマイカ代表チームの採用決定!」

「『世界最強のものづくりの技』と『世界最強の身体能力』がタッグを組んでオリンピックに挑戦!!」

このニュースに胸を熱くした“にわかボブ女子”も多かっただろう。という私もそのひとり。ボブスレーといえばテレビでしか見たことがなかったが、「氷上のF1」と呼ばれるそのスピードにドキドキし、ハイテクの粋を集めたソリのカッコよさに見惚れ、そのソリをコントロールする選手の逞しさに息をのんで、思わず「スゴイなぁ~」とつぶやいたものだ。なにしろ欧米では、イタリアのフェラーリ、ドイツのBMW、イギリスのマクラーレンと、有名自動車メーカーがナショナルチームのソリを開発するため、国の威信をかけた技術力の闘いともいわれるスポーツである。

そんな世界に、東京都大田区の町工場の技術者たちのソリがデビューしたのである。

そのうえ、映画『クール・ランニング』(1993年・アメリカ)の舞台で、レゲエ・ミュージックの本場で、ウサイン・ボルトの故郷でもあるジャマイカの選手が、メイド・イン・ジャパンのソリに乗るというのだ。事実は映画より面白い、ではないか!

町工場に活気を取り戻したい

それにしても、いったいなぜ、大田区とジャマイカとボブスレーが結びついたのか。その答えを探しに“にわかボブ女子”が大田区へ向かうと、町工場の2階に、「下町ボブスレー」最新鋭の7号機が待っていた。

全長3m余り、重さ約200kg。堂々たるボディの上部をジャパンカラーの赤に染めたその姿は、「早く氷の上を滑りたくて」うずうずしているようにも見える。

そしてその7号機に寄り添うように立っているのが、このプロジェクトの中心メンバーのひとり、関鉄工所社長の関英一さん。今回の“まなまな”のお相手である。

あら、ボブスレーって、想像していたよりスマートで綺麗ですね。

「でも、選手が乗って帰ってくると傷だらけになってて。一生懸命戦ってきたんだなぁ、と思いますよ」と愛おしそうに語る。

傍目にはもはやソリと一心同体の関さんだが、2011年に下町ボブスレーネットワークプロジェクトが始まった頃は、「ボブスレーって何?」という状態だったそうだ。

大田区はものづくりの町として有名だが、バブル崩壊前には9000社以上あった町工場も、リーマンショック、東日本大震災を経て、約3500社に減少。もう一度町の活気を取り戻したい、と大田区産業振興協会の職員が書いた企画書が、このプロジェクトの始まりだった。優れた技術を活かせるもの、大手企業がやっていないもの、そして次世代のものづくりに役立つものとは……。その答えが、金属加工のワザと、軽量・高強度素材、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を合体させて開発する「ボブスレー」だったのだ。

技術者の心に火を点けた

「その時は誰も、ボブスレーを見たことも、触ったことも、もちろん乗ったこともなかったんですよ」と関さん。「ホントにつくるの?」という声もあった。

話だけでは分からない。とにかくモノを作って“JIMTOF(日本国際工作機械見本市)”に展示しよう、ということになった。

とはいえ、設計図や見本があるわけではない。じゃあ、古いボブスレーを借りてきて解体してみようと実機を目の前にした途端、技術者たちのものづくりの情熱に火が点いた。

「僕らは普段、車の部品などの“見えない部品”をつくっています。だから、自分たちの手で“見える製品”をつくれることがすごくうれしかったんです。『ほら、あのボブスレーの足のところはお父さんの会社でつくったんだよ』と子どもに言えるなって」

早速、解体した約200点の部品を見ながら、図面を起こした。そして約150枚の図面を並べ、町工場30社の仲間たちに、図面通りに部品をつくってほしいと頼んだ。それもボランティアで!

見本市まで残された時間はあとわずか。10日で部品を仕上げなければ間に合わない。とんでもないスケジュールだが、図面は全て各町工場へと持ち帰られた。

「大田区の町工場はそれぞれが高度な得意ワザを持っている専門業者です。お互いできることはよく分かっているんです」

しかし、町工場の二代目・三代目が多いメンバーは、図面を持ち帰ってはたと困った。お金にならない仕事を、生産ラインに乗せることは難しい。

父親や工場長に隠れてこっそり作業をする人もいて、三代目の関さんも、

「『見たことない部品だけど、何だこれ?』とオヤジに言われて、『あぁ、それ、新規のお客さんのやつ』なんてとぼけたこともありました(笑)」

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